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言わせて貰うなら、セックスなんてのは単なる行為のひとつに過ぎない。少なくともあたしはそう思ってる。 愛情がなくったって出来るし、何の証明にもならない。セックスしたから彼はわたしの物♪なんて、おかちめんこな考え方は噴飯物だ。一時の気の迷いで、そうひょいひょいと人の所有権を移動させないでほしい。 結局その考えは、あたしこと涼宮ハルヒが実際にセックスを経験した後も、特に変わる事はなかった。だからやっぱり、セックスなんてただの行為なのだ。 「おっそーい! キョンの奴!」 一年を4分割するのなら9月は秋に分配されて然るべきはずなのに、その日は朝から猛烈に暑かった。残暑なんてものは馬の尻尾にくくりつけて、そのまま蹴っ飛ばしてしまいたい。 実際にはくくりつける事も蹴っ飛ばす事も出来ないので、あたしは腕組みをして駅前広場の時計を睨みながら、ひたすら不機嫌な声を張り上げていた。 「ホントにもーっ、何やってんのよ!」 「まあまあ涼宮さん。まだ待ち合わせ時刻から10分ほどしか経っていませんし」 「他のみんなはもう集まってるでしょ!? せっかくSOS団の末席に加えてあげてるっていうのに、団員としての自覚が足らないわ! だいたいね? 下っぱのキョンが団長であるこのあたしを待たせるだなんて、まったくの論外よ! ロンのガイよ!」 あたしの怒声に、古泉くんは参りましたねと肩をすくめるばかりだった。あー、何か違う。やっぱり古泉くんが相手だと何かこう、しっくり来ない。これはもう今日は徹底的にキョンの奴を吊るし上げなけりゃだわ! 「うス。すまん、遅れた」 噂をすれば何とやらね。しょぼい顔してやってきたキョンを、あたしは出来うる限りの厳しい眼光で迎えてやったわ。 さー、どうとっちめてやろうかしら。明らかに寝不足っぽい顔しちゃって、どうせまたつまんない理由で夜更かしでもしてたのよきっと。 「理由…言わなきゃダメか?」 「当ったり前でしょ! あんた一人のせいで、あたし達がどれだけ迷惑したと思ってんの!」 「あのぅ、涼宮さん…わたしはそれほど迷惑とは…」 「みくるちゃんは黙ってて!」 「ひゃ、ひゃいっ!」 「これは団の規律の問題なのよ。さあ、ちゃっちゃと吐きなさい、キョン!」 ゲームか漫画か、それとも深夜映画にでもハマってたのか。わくわく気分で問い詰めるあたしに、キョンはむっつりした顔で、こう答えた。 「昨日、中学の同級生だった奴の葬式に行ってきたんだよ」 「そうですか、海難事故で」 「ああ。夜釣りの最中に高波にさらわれて、朝、浜に打ち上げられた時にはもう冷たくなってたとか。人間なんて本当、はかないもんさ」 古泉くんに素っ気なく応じると、キョンはずちゅーとアイスコーヒーをすすり上げた。事故の件を話すのがつらいというより、喫茶店に移ってきてまでこんな暗い話題で雰囲気を盛り下げたくない、といった感じだ。 まあ確かに、日曜の朝に聞きたい類の話じゃない。正直、気分が滅入る。ああ、だからキョンはさっき言いたくなさそうにしてたのか。…って事はなに? 今のしんみりした空気って、ムリヤリ聞き出したあたしのせい? 「でも、キョン! そもそも昨日の時点で用事がお葬式だってこと、なんであたしに言わなかったのよ!?」 なんだか責任転嫁のような感じで、あたしは話を蒸し返していた。そう、本来は昨日の土曜日に定期パトロールが行われる予定だったのに、直前になってキョンが用事があると言いだしたから、一日ずらしてみんな集まっているのだ。 でもってキョンの奴は、あたしが訊いても口をもごもごさせて、何の用事かははっきりと言わなかった。今朝からあたしの気分が優れなかったのも、半分くらいはそーゆーキョンのぐだぐだした態度にイラついてたせいだ。結論、うんやっぱりキョンが悪い! 「最初は、葬式に出る気なかったんだよ。つい直前までな」 あっさりと、キョンはそう白状した。…おかしい、どうも今日は調子が狂う。 いつものキョンなら吊るし上げをくらっても、なんだかんだとあたしに抵抗しようとするのに。その往生際の悪さが見てて楽しいのに。 「1、2年の時に同じクラスだったってだけの奴で、すごく仲が良かったわけでもなかったし。高校も結局、別の所に行っちまったしな。 俺が行って手を合わせた所で、奴が生き返るはずもなし。でも国木田の奴に、焼香くらいは、って誘われてね」 国木田か。なるほど、付き合いのいい方ではあるわね。でも、ちょっと待って? 特に仲が良かったわけじゃあない? 見回せばあたし同様、キョン以外のみんなが頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた(有希はパッと見、そうとは分からないけど)。それならどうして、寝不足になるくらい思いつめたりすんのよ。 「別に今生の別れに一晩中泣き明かしたりしたわけじゃねえよ。ただ、なんて言うかな…。 葬式のあとで、国木田が言ったんだ。なんだか全然、現実味がないねって」 まるでそういう風に話すよう造られた自動人形みたいに、キョンは淡々と語っていた。 「家に帰ってから俺、卒業アルバムを開いてみたんだ。そしたら確かに、一緒の頃の思い出の方が生々しくって、あいつが死んじまったって現実の方が絵空事みたいな感じなんだよ。 でもやっぱり、あいつが居ないこの世界の方が現実で」 ふう、とキョンがひとつ息を吐くと、微かにコーヒーの匂いが漂った。 「実は俺、ほんのしばらく前にそいつと話してるんだよな。下校途中にサンダル履きのあいつと、ばったり出くわしてさ。そのままコンビニの前で30分ばかりくっちゃべってた」 「その人、何か特別な事でも言ってたの?」 「いや、全然。今じゃ内容さえ憶えてないような、そんな程度の会話だった。 でもそれは、あいつとは逢おうと思えばいつでも逢える、話そうと思えばいくらでも話せる、そう思ってたからで。それが気が付いたら、そうじゃなくなってて――。何だろうな、こういう感じ。心にぽっかり穴が空いた、とでも言うのか?」 「ふん、ボキャブラリーが貧困ね」 わざときつく揶揄してやったのに、あいつはムッとした表情さえ見せなかった。やっぱり変だ。やっぱり今日のキョンは、何かおかしい。 「そりゃ失敬。じゃあ教えてくれよ、こういう気分ってなんて表現するべきなんだ?」 「何って、それは…」 「………虚無感」 「おお、さすが長門。ん、まあそんな感じだな」 有希に向かって大きく頷くキョンの顔を、あたしはストローの先のクリームソーダを最大肺活量で吸い上げつつ、仏頂面で眺めていた。 キョム感ね、キョンだけに。…いろんな意味で面白くない駄ジャレだわ。 「そのぅ、えっと…元気出してくださいね、キョンくん…」 「おお、この俺の身をそんなに心配してくれますか! いやあ、朝比奈さんは本当に心優しいお人だなあ」 今のキョンはみくるちゃんの掛けた言葉に、やけに愛想良く受け答えてる。みくるちゃん相手にはやたら調子がいいのはいつもの事だけど…今日はなんだか特に造り物みたいな笑顔ね。無性にはたきたくなるわ。 そんな風に思っていると、キョンの奴は不意にこちらを向いた。 「ま、そんな事がありましたよって事で。人間なんて明日どうなってるか分からないから、みんなもせめて事故とかには気をつけろよな。特にハルヒ」 ちょ!? なんであたしだけ名指しなのよ! 「お前が直情径行の向こう見ずで、後先考えずに動くからだ。 さて、それじゃ不思議探索パトロールに出掛けますかね、と。今日はもう俺の罰金で確定なんだろ?」 恒例のクジ引きで同班になったみくるちゃんをいざなって、キョンは伝票をひらひらさせながら会計へと向かった。 むー。つまんない。あたしは『キョンに罰金を払わせるのが』ではなく、『罰金を払わされる時のキョンの情けない顔が』楽しいのに。つまんないつまんない! 「どうかしましたか、涼宮さん?」 よっぽどあたしはむくれていたのだろうか。喫茶店を出るなり、古泉くんがそう声を掛けてきた。 「ねえ有希、古泉くん。今日のキョン、なんかおかしいわよね?」 遠回しな物言いは好きじゃない。あたしがズバリ訊ねると、古泉くんと有希はしばらく顔を見合わせて、それから二人揃って頷いた。古泉くんはともかく、有希も肯定しているからにはやっぱりそうなのだ。 「そうですね、これはまあ概念的な事柄なのですが。 人は大なり小なり、明日への不安を胸に抱いているものです。もしかしたら大地震が起こるかもしれないし、空から隕石が降ってくるかもしれない。はたまた、悪意を持った異星人が大挙して地球を侵略しに来たりするかも…」 いきなりそんな事を語り始めたかと思うと、古泉くんはしばし、あたしと有希の顔をちらちらと見比べた。今の間は何なんだろう、一体。 「…とまで言ってしまうと、さすがに何でもありになってしまいますが。不慮の交通事故などは、誰の身にだって起こり得るわけです。 さて、そんな時。たとえば明日死ぬかもしれないという時に、やりたくもない宿題をやる気になる人が居ますか? いえ、それどころか自分にとっての宝物さえ、もしも明日無になるとしたら、途端に色褪せて見えるのではありませんか?」 「えっ? でもだって、そんなのは…」 「はい、その通りです。予測できない不幸、というのは可能性としてはあり得るのですが、それを気に病みすぎていては何も出来ません。 だから人は基本的に、その可能性を無視しています。もしくは保険に加入するなどの次善策を用意するか、ですね。しかしながら“死”というのは、人が逃れえない宿命のひとつでして…」 と、ここで一度言葉を止めた古泉くんは、ああまたやってしまったとでも言いたげな微苦笑で頭を振った。まあ、古泉くんのセリフが芝居がかってるのはいつもの事だけど。 「結論を述べましょう。今の彼は、軽い躁鬱病の状態にあると思われます。 ご友人のように、自分も明日にはいなくなっているかもしれない。ならば自分の生に一体何の意味があるのか――そんな問答に囚われてまんじりともできないでいる、といった所でしょうか」 「有希の言ってた、虚無感って奴?」 「おそらくは。実を言えば僕自身、まだ同年代の人間の死に直面した経験はないもので、先程の彼のお話には、多少なりともショックを受けました。もしかしたら『大人になる』というのは、こうしたショックに慣れていく事なのかもしれませんね」 ショックだった割には、いつもと同じ笑顔で話してる気がするけど。そうね、古泉くんが言いたい事はだいたい分かるわ。 でも、だったらあたしは敢えて大人になんかなりたくないかな。親とか身近な人を失くす悲しみに慣れるだなんて、そんな事は………え? 失くす? 誰を? その時のあたしは、どんな顔をしていただろうか。ともかく、気付けばこんな言葉があたしの口をついて出ていた。 「あのさ、有希、古泉くん。ちょっと話があるんだけど」 「はあ、午後の調査を彼と二人で」 「…………」 その、別にヘンな意味じゃないのよ? ただキョンの奴のスッポ抜けぶりが見るに見かねるというか、ほら、団長の責務として…! 「素晴らしい。さすがは涼宮さんだ」 「へ?」 「僕達も彼の不調が気にかかってはいたのです。しかしながら、いかんせんどうやって励ましたら良いものか、妙案が浮かばないものでして。 ですが、団長自らがケアをなさってくださるというのなら、もう安心ですね。どうぞ彼の事をよろしくお願いします、涼宮さん」 ま、任せときなさい! 団員の心の悩みを受け止めてあげるのも団長の務め! 一切合財あたしに預ければ、全てこれ解決よ! と、あたしがガゼン張り切っていると。 「ふむ、ですがそうするには…長門さん、ちょっといいですか?」 古泉くんが有希を道端に連れてって、ひそひそ相談を始めた。ん? この光景、なんとなく前にも見たような覚えがあるんだけど。市民野球大会の時だっけ? それともデジャビュって奴かしら。 「お待たせしました。では、午後のクジ引きは長門さんにお願いする事にいたしましょう。実は彼女、少々手品の心得があるそうで」 「へえ、それ初耳。有希、本当に出来るの?」 「………可能」 「公平公正なゲームを愛する僕としては、こういうインチキはあまり推奨したくはないのですが。 しかしながら彼はある意味、涼宮さんの対極というか、石橋を叩いて渡らないような、非常にアマノジャクな性格の持ち主ですからね。変なお膳立てをしてしまうと、かえって反発しかねません。ここはあくまで偶然を装うとしましょう」 古泉くんの言に、あたしは大きく頷いた。まったく、キョンの奴があたしのナイスなアイデアに、素直に賛同した事など一度もない。いつもつまらない常識論を持ち出して、あたしの発展的行動に難癖を付けたがるのだあいつは。 あんたみたいな奴の事を、これだけ気に掛けてあげるのはあたし達くらいのものよ? 友に恵まれた事をせいぜい感謝なさい、キョン! 「素直じゃない、という点ではどっちもどっちというか、お似合いなんですけどね」 「何か言った、古泉くん?」 「いえ、別に何も」 「ふうん? まあいいわ。今回はウソも方便って事で、有希、お願いね」 あたしの依頼に、有希は黙って頷いた。沈黙は金だとかいうけど、本当にいざという時には頼りになる娘だ。キョンの数千倍は役に立つわね。 って頷いた後も有希はしばらく、深遠の瞳であたしを見続けていた。ん、なに? 「彼の言っていたのはある面での、真理」 彼って、キョンのこと? 「そう。価値観は主に相対性によって生ずる。最初から何も無かった状態に比して、あるはずだったものをなくしてしまった際の喪失感は、絶大」 「あんたにも、そんな経験あるわけ?」 「11日前、帰宅すると作り置きのカレーが、全て痛んでいた。その日はお茶だけ飲んで過ごした。カレーに黙祷を捧げた…」 「そ、そう」 カレーと人命を同列に語っちゃうのもどうかしら。ああ、でも自炊してる人にとっては食料問題は死活ラインなのか。よく分かんないけど。 「決まりですね。では、我々も出発しましょうか」 「あ、うん、そうね」 なんだか分からない内に古泉くんに促されて、あたし達もまた午前のパトロールに出立した。うーむ、やっぱりどうにも調子が狂ってるぽい。いつもなら当然のように、このあたしが号令を掛けているはずなのに。 結局、午前の部はただひたすら暑い中を歩き回るだけに終始した。不思議を探すより何より、あたしの心には踏んづけたガムみたいに、さっきの有希のセリフがべたりとこびり付いていたのだ。 『彼の言っていたのはある面での、真理』 あるはずだったものを失くしてしまって、心にぽっかり穴が空いたようだ、とキョンは言っていた。有希はそれを真理だと言う。古泉くんは、人は大なり小なり、明日への不安を胸に抱いているものだと言っていた。 そうだ、今のあたしも多分、何かしらの不安を抱えている。でも、それは…一体なんだろう? あたしは何を失くす事を恐れてるの? そんな疑念が、歩くたびに靴底で耳障りな音を立てている、ような気がした。 「珍しいな、この組み合わせってのも」 「あー、うん、そうかも、ね」 キョンの何気ない呟きに、午後のあたしはちょっとばかり居心地の悪い気分で頷いていた。本当の事を知ったら怒るかな、キョン。 「つか、古泉の野郎が羨ましい」 前言撤回。このバカ相手に、罪悪感など微塵も感じてやる必要なんか無い。あたしは渾身の力でキョンの尻をつねり上げてやった。 「神聖なSOS団の活動を一体何だと思ってんのあんたは!」 「うぐあっ!? い、いやスマン、冗談だ…」 だいたい古泉くんは、午前もあたしと有希で両手に花だったでしょうが!? どうしてあの時は羨ましがらないで今は………あ、いや。いやいや。 あ、あたしが怒ってるのはそんな事なんかじゃないわ! そう、キョンの奴がここでもやっぱり素直に謝ってるからよ! だから、調子が狂うって言ってるでしょ! いや言ってないけど! いつものあんたなら、もっとこう…その、歯応えがあるっていうか…そこいらのくだらない男連中とはちょっとは何かが違うっていうか…。 「どうしたんだ、ハルヒ? どこに向かうんだか、さっさと決めてくれよ」 こここ、この鈍感男めぇ! 人がこんなに気を揉んでやってるのも知らないでッ! あたしはよっぽど、公園の砂場を掘り返してこの唐変木を頭から埋めてやろうかと思ったけど、今世紀最大の自制心を働かせて、なんとかそれを堪えた。いけないいけない。古泉くんの言によれば、キョンの奴は今、ちょっとばかり精神を病んでいるのだ。団長として大目に見てやらなければだわ。 ――治ったら覚悟しなさいよね、このバカキョン! 「いいからっ! あんたは黙ってあたしについてきなさい!」 「へーへー、団長様の仰せのままに」 とりあえず、そういう事にして歩き始めたけど…はてさて、これから一体どうしたらいいもんだか? 実の所あたしは、本当に有希の手品とやらがうまく行くのかなーとか、行ったら行ったでキョンの奴、あたしとペアの組み合わせをどう思うのかなーとか、そんな事ばかりを考えてたもんだから。具体的にどうやってキョンを元気づけたげようとか、全く考えてなかったのよ! うそ、どうしよう。まるで小堺一機のお昼の番組にいきなりむりやり出演させられて、サイコロ振らされたような気分だわ。何が出るかな♪何が出るかな♪ ちょっとドキッとした話、略して「ちょドばーなー」って、だから何も用意してないんだってばっ! 『団長自らがケアをなさってくださるというのなら、もう安心ですね。どうぞ彼の事をよろしくお願いします』 プレッシャーが具現化したのか、さっきの古泉くんのセリフが耳にこだまする。あたしは空の彼方に浮かんだあの爽やか笑顔に、無言のパンチを打ち込んだ。 『おやおやひどいですねフフフ』 ええい、回想なんだからさっさと消えなさい! 「おい、どうしたんだハルヒ。道端でいきなり拳振り回したりして…?」 「虫よ! 虫がいたのニヤケ虫が!」 語気も荒く振り返って…あたしはキョンの背後の壁に、ふと一枚の看板を発見した。 (あ、やだ…。やみくもに歩き回ってたら、こんな方向に…) 途端、あたしの頬が熱を帯びる。そこは駅の裏手辺りにありがちな一画で、男女がペアで歩いてたりしたら、いわれのない誤解を受ける可能性が非常に高い場所というか何というか…。あーっ、もう! ハッキリ言ったげるわ! あたしにはやましい点なんかこれっぽっちも無いし! ホテル街よホテル街! そこはいわゆるホテル街だったのよ! 「おい、ハルヒ」 その時、いきなりキョンに声を掛けられて、あたしは背中をぴきぴきっと引きつらせてしまった。な、ななな、何よ!? あんたまさか、ヘンな勘違いしてるんじゃないでしょうね! あ、あたしは別にそんなつもりで、こんな所にあんたを連れてきたわけじゃ…。 「実は今、朝見たテレビの占いコーナーを思い出したんだけどな。今日の風水じゃ、こっちの方角は俺にとって猛烈に運勢が悪いらしいんだ、これが」 「え、そ、そうなの?」 「できれば別方向に探索に行きたいんだが。ダメか?」 「そういう事なら、し、仕方ないわね。じゃあ…」 表面上は不服そうな顔をしてたけど、本音を言えばキョンの言葉は渡りに船で、あたしはそそくさとこの場を離れ―― ――ようとして、はた、と疑問の壁にぶち当たった。ちょっと。ちょっと待ちなさいよ、キョン。あんた、今朝はあんなやつれた顔で遅刻してきたんじゃない。朝の占いなんか見てる余裕あったわけ? そもそも、あんたってば占いとかそういう類は否定はしないけど肯定もしないってタイプだったでしょうが。まさか、あんた…。 気が付けば、あたしは奥歯を軋むくらいに噛みしめていた。くやしい、くやしいくやしい! 今は、あたしがキョンの事を気遣ってやらなきゃならないはずなのに…! それなのに、どうしてあたしがキョンに気遣われてるのよ!? 北高に入学したばかりの頃、つまらないつまらないと窓の外ばかり眺めてたあたしに、キョンは何やかやと話しかけてくれた。頬杖をついてふてくされた表情のままだったけど、あたしは内心、それがとても嬉しかった。 だから、だから今日は、あたしの番だと思ったのに…あたしはすごく張り切ってたのに! 実際にはあたしには何の手立ても無くて、逆にキョンに気遣われてる。あたしの尊厳を傷つけないように、自分の都合を押し付けるようなフリまでしちゃって…なに格好つけてるのよ、キョンのくせに! 後になって冷静に思い返すなら、あの時のあたしは、ちょっと普通じゃなかったと思う。小さな子供が親の前で格好良い所を見せようと背伸びするように、ただひたすら、キョンに自分の優位性を誇示したかったのだ。あいつの優しさに甘えてばかりの自分に我慢がならなかったのだ、と思う。 あとまあ本当に本音の事を言えば、この状況で「逃げ」を選択したキョンに、“女”として依怙地になっていたのかもしれない、けど。 ともかく、あたしが求めたのはキョンに対する逆襲手段であり…現在のこの状況、そして今朝からの出来事を鑑みた結果、あたしの頭の中で、ぺかっと何かが閃いたのだった。 そのアイデアに手段、結果推測などがパズルのようにカチカチとはまっていき、たちまちひとつの仮法案になる。あたしの脳内では『涼宮ハルヒ百人委員会』が召集されて、すぐさま“それ”が提議された。 議事堂の半円状の議席にずらりと居並ぶ、スーツ姿のあたし達。その中で、立ち上がったあたしAが腕を振り、口から泡を飛ばす。 「本当に“これ”を採択して良いのですか? あとで後悔する事にはなりませんか!?」 「正直、その可能性は否定できません。ですがもしも採択しなければ、それはそれで後悔する事になるかとわたしは思います!」 あたしAの質疑に、敢然と答えるあたしB。周囲の大多数のあたしの中からは、やんややんやと歓声と拍手。一部では天を仰ぎ失望の息を洩らすあたしや、口をアヒルみたいにしてケッとか呟いてるあたしも。 「静粛に! それではこれより決議に移ります。賛成の方は挙手を」 議長服のあたしがコンコン!と木槌を叩き、採決が始まる。その結果、賛成87票、反対5票、棄権8票で、“それ”は可決されたのだった。 「うん、決めた!」 満足できる結論に達して、あたしは大きく頷いた。自問自答の時間は、正味1分も無かったかもしれない。 ともかく、一度こうと決めたらただちにスタートするのが涼宮ハルヒ流だ。くるりと踵を返したあたしは、キョンの奴が 「ハルヒ? どうかしたのか?」 と小首を傾げた、そのシャツの胸倉を引っ掴んで、真正面からあいつを見据えてやった。制服のブレザーだったら、ネクタイを捻り上げている所ね。 「いい、キョン? 自分じゃ気付いてないんでしょうけど、あんたは今、ちょっとした心のビョーキなの。分かる?」 「はぁ? 何をいきな」 「黙って聞きなさい! だからこれから、あたしがあんたを治療してあげるって言ってんの! いい? 分かったら四の五の言うんじゃないわよ!」 「お、おい待てハルヒ、そこは…」 四の五の言うなと釘を刺したにも関わらず、ゴニョゴニョ言いかけるキョンの呟きを全く無視して、あたしは標的と定めた建物に突撃した。ほとんど拉致みたいな形だけど、仕方がない。正直、あたしは顔から火が出そうでとてもじっとしてはいられなかったし、それに、ありえないと思いつつも万が一、億が一、キョンに拒否られたらとか思ったら、その…。 えーいもう、仕方がなかったって言ってるでしょ!? キョンの奴には主体性って物がまるで無いんだし! あいつの方からあたしをリードできるだけの甲斐性があれば、あたしだってこんな強硬手段を採ったりはしないのよ、うん! そういうワケで仕方なく、キョンを引っさげたあたしは道場破りみたいな面持ちと勢いで、その建物に乗り込んだのだった。通りには他に何組かカップルがいたけど、こういう時に人目を気にしたら負けよね。じゃあなんでお前の耳や頬はこんなにも火照ってるのかって、そんな事はいちいち訊くもんじゃないわ。 結局の所、そこはあたしがこの界隈に来て最初に看板を発見した白い建物で。外壁に提げられたその看板には、 【デイタイムサービス ご休憩3時間 3200円】 といった記述がなされていたのだった。 「ふうん…これがラブホって所なんだ…」 ちょっとした感慨を込めて、あたしは呟いた。てっきりピンク色の照明なんかがギラギラ光ったりしてるのかと思ってたら、何というか普通のホテルにカラオケボックスを合体させたような感じだ。部屋の広さに比べるとベッドが結構大きくって、あとティッシュやら何やらが脇に置いてあるのが、なんだか生々しい。 「…正確にはファッションホテルだかブティックホテルだかと呼ぶべきらしいぞ」 あたしの手で部屋に放り込まれたキョンが、カーペットに膝をついた格好でげほげほ咳き込みながらそんな事を言う。まったく、役にも立たない知識だけは豊富な奴ね。 などと思ってたら、キョンの奴は下から、じろりといった感じであたしを見上げた。 「やれやれ。俺もいいかげん、団長様の行動の突飛さにも慣れてきたかと思ってたんだが。とんだ思い過ごしだったみたいだぜ。 なんだ? まさか今日の不思議パトロールは女体の神秘を探検よ!とか言うんじゃないだろうな」 困惑ぎみのキョンの表情に、あたしは少しだけ、胸がスッとするのを覚えた。もっともっと、キョンの奴を困らせてやりた…あ、いや、違う違う。今日ばかりはあたしの都合は二の次なんだったわ。 決意も新たに、あたしは両の拳を腰に当てて前に身を屈め、キョンの顔を上から覗き込んでやった。どうにかして、こいつを励ましてあげなけりゃね! 「もし『そのまさかよ!』って言ったら、あんたはどうするわけ」 「なんだって?」 「本当の事を言うと、あたし、前々からあんたの恩着せがましい所にちょっとムカついてたのよね。あたしが何か命令するたびにさ、あんた、諦め顔で『あーもー好きなようにしてくれ』とか言うじゃない。あたし、アレがいっつも気に喰わなかったのよ。 えーと、だから、その…今日はその意趣返しっていうか」 少し言葉を詰まらせながら、あたしはそう喋っていた。う~む、論理展開に若干のムリがあるかも? いやいや、ここは強気で押し通すべきよ。 「つまり! 今は、この場所でだけはいつもの逆で…あたしの事をあんたの好きなようにさせてやろう、って話なのよ。分かった!?」 そう言い切るとあたしはベッドに歩み寄って、キョンに相対するように、ぽすんと腰を下ろした。ミニスカートから伸びる足を組んで、腕組みをして…キョンをまっすぐ見るのはさすがに気恥ずかしいので、フンと顔を横に向ける。 「あんたが、女の子の秘密を知りたいって言うんなら…別に構わないって、あたしはそう言ってるのよ…」 ともかく伝えるだけの事は伝えたので、あたしはそっぽを向いたまま、キョンの出方を待っていた。 ううう、なんともこうムズ痒い気分だわ! 普段のあたしは 「キョン! そこの荷物持ってついてらっしゃい!」 「キョン! ここはあんたのオゴリだからね!」 とか命令形で話してるものだから、こういう雰囲気はどうも落ち着かない。だからって、まさか 「キョン! あたしにエッチな事してスッキリしなさい!」 なんて言えるはずも無いし。 う~、でもあたしが憂鬱だった時にキョンが話しかけてきてくれたように、あたしもキョンの奴を刺激してやる事には成功したはずだわ。ちょっと方法が過激だったかもしんないけど。でもこういうのって、いつかは誰かと経験する事で――。じゃあ、その最初の相手がキョンでも別に悪くはないかなって、あたしは思ったの。少なくとも今の所は、他の誰かとする事なんて想像できないし。 ついひねくれた物言いになっちゃったけど、さっきのセリフだって、決してウソじゃない。いつもはこき使うばっかりで、「お疲れさま」とか面と向かって言う事もなかなか出来ないから…だから今日くらい、こういう形でキョンの労をねぎらってあげたって、バチは当たらないわよ、ね? とにかく、あたしは賽を投げつけてやったわ! あんたはどう出るのよ、キョン!? …と、振ってはみたものの。正直あたしの予想では、キョンが手を出してくる可能性は30%って所かな。「もっと自分を大事にしろ」だとか、当たり障りのない逃げ口上を使ってくるのが一番確率が高い。仕方ないわね。なにしろ、キョンだし。 まあ、あたしとしては別にどっちでも構わないのよ。キョンの奴に、あたしを抱こうとするだけの覚悟があるんなら、それは嬉しい誤算だし。必死になってどうにかあたしを説得しようとするんなら、それはいつも通りのあたしとあいつの関係に戻る、っていう事だもの。 どっちにせよ、あたしがあんたの事を気に掛けてる、その気持ちだけは伝わるはずだとあたしは思っていた。だから、悪いように事が転がったりするはずがないとあたしは信じていた。でも実際には――キョンの反応は、あたしが想像し得なかったものだったのだ。 「…なあ、ハルヒ。『好奇心、猫をも殺す』って言葉、知ってるか?」 「えっ?」 「今のお前のためにあるような、外国のことわざだよ」 むくり、と身を起こしたキョンは、そうしてゆっくりあたしの方へ歩み寄ってくる。部屋の照明は薄暗くて、その表情はハッキリとは見て取れなかったけど、ただなんとなくキョンの体の周りに、うすどんよりとした空気が漂っている、ような気がした。 「キョ、キョン?」 あたしの呼びかけにも応じず、キョンは黙ったままこちらに向かって片手を差し出してきた。あたしの左頬に、キョンの右の手の平が添えられる。 いつものあたしだったら、ここはドキドキしまくりな場面だろう。心臓の鼓動をなだめるのに必死なはずだ。でも今は何か、何かが違う。ちっとも心がときめかない。どうしちゃったの、キョン? 今のあんた、何か、こわいよ…? 「先に謝っとくぞ、ハルヒ。すまん」 少し右手を引きながら、キョンがそう呟く。それからすぐに、ぱしん、という乾いた音があたしの顔のすぐ傍で起こった。 頬をはたかれたのだ、という事を理解するのに、あたしの脳は、それから数十秒の時間を要した。 痛くはない。多分、トランプやら何やらの罰ゲームでしっぺやウメボシを喰らった方が痛い。ただ、キョンに叩かれた、という事実に頭の中が真っ白になってしまっているあたしに向かって、キョンはうめくような声を絞り出していた。 「でもな? 俺にだって許しがたい事ってのはあるんだよ。いいか、これだけは言っとくぞ。俺は間違っても、お前の身体が目当てでSOS団の活動に参加してたわけじゃない!」 あたしはただ、唖然としていた。あたしを睨み据えるキョンの瞳には、確かに憎しみと哀しみの色が入り混じっていた。 「ご褒美に身体を自由にさせてやるだと? 馬の目の前にニンジンでもぶら下げたつもりかよ。そうすれば男なんか、みんな大喜びだとか思ってたのかよ!? 俺も、そんな野郎の一人だと思ってたのかよ――。ふざけんな、人を馬鹿にするのも大概にしろ!!」 いつの間にか、キョンの感情のボルテージは急上昇していた。その怒声が、あたし達のかりそめの宿の中いっぱいに響き渡る。 その後、急速に静寂が訪れて…あたしの耳には備え付けの冷蔵庫の低いブーンという駆動音だけが、ただ虚ろに届いていた。 どうして――どうしてこんな事になってしまったのか。 キョンに頬をはたかれたショックに引きずられながら、それでもあたしは、ひたすらに考え続けていた。 躁鬱病だか何だか知らないが、たかだか心の病気くらいで女の子に手を上げるような、キョンは決してそんな人間では無い。何か、何か理由があるはずなのだ。こいつがここまで激昂するワケが。その証拠に、あたしを見下ろしているキョンの表情は、ひどく悲しく、悔しそうに見える。まるで自分の尊厳を、根こそぎ踏みにじられたような…。 そこまで考えた時、あたしはさっきのキョンのセリフをもう一度思い返してみた。キョンの立場になって、もう一度その意味を考え直して――そして、やっと自分のあやまちに気が付いた。 ああ。ああ、そうか。そうだったんだ。キョンの奴は…口ではなんだかんだ言いながら、こいつはこいつなりに、SOS団の活動に誇りを抱いていたんだ…。 そうよ、あたし自身が何度もキョンに言ってたんじゃない。この不思議探索はデートじゃないのよ、真面目にやんなさい!って。 キョンの奴が大した成果を上げた事はなかったけど、それでもちゃんとSOS団の一員としての自覚は持ってたんだ。こいつはその誇りを、胸に秘めていたんだ。 なのに団長たるこのあたし自らが、午後のパトロール任務を放り出して相方をラブホに連れ込むようなマネをしたら、それは「ひどい冒涜」だと受け取られても、仕方がなかったかもしれない。ごめんね、キョン。あたしにも反省すべき点はあったわ。でも、でもね? すっくとベッドから立ち上がったあたしは、真正面から、毅然とキョンを睨み返してやった。 「『ふざけるな』ですって? 『馬鹿にするな』ですって――? それはこっちのセリフよ、キョン!!」 啖呵と共に、左手でキョンの右腕を掴み、右手をキョンの左脇の下に差し込む。そのままくるりと回転して、あいつの体を腰の上に担いだあたしは、渾身の力でキョンを前方に投げ飛ばしてやったのだった。 女子柔道部に仮入部した際に憶えた技だ。確か『大腰』だっけ? まあ技の名前なんてどうでもいいけど。とにかく、ごろんごろんと面白いくらいの勢いで投げられ、転がっていったキョンは、部屋の出入り口扉の横の壁にぶつかって、ようやく止まった。 一瞬の事で何が起きたのかまだ分かっていないのか、尻餅をついた格好で茫然自失といった顔をしてる。ふふん、いい表情ね。 「人を馬鹿にしてるのは、キョン、あんたの方でしょうが!」 「…なんだって?」 「あたしは、涼宮ハルヒはね! 明日後悔しないように、今を生きてるの! こうしたら得するだろう、こうしたら損するだろうとかじゃなくて、いま自分がどうしたいかを第一に、ひたすら前進してるの! その決断の早さに凡人のあんたがついてこられなくて、戸惑わせちゃった事は一応謝っとくわ。だけど、だけどね!」 心の中の憤りを包み隠さず、あたしはキョンの奴を大喝してやった。 「『好奇心、猫をも殺す』ですって――? そっちこそふざけないでよ! あたしが本当に、ただの好奇心であんたをホテルにまで連れ込んだと思ってんの!? 見損なうな、このバカっ!!」 さっき、キョンは『俺にも許しがたい事はある』と言った。なら、あたしの許しがたい事はまさにこれだわ。キョンの奴が、あたしの決意と覚悟をまるでないがしろにしてるって事よ! 「確かにね!? あんたとここに入って、そーゆー事しようってのは、ついさっき思いついたわよ! 後先考えてないって言われたら、否定できない部分はあるわよ! でもね! あたしだってちゃんと考えたのよ! あんたとそーゆー関係になっちゃってもいいのかって! 初めての相手が本当にあんたでいいのかって…。百万回も! それ以上も! 頭の回路がぐるぐるぐるぐる回って、しまいにはバターになるんじゃないかってくらい真剣に考え詰めたのよ! その上で、あたしはあんたと今、ここに居るのに…それなのにッ!」 さっきのお返しとばかりに、あたしは出来うる限りの鬼の形相で、キョンの奴を見下ろしてやった。もうこうなったら徹底的に糾弾よ糾弾、アストロ糾弾よ! 「あたしだって、こんな事するのはすごく恥ずかしかったのよ! でも、ちょっとしたショック療法っていうか――つまんない悩み事なんて忘れちゃうくらいの刺激を与えたら、あんたが少しは元気を取り戻すんじゃないかと思って…。他にあんたを元気づけてあげられる手段を思いつけなくって、それに、それにそもそもは、あんたがあんな事を…言ったから、だから――」 あれ? おかしいな? キョンの奴を、これでもかってくらい締め上げてやるはずだったのに。気が付くとあたしの言葉は途切れ途切れに、言ってる内容もなんだか支離滅裂になっていた。 そして、頬の上をはらはらと伝わっていく冷たい物…。これは…悔し涙? ちょっと、ダメよ! 何やってんのよ、あたし!? ここは団長としての威厳を見せつけて、キョンの誤解をねじ伏せてやるべき場面でしょ! 何を普通の女の子みたいに泣き崩れそうになってんの!? しゃんとしなさい、しゃんと! ああ、でも無理だ。元々あたしは、感情をセーブするというのが苦手なのだ。ダムが決壊したみたいに、溢れはじめた想いはもう、止められなかった。 「だからあたしは、思い切って一歩踏み出したのに! それをあんたは…男なら誰でもみたいな…言い方をして…。 あんたはただの下っ端だけど…栄えあるSOS団の、団員第1号なのに…。あたしの最初の仲間だったのに…そのあんたに、そんな…風に、思わ…てた、なんて…」 心のどこかで、あたしは、自分が勇気を出したらキョンはきっと応えてくれると信じていた。そう期待していたのだ。でも、その期待はあっけなく裏切られてしまったから、だから――。 「もう…知らない。知らないわよ、あんたの事なんて! このバカ! バカキョン! あんたなんか、一生ぐじぐじ腐ってればいいのよ!」 自分があんまりみじめで、この場にはどうしても居たたまれなくて。あたしは小走りに駆け出した。キョンの横の扉を通り抜けて、表へ飛び出した。 ううん、違う――そうしようとしたのだ、だけど。 ドアノブを回そうとしたあたしの手に、あいつの手が重なっていた。消え入りそうな微かな声で、でも確かに、あいつはこう言った。 「悪い…。すまなかった、ハルヒ…」 なによ。何をいまさら謝ってるのよ。遅いのよ、このバカ! 衝動のまま、あたしはよっぽどそう怒鳴りつけようとした。振り払おうと思えば、あいつの手を振り払う事だって出来た。でも――。 「確かに、俺はバカだった…バカげた勘違いをして、そのせいでお前をひどく傷つけちまって…すまん、本当にすまん…」 キョンの奴、いつになく真剣に謝るんだもの…。自分で先にバカとか言われちゃったら、こっちだって怒りづらいじゃないのよ。 「本当はな? 本当は俺、お前の心遣いが嬉しかったんだ。 昨日の友達の葬式からずっと、俺はなんだかモヤモヤした不安を抱えながら過ごしてた。今日の不思議探索も、家でじっとしてたら今よりもっと気が滅入っちまいそうだから、ただそれだけの理由で参加しに来たんだ」 うつむいたまま、消え入りそうな、か細い声で呟く。あたしには今のキョンが、なぜだかやけに小さく見えた。 「気持ちが沈んでるのは分かってても、自分ではどうする事も出来なくて。お前の言った通り、俺は心の病気とやらに罹ってたんだろうな。 だからハルヒ、お前が俺の事を気に掛けてくれたのが嬉しかった。いきなりホテルに連れ込まれた時はそりゃもちろん驚いたけど、本心じゃすごく嬉しかったんだよ。 けどな――。もしも、もしもだ。 ここにいるのが俺じゃなかったら? そう思ったら、その嬉しさが逆に、心をキリキリ締めつけ始めたんだよ」 そうして再び口を開いたキョンの独白には、明らかに自嘲の色が混ざっていた。 「もしも今日のクジ引きでコンビを組んでたのが、俺じゃなくてハルヒと古泉だったら? もしも落ち込んでたのが俺じゃなくて、古泉の野郎だったら? ハルヒの奴は同じような手段で慰めたりしたのか?ってな」 「ちょ…なに言ってんのよ、キョン! そんな事あるわけが」 「俺だって分かってたさ、そんなのは邪推だって! だけど、それでも…」 一瞬、語気を鋭くしたかと思うと、キョンの奴はあたしの手に重ねていた手を、自ら離してしまった。その手で自分の顔を覆って、うめくように呟いた。 「それでも一度心にまとわりついた疑念を、俺は振り払う事が出来なかったんだ。 お前に優しくされるたびに、俺は逆に、針で突つかれたような気分になって…お前の善意を、わざとひねくれて受け止めて。正直、ビックリしたよ。俺ってこんなに卑屈な人間だったんだな、ってさ」 乾いた笑いを洩らして、それからキョンは、疲れた顔であたしを見上げた。 「すまなかったな、ハルヒ。お前に投げられて、逆になんだかスッとしたよ。自分がどれだけバカだったか、ようやく実感できた。 それだけ伝えたかったんだ。もうどこへでも行っていいぜ? 俺なら大丈…」 「どこが大丈夫なのよ、このバカっ!」 くだらないセリフを聞き終えるまでもなく、あたしはキョンの脳天にチョップを振り下ろしてやったわ。そしてあいつがひるんだ隙に耳たぶを引っ掴み、今度こそ大声で怒鳴りつけてやったの。 「自己陶酔はそれで終わり? だったら、今度はこっちの番ね!」 宣告するなり、有無を言わさず。 あたしは引っ張り上げたキョンの頭を、空色のブラウスの胸の中に、ギュッと抱きしめてやったのだった。 「まったく! あんたはいつも斜に構えてばっかだから、感情表現ってのが下手くそなのよ。だから心に余計な重荷を抱え込んじゃうのよね」 「お、おい。ハルヒ、これは…?」 「なによ。どうせ言葉で何を言ったって、あんたはひねくれた受け取り方をしちゃうんでしょ? だから態度で示してあげてんの。 言ったはずよ、あたしがあんたを治療してやるんだって。言ったからには、あたしは断固としてあんたを治すの! どんな手段を使ってもね!」 ぴしゃりとキョンの反論を押さえ込み、それからあたしは、最上級の微笑みであいつに語りかけた。 「だから、キョン。病気の時くらい、あたしを頼りなさいよ。 これもさっき言ったはずでしょ、今この時、この場所でだけは、あたしの事をあんたの好きなようにさせてあげるって。 分かった? 分かったなら今は、あたしの胸に不安でも卑屈さでも、何でも委ねちゃいなさい。全部受け止めてあげるから」 「ハルヒ、お前…怒ってないのか?」 「団長様を舐めんじゃないわよ。心が苦しい時とか、つい思ってもない事を口走っちゃったり、そういう気持ちくらいお見通しなんだからね!」 あたしの、自分で言うのも何だけど天使のような慈愛の言葉に、キョンの奴はしばらく戸惑いの表情を浮かべていた。けれども、やがて両の目蓋を閉じ、あたしの胸に深く顔をうずめてくる。 「ん、素直でよろしい。 それじゃ、これは団長としての命令ね。さっさと普段のキョンに戻りなさい。下っ端のあんたがそんなんじゃ、みくるちゃんや有希や古泉くんに迷惑が掛かるんだから」 「………ああ」 そうして小刻みに震えるあいつの背中を撫ぜ、胸の中から響いてくる小さな嗚咽を聞きながら、あたしは心の内で、いつものあいつの口癖を真似ていたのだった。 やれやれ、本当に世話の焼ける団員なんだから――ってね。 それにしても、まあ。 いつもはあれだけ減らず口ばかり叩いてるくせに、一度タガが外れたらこんなものなのかしら男の子って。図体ばかり大きくっても、こいつも中身はまだまだ子供ね。 「ハルヒ…」 「うん? なあに、キョン」 「お前の身体って、なんだかいい匂いが(バシッ!)」 訂正! 訂正訂正! こいつの中身はエロエロ大王だわ! 「どさくさに紛れてなに言いだすのよあんたはッ!?」 「いってーな! なんだよ、褒め言葉だろ?」 「ほ、褒め方がヘンタイっぽいのよっ! いきなりそんなコト言われる方の身にもなってみなさいよ、このバカっ!」 予想してなかった所に不意打ちを喰らって、あたしは思わずキョンの奴に手を上げてしまっていた。もうほとんど条件反射。パブロフの犬も爆笑ね、これは。 そんなに強く引っぱたいたつもりはなかったんだけど、中腰の姿勢であたしの胸にすがっていたキョンは、よろけた拍子に後頭部をしたたか壁にぶつけてしまった様子だった。う~っ、そんな恨みがましい目でこっち見なくたっていいじゃない。今のは事故よ事故! 事故なんだから! そりゃ『今だけはあたしのこと好きなようにしなさい』って言い出したのはこっちの方だけど、でもあたしだって初めてでやっぱり緊張してるんだし。あんただって、少しはムードを盛り上げる努力とかしなさいよ! ほら、その、キ、キ、キスとか、さ!っていうかキョン、あんた、まだあたしに――。 などと、あたしが形容しがたい感情の変転に心を振り回されていると。キョンの奴はその表情を、唐突に苦笑いに変えた。 「やれやれ、今のも本気で褒めたつもりだったんだが。どうも人生ってのはままならないもんだ」 「なによ、キョンったら大げさね。こんな事くらいで人生語っちゃって」 「いや、まあ何というかだな…」 言いづらそうに語尾を濁して、キョンは頬を掻きながら視線を逸らした。 「これ、本人からは『内緒ですよ?』って言われてたんだけどな。実は俺、午前の探索の時に忠告を受けてたんだよ、朝比奈さんに」 「へっ? みくるちゃんから、忠告?」 ええと、それからこいつが語った所によると。 午前の間に、みくるちゃんからキョンにアドバイスがあったそうなのよ。いわく、 「あのね、キョンくんの事も心配なんだけど、わたしとしては涼宮さんの事も心配なの。キョンくんがいつもの調子じゃない事を、彼女、すごく気にしてるように見えたから。 だからキョンくん、本当に元気出してくださいね? それと、もしかしたら涼宮さん、ちょっと強引な方法でキョンくんを励まそうとしたりするかもしれないけど…広い心で受け止めてあげてね? お願い」 という事らしい。 へえ、あのみくるちゃんがそんなお姉さん的発言をねぇ。まがりなりにも先輩、って事なのかしら。外見からは、とても年上とは思えないんだけど。 うーむ、でもあたしがキョンの事を気にしてる間に、みくるちゃんはあたしとキョンの両方を心配するだけの余裕があったわけだから、ここは素直に敬服しておくべきかしら。うん、そうね。次のコスは女教師物なんかが良いかも………って、えっ? ええっ!? という事は? ロボットみたいにぎくしゃくした動きでキョンの方へ首を向けたあたしは、おそるおそるあいつに訊ねかけてみた。 「じゃ、じゃあキョン、あんたひょっとして…気付いてたの?」 「やれやれ、やっぱそうだったのか。長門が午後のクジ引きの爪楊枝を差し出してきた時点で、妙な感じはしてたんだけどな」 少し困ったような顔で、キョンの奴は大きく肩をすくめてみせた。 つまりまあ、そういう事だ。 午前の探索の間に、あたし、有希、古泉くんの3人は、キョンを元気付けるための作戦を立てた。その際、古泉くんは 『彼の場合、変なお膳立てをしてしまうと、かえって反発しかねません。ここはあくまで偶然を装うとしましょう』 というアドバイスをくれて、あたしと有希もそれに同意。午後の班分けの時に有希に協力して貰って、作戦は決行されたわけよ。 ところが一方、同じく午前の探索の間に、みくるちゃんはキョンに 『もしかしたら涼宮さん、ちょっと強引な方法でキョンくんを励まそうとしたりするかもしれないけど――』 とアドバイスしていたわけで。キョンの奴には、あたし達の“お膳立て”はバレバレだったらしい。 はー、道理でキョンの奴、あたしの言葉をひねくれて捉えてたわけだわ。 あたしだって時々、親の気遣いなんかを「余計なお世話っ!」とはねのけてしまう事があるもの。心を病んでいたキョンが、みんなの心配を逆に、自分が弄ばれてるように錯覚して受け止めてしまったとしても無理はないわね。 けど、それにしたってこれは…ねえ? さっきまでキョンの治療をしてあげるとか言っていたあたしだけど、今はむしろ、自分の方が虚無感とやらに襲われてる気分よ。 「なんだかなあ…。あたし達SOS団全員、お互いに良かれと思って、その実は足の引っ張り合いをしてたわけか…」 「俺も結局、せっかくの朝比奈さんの忠告を生かせなかったし。結果的にはそういう事になるかもな」 だからって、もちろんあたしは、みくるちゃんを責めたりする気にはならないわよ。みくるちゃんはみくるちゃんで、あたし達のためにいろいろと気を使ってくれたわけだしね。 ただ、何と言うか…廊下で向こうからきた人をよけてあげようとしたら、あっちも同じ方向に動いてきたみたいな? そんな苛立ちと虚しさを、さすがのあたしもひしひしと感じざるを得なかったわね。さっきまであれやこれやと、さんざん気を揉んできただけに。 「なんか、急に疲れがどっとわいてきちゃったわ。もしかしてあたし達って、ずっとこんな風にうまく行かないのかしら」 「おいおい、さすがにそれは…ん、いや待てよ? だとしたら、あー…」 あたしの嘆息に苦笑しかけて、キョンは急に真剣な顔になると、なにやら考え込み始めた。ちょっと、いったい何なのよ? 「なあハルヒ、お前は普通じゃない体験をしたいんだよな?」 「はぁ? 何よいまさら」 「そいつは一言で言うと、映画や小説の主人公みたいになりたいって事か?」 「ええ、そうね! あたしにはやっぱり、主役級の大活躍こそがふさわしいもの!」 鏡を見るまでもなく、この時のあたしは宝石みたいに瞳をキラキラ輝かせてたはずよ。そんなあたしに向かって、キョンの奴はどこか呆れたような表情を見せた。ちょっと、自分で振っといてその態度は何よ!? 「それじゃ仕方がないな。お前の行く手には、常に何らかの障害が立ちはだかるってこった」 「えっ? どういう事よ、それ!?」 「だってそうだろ。俺が映画で見た冒険家は、お宝にたどり着くまでにゴロゴロ転がる大岩に嫌ってほど追い回されてたし、名探偵は後ろから角材で殴られたり、覚えのない冤罪の汚名を被せられたりしてたもんだ。 逆の視点から見れば、映画やら小説やらの主人公ってのは、そういうトラブルをどうにかして乗り越えていくからこそ魅力的なんじゃないのか?」 愉快じゃないけどキョンの指摘は確かで、あたしは頷かざるを得なかった。 「それはまあ…そうかもしんないけど」 「つまりだ、お前が主役級の大活躍って奴を追い求めてる以上、必然的に何かに妨害されて、どうにも思うように事が運ばないって状況が訪れるわけだな」 そのセリフから一拍置いて、すっと目を細めたキョンは、なにやら挑戦的にあたしに問いかけてきたのだった。 「さて、どうするんだ団長さんよ? これからもいろいろと邪魔が入るとして、それでもまだスーパーヒロインを目指すのか?」 ああ、この顔だ。少し皮肉っぽい口元。諦観の混じった眼差し。小首を傾げて、どこか挑発するようにあたしに訊ねかけてくる。 あたしに向かって、こんな顔をする奴はそうはいない。あたしの大っ嫌いで、そして大好きな――いつもの、キョンの小憎たらしい表情だ。 「ずいぶん大層なご口上ね、キョン。あたしを試してるつもりかしら?」 キョンの奴が復調したからには、何も遠慮する事はない。あたしは腕組みをして、キョンの頭の真横の壁にドン!と片足を踏みつけると、大上段から丁寧に答えてさしあげたわ。 「妨害? 邪魔? 望む所よ、来るなら来たいだけ来ればいいわっ! この涼宮ハルヒ様の前を塞ぐような連中はね、たとえ緑色の火星人だろうが青っちろい海底人だろうが、みんなまとめてボッコボコにして…あげ…」 そう、あたしは大見得を切るつもりだった。それにやれやれとキョンが呟くのが、いつものあたし達の小気味良いパターンのはずだった。のに。 「…ハルヒ?」 けれどもその時、キョンの顔を見た瞬間。 あたしはなぜかセリフを途中でノドの奥に詰まらせて、ホテルの一室に、馬鹿みたいに呆然と立ちつくしてしまったのだった。 どうしたんだろう。舌がなんだか縮こまっちゃって、うまく話せない。 「ね、ねえキョン。その、つまんない疑問なんだけど、さ」 「うん?」 こちらを見るキョンの様子がおかしい。明らかに心配そうだ。そんなに今のあたしはひどい表情をしているのか。 「こないだ、なんとなく深夜映画を見てたのよ。それがまた陳腐でチープなB級とC級の相の子っぽい、つまんない代物だったんだけど」 「ふむ、そりゃまた中途半端につまらなそーな映画だな。しかしハルヒ、あまり夜更かしが過ぎるとお肌に悪いぞ」 「うっさい、話を混ぜっ返すなっ! …でね、その映画ってのが、途中で主人公をかばってヒロインが死んじゃうのよ。でもって墓前に復讐を誓った主人公が敵の本陣に乗り込んで、クライマックスになるわけなんだけど」 べたりと汗のにじんだ手の平を握りこんで、あたしはキョンに訊ねかけた。 「もしも。もしもよキョン、あんたが言った通り映画の主人公がトラブルを乗り越えて行くべき存在なら…ヒロインが死んじゃったのって、それって主人公のせいなのかしら…?」 あたしがその質問をした途端、キョンは「あ」と小さく声を上げた。苦虫を噛み潰したような表情になって、それから、ゆっくり口を開いた。 「おい、ハルヒ。分かってるとは思うが、さっき俺が言ったのは『物語を客観的に見ればそういう考え方も出来る』って程度の話だぞ」 うん、そうよね。それは分かってる。 「脚本家やらプロデューサーやらの都合じゃヒロインが死ぬ必然性はあったかもしれないが、それは当然、主人公の意思とは無関係だ」 それも分かってる。けど。 「だいたい、自分が活躍するためにヒロインが死ぬ事を望むヒーローなんか居るかよ。もし居たとして、そいつはヒーローなんかじゃない。 だからその、何というか。要するに、俺はお前を責めるつもりであんな発言をしたわけじゃないってこった。単純にお前にトラブルを乗り越えてく覚悟があるかどうか確かめたかったっつーか、なんとなく意地悪な質問をしてみたかっただけというか。 大体ここまで人を巻き込んどいて、いまさら遠慮とかされても逆にだな」 「分かってるわよそんな事ッ! だけど…」 そう、分かってる。分かってるのよ。キョンの言い分は全て理にかなってる。こんなに声を荒げてるあたしの方が、きっとおかしいんだ。 でも。それでも! 「でもやっぱり、主人公が英雄的活躍を求めた結果として、ヒロインが死んじゃった事には変わりないじゃない!? あたしは、そんなのは嫌…。あたしのせいでキョンが居なくなるなんて、絶対に我慢ならない事なのよ!」 ああ、言ってしまった。直後に、あたしはそう思った。 それは言いたくなかったこと。認めたくなかったこと。でも言わずにはいられなかったこと。 「――北高に入って、あたしの日常はずいぶん変わったわ。毎日がとても楽しくなった。中学の頃なんかとは段違いに。 あたしはそれを、自分が頑張ったおかげだと思ってた。SOS団を作って、不思議を追い求めて。前に向かってひたすら走ってるから、だから毎日楽しいんだと思ってた。 昨日まで、ついさっきまで、そう思ってたのよ! でも、違った。本当はそうじゃなかった…」 「何が違うんだ? お前が日常を変えようと努力してたって事なら、俺が証人台に立ってやってもいいぞ? その努力の方向性が正しかったかどうかは別問題として」 この湿った雰囲気を変えようとでもしてるのだろうか、軽口っぽくそう言うキョンを、あたしは鋭く睨みつけた。 「だから、それよ! 気付いちゃったのよ、あたしは、その事に!」 「意味が分からん。いったい何に気付いたっていうんだ?」 「あんたが、あたしの背中を見ていてくれるから! だからあたしは走り続けていられるんだって事によ!」 気が付くと、あたしは深くうつむいていた。今の表情を、キョンの奴には見られたくなかったのかもしれない。 「中学の頃だって、あたしは走ってたのよ。日常を変え得る不思議を捜し求めてね。でもあたしはずっと一人で…息切れとか起こしたって、それに気付いてくれる奴は誰も居なかった…」 「…………」 「あの頃と今と、何が違うのか。 今のあたしが前だけ向いて、心地よく走り続けられるのは、それはあたしの後ろで、あたしの背中を見続けてくれる奴が居て…。もしもあたしが転んだとしても、すぐにそいつが駆け寄ってきてくれるっていう安心感の後ろ盾があるからだ――って…気付いちゃったのよ…」 喋っている間に、いつの間にか立ち上がったキョンが、すぐ前に立っていた。あたしはうつむいたままだからその表情は分からないけど、腕の動きから察するに多分、さっきぶつけた後頭部をさすっているんだろう。 「ありがたいお言葉なんだが、お前にそう殊勝な事を言われると、驚きを通り越して寒気がするんだよなあ。 ともかくハルヒよ、別にそれは俺だけの話じゃないだろ。朝比奈さんや長門や古泉、その他もろもろの人がお前を支えてくれてる。俺なんかパシリ役くらいしか務まってないぞ」 「そうよ! あんたはみくるちゃんみたいな萌えキャラでもないし、有希ほど頼りになんないし、古泉くんほどスマートでもないわ! せいぜい部室の隅に居ても構わないってくらいの存在よ!」 「やれやれ、俺はお部屋の消臭剤か」 なんで、あたしはこんなにイラついてるんだろう。どうしていちいちキョンの言葉に反応してしまうんだろう。 あたしの不愉快さは、それはもしかして…不安の裏返しなの? 「そう、あんたは特に取り柄があるわけでもない、ただ単に手近な所に居ただけの奴だったのに! そのはずなのに! でもあの春の日に、あたしの髪型の変化に気が付いたのはあんたで…その後もあたしの事を一番気に掛けてくれるのはあんたで…。 いつの間にかあたしは、あんたに見られる事を意識するようになってた…。あたしがこうしたらあんたはどんな反応するだろうって、それが一番の楽しみになってた。 あんたが変えちゃったのよ、あたしを! もうあの頃のあたしには戻れないのよ! それなのに、あんたがあんな事を言うから…」 ああ、失敗。失敗だ。 うつむいてしまったのは大失敗だった。確かに表情を見られはしないけど、にじみ出てくる涙をこらえられないんじゃ、意味がない。 「あんたが…人間なんて明日どうなってるか分からないとか言うから…。だからあたしは、こんなに不安になってるんじゃない!」 あんまり悔しくって、あたしは涙に濡れた顔を上げ、再びキョンの奴を睨み据えていた。 つい先程聞いた有希のセリフが、また胸の奥でこだまする。 『彼の言っていたのはある面での、真理』 『価値観は主に相対性によって生ずる。最初から何も無かった状態に比して、あるはずだったものをなくしてしまった時の喪失感は、絶大』 今なら、その意味が分かる。 あたしにとってあるはずのもの、そこに居てくれなければ困るもの。それは、キョンだったんだ――。 「もし…もしもあんたを失っちゃったら、きっとあたしは今のあたしのままじゃいられない…。何度も何度も後ろを振り返って、おちおち前にも進めなくなる…。 そんなの嫌! そんなのはあたしじゃない! だから、あたしは!」 こんな事を言ったら、キョンはきっとあたしの事を軽蔑するだろう。そう思いながらも、でも一度ほとばしった罪の告白は、途中で止められるものではなかった。 「あんたをここへ、ラブホへ誘ったのは、なんとか励まして元気付けたかったからっていうのは本当。 でもあたしにはあたしなりの思惑があって…。あんたが目の前に居て、あんたに触れる事が出来る内に、あんたとしておきたかった…。 あんたがあたしと一緒に居たって証拠を、心と身体に刻み込んでおきたかったのよ! 悪い!?」 はあ。 言っちゃったなあ…あたしのみっともない本音を。 キョンの奴も、さすがに愛想が尽きただろう。いつも偉そうぶってるあたしがこんな、ただの利己主義で動いてるような人間だと知ったら。 キョンの反応が恐くて、あたしはギュッと固く目を瞑って、肩を震わせる。そんなあたしの耳に、キョンの呆れたような声が届いた。 「やれやれ。男冥利に尽きるお言葉ではあるんだが、願わくばもう少し可愛げのある言い方をしてくれないもんかね」 「………は?」 「いや、訂正しとこう。可愛げのあるハルヒってのは、やっぱりどうも薄気味悪い。少し横暴なくらいがお似合いだな」 「な、なんですってぇ!?」 あたしの本気を茶化すような、あまりといえばあまりの雑言に、あたしは思わず目を剥いて、キョンの胸倉を掴み上げてしまう。 すると、キョンの奴は悪びれもせずにあたしの目を見つめ返し、子供をあやすようにポンポンとあたしの頭を叩きながら、こうささやいた。 「なあ、ハルヒ。ひとつ訊くぞ?」 「…何よ」 「お前は、俺に消えていなくなってほしいのか?」 「なっ、このバカ! 今までなに聞いてたのよ、その逆でしょ!? あたしは、あんたと…」 「だったら、つまんないこと心配すんな」 え、と顔を上げたあたしに、キョンは驚くほどキッパリと言い切ったの。 「お前が望んでる限り、俺は、ずっとお前の傍にいるはずだから」 ――まったく。 まったくもう、なんでこいつは。 普段は優柔不断の唐変木ののらくら野郎のくせに、こういう時だけは断言できたりするのだろうか。 不覚にも、ぐっと来てしまったじゃないか。 不覚、不覚! 涼宮ハルヒ一生の不覚! 気付けばあたしはキョンの胸にすがりついて、ボロボロに泣き崩れていた。さっき流した悔し涙や、不安と寂しさで流した涙とは全然違う、それは頬がヤケドしそうなくらい、熱い、熱い涙だった。 あーあ、ヤんなっちゃうな。 キョンのシャツに濡れた頬をうずめながら、あたしは心の中で溜め息を吐いた。一度タガがはずれちゃったら、子供みたいに脆いのはあたしの方じゃない。そんなあたしの背中を、キョンは優しく撫ぜてくれている。 今日は、あたしがキョンの奴を励ましてやるはずだったのに。いつの間にこうなっちゃったんだろう。なぜだかこいつ絡みだと、物事がいちいちうまく運ばない。 どうしてキョンが相手だと、こんなにも調子が狂っちゃうのかな。理由を知っていたら、誰か教えてほしい。 うん、でもそんなに悪い気はしない。っていうか、むしろあたしはずっとこうしたかったのかな…? 弱みも何も全部さらけ出して、キョンにぶつけてみたかったのかも。 ひょろっとしてる印象だったけど、キョンの胸、意外とガッシリしてる。やっぱり男の子なんだなぁ。クーラーが強めに効いた部屋の中、こいつの体温が心地いい。もう、いっそこのまま時間が止まってくれれば…いいの…に…? ――えーと、ちょっとゴメン。あたしのおへそ辺りに当たってる、この硬いモノは、一体なに? あ、いやいい。説明いらない! 遠慮する! ここがどこで何をする場所かって考えたら、自ずと分かるし! そうよ、何をいまさら。落ち着け。落ち着け、あたし。はい、深呼吸。ひっひっふー、ひっひっふー。 はぁ。しかしこいつも、ついさっきまで 『俺は間違っても、お前の身体が目当てでSOS団の活動に参加してたわけじゃない!』 とか何とか言ってたくせに、ココはしっかりこんなにしてんのね。まったく、これだから男って奴は! まあ、でも大目に見てやるとしますか。キョンの奴、あたしでこんなになってるんだ――って思ったら、正直ちょっと嬉しいし。 いいわ、ここはあたしの方からきっかけを作ってあげる。このままじゃ、まるであたしが一方的に泣かされてるみたいで、なんだかシャクにさわるしね! トン、と軽く突き放すように、あいつの胸に両手をつく。2、3歩下がって、数秒うつむき、それからあいつに向かって全力の明るい笑顔を見せつけてやる。 「キョン、あたしちょっと顔洗ってくる!」 「え?」 「こんな顔、みくるちゃん達に見せられたもんじゃないでしょ! いい? すぐ済むからちゃんと待ってんのよっ!?」 キョンの眼前に人差し指を突き出し、なるべくいつもの口調っぽくそう命令する。キョンの奴はまだ心配そうな、そしてなんだか名残惜しそうな表情をしていた。ふふ、変な顔! 精一杯の笑顔を浮かべたまま、あたしは虚勢を張ってるのがバレない内にバスルームへと駆け込んで、後ろ手に扉を閉めた。 ふー。よし。 ひとまず作戦の第一段階は成功ね。 鏡を見てみる。うわ、眼が真っ赤だ。目蓋もちょっと腫れぼったい。あれだけぐずってたんだから、それも当然か。 蛇口をひねり、両手ですくった冷たい水で、叩きつけるように何度も顔を洗う。備え付けのタオルで顔を拭いて、もう一度、鏡を見てみる。うん、だいぶマシになったかも。 そうしてあたしは、鏡の中のあたしと視線を合わせた。 「本当にいいかな、あたし?」 (いいんじゃないの、あたし) すぐに鏡の向こうから答えが返ってくる。そうね、さっきの涼宮ハルヒ百人委員会は、賛成87票、反対5票、棄権8票だった。今は違う。今は賛成100票だって確信できるわ。 あいつが、あんなにもキッパリと言い切ってくれたから。だからもう、ためらわない。後戻りはしない。 ん、とひとつ頷いたあたしは、ブラウスの胸のボタンを上からひとつずつ外し、インナーのキャミソールごと一息に脱いで、それを衣装カゴに、ぽいと放り込んだのだった。 続いて背中に手を回し、ブラのホックに指を掛ける。瞬間、なんとなく孤島での嵐の中の出来事を思い返した。 あの時も、キョンはあたしの事を助けてくれたっけ。あいつは自分の事を「せいぜいパシリ役」だとか言うけど、ああいう時に自分がどれだけ他人のために一生懸命になれるのか、当の本人は気付いてないのかしらね。 くすっと、自然に笑みがこぼれる。気恥ずかしさよりもなんだか愉快な気分で、あたしはブラの肩紐から両腕を引き抜いた。 スカートのホックも外し、すべり落ちたそれを爪先に引っ掛けて、これも衣装カゴの中へ。ショーツは…履いたままでいいか。ほら、男の子ってこういうの自分の手で脱がすのも萌え~!だとか言うじゃない? …ってのは建前で。本音を言うとさすがに全裸っていうのはちょっと抵抗があるの。まだ初心者なんだもの、仕方ないでしょ!? とにかく、今はこの薄布1枚があたしの心の防波堤だ。うむ。 とまあ、ここまでは良いとして。次にあたしは、初心者ならではの難問にぶち当たってしまったのよね。 「靴下って…脱いどくべきなのかしら…?」 しまった、あたしとした事が。これはリサーチ不足だったわ。う~、だってそういうフェチとか? 正直あたしには形式的な面しか分からないんだもの。 でも大丈夫、こういう時こそ萌えキャラのみくるちゃんでシミュレートよ! えーと、パンツ一丁および靴下オンリーな姿でキョドってるみくるちゃん…。う~む? …なんだか狙い過ぎであざとい気がするわ。キョンはもう少し自然体な方がストライクよね、きっと。 結局、あたしは靴下も衣装カゴに放り込んで、裸身の上にバスタオルを巻いた。本当はシャワーを浴びたい所だったけど、軟弱者日本代表みたいなキョンの場合、あたしが出て行くまでの間に緊張感に耐え切れなくなって逃げ出しかねない。だからここは譲渡してあげるわ。あたしの気遣いに感謝なさい、キョン! 出て行く前にもう一度鏡を見て、髪型やら何やらをチェック。それから生唾をひとつ飲み込んで、あたしはバスルームの扉を押し開けた。 いっそのこと冗談っぽく、 「はーい出前でーっす! 涼宮ハルヒ一丁、お待ちーっ!」 とでも言ってやろうかと思ったけど、さすがにそれはキョンも引くわね。 っていうか、やろうったって出来ない。いつか部室であたしが着替えようとした時みたいに、キョンにスルーされたらどうしようとか思うと、それだけで足元がおぼつかなくなる。ううん、大丈夫。あの時とは状況が違うわ。 はたして。キョンの奴はあたしに背を向けるように、ベッドから前に身を乗り出していた。どうやらテレビ台の中のゲーム機を物色していたらしい。扉の音に気付いて、こちらへ振り返ったキョンは一瞬ぎょっとした表情を見せ、それから困ったように視線をあらぬ方向へそらした。あー、でもこっちの方をチラ見はしてるみたい。 良かった。良くはないけどでも良かった。顔を洗うだけにしては時間が掛かり過ぎなのである程度は察していたのか、キョンの奴、思ったよりはあたしの格好に動揺してないみたいね。 ベッドの端に腰掛け直したキョンは、あ~、とか、ん~、とか唸りながらしばらく言葉を選んでいたけれど、結局うまい表現がみつからなかったのか、やがて所在無げに立ち尽くしているあたしに向かって、無言のまま自分のすぐ左隣をポンポンと叩いてみせてくれる。 内心でホッとしながら、でもその思いはおくびにも出さずに、あたしはバスタオルの胸元を押さえつつ小走りでキョンの元へ駆け寄って、誘いのまま横に腰を下ろした。 むう~。隣に座ったはいいけど、キョンと視線を合わせらんない。あたしは馬鹿みたいに、前方のカーペットの模様ばかりを眺め続けてる。キョンはキョンで、こっちをまともに見ようとしないし。まるでクイズ番組に出場してはみたものの、緊張しすぎで何も答えらんない一般視聴者みたいだわ。 きっかけ、何かきっかけはないものかしら。いっそ空から隕石でも落ちてきてくれれば、キャッ!とキョンにしがみ付く事だって出来るのに。などと谷口並みにアホな事を考えていると、キョンがぽそりと、呟くようにこう訊ねかけてきた。 「おい、ハルヒ。本当にいいのか…?」 「な、何よ!? 怖気づいてんの、あんた!?」 あーん、もう! この期に及んで何を言い出すのよキョンったら! 「すまん、お前がふざけてこんな真似してるわけじゃないってのは分かってる。こういう事訊くのって失礼だよな。 でも俺は、お前が心を病んでた俺を励まそうとしてくれてたのを知ってるわけで…。つまり、何というか」 「…………」 「今このまま、お前とその、ヤっちまうのって、なんだかお前の善意につけこんでるみたいで、どうも気が引けるんだよな。怖気づいてるって言ったら、確かにそうかもしれないんだが」 そう言って、申し訳なさそうに目線をそらす。そんなキョンの横顔に、あたしは再び、はぁ、と溜め息を洩らした。 こいつのこういう律儀な所って、嫌いじゃないけどさ。これから先、苦労させられそうね。心の中でそう嘆きながら、あたしは両手でキョンの左手を引っ掴み、あたしの左胸に強引に押し当てさせてやったのだった。 「っ!?」 「ねえ、キョン。あたしさ、以前からずっと自分のこの胸が疎ましかったのよね」 キョンの奴は大きく目を見開いて、口をパクパクさせてたけど、あたしは構わずに話を進めた。 「この胸が膨らみ始めた頃から、親も、周りも、あたしに“女の子らしくあること”を強いるようになってきたんだもの。 自分の行動に枷をはめられたみたいで、だからあたしはこの胸がキライだった」 話しながら、あたしはふふっと軽く笑う。なぜなのかしらね、キョンが相手だとこういう話題も気負わずに話せるのは。 「ほら、高校生活の最初の頃、あたしは男子が教室に居ても平気で着替えてたりしてたじゃない? アレも、当てつけみたいなものだったのよ。胸があろうがなかろうが、あたしはあたし、涼宮ハルヒなんだ――って、無言の内に、あたしはそう主張してるつもりだったのね」 「ああ、アレにはびっくりさせられたな。もしや特殊な性癖の持ち主なのかと、密かに期待したりもしたもんだが」 「バカね、そんなわけないでしょ!?」 掴んでいた手の平の皮を、ギュッとつまみ上げる。キョンの呻き声をわざと無視して、あたしはさらに言葉を続けた。 「でもね、今はちょっと違うかな。今は下着姿だって、そう易々と見せてやるつもりもないし、あたしのこの胸で誰かをドギマギさせてやれるんなら、それもいいかなって思ってる。 それがどうしてかは…そのくらいはいちいち説明しなくても、おバカのあんたにも分かるでしょ、キョン?」 目を細めて、あたしはキョンに微笑みかける。バスタオル越しにでも、あたしのこの鼓動は伝わってはずよ。ね? ああ、それにしても。あの頃のあたしは、本当にひどい考え違いをしてたんだなあ。女の子同士がスキンシップで触れ合うのと、男の子が女の子に触れるのとじゃ、ぜんぜん意味合いが違うんだ。 うー、みくるちゃんゴメン。いつぞやのコンピ研での一件は、いま思うとちょっとひどかったかも。いつかきちんと謝っておこう。などとあたしが考えていると、キョンの奴がいつになく真摯なまなざしをこちらに向けてきた。 「すまん、ハルヒ」 ふん、ようやくあたしのこの想いを理解できたみたいね。ちょっとばかりまだるっこしい気分にさせられたけど、まあいいわ。分かってくれたんなら許してあげ…。 「俺も健康な若い男子なんでな。この状況はちょっとばかり刺激が強すぎるというか」 は? 「もう理性が持たん」 あの、もしもし? 「正直、たまりませんッ!!」 言うなり、キョンとの密着感が急激に増して。あたしはあっという間にベッドに押し倒されていた。 あーっ、もう! ちょっと見直してやったら、すぐこれだ! どうしてこういつもいつも、言う事とやる事がちぐはぐなのよあんたはっ!? そんなにがっつくんじゃないわよ! この…バカ…。 思わぬキョンの強引さに、あたしは少し眉をひそめつつ、諦めぎみに目を閉じた。いいわ、もう。煮るなり焼くなり、今度こそあたしの事をあんたの好きにしなさい、キョン――。 布団の冷たさとキョンの温もりとの狭間で、熱気を帯びたあいつの吐息が降りてくる。心持ち尖らせたあたしの唇の先が、やがて包み覆われていく。 なんだろう、初めてのキスなのに、初めてじゃない感じ。求めていたものが満たされていくような、そんな感じ。 できる事ならずっと、こうしていてほしい。開けば生意気な言葉ばかりポンポン飛び出すあたしの口なんか、このまま塞ぎ続けてほしい。ねえ、キョ…んっ? わ、わ。キョンの奴、一度唇を離して息を吸い直したと思ったら、今度はさっきよりも強く、こするように押し付けて、あたしの唇の間を割って舌先を入れてきた…。 いやあのその、あたしだって大人のキスがそーゆーものだって事くらい知ってるわよ!? でもちょっといきなりすぎっていうか、こっちだって心の準備ってものが、ねえ? う。あたしの前歯の上下の境を、キョンの舌がなぞってる。もっと奥にまで入り込みたいの? そうなのね? 仕方がない。そう、仕方がないので、あたしはあいつをもう少しだけ受け入れてやる事にした。――その数秒後、あたしは自分の判断および見通しが甘かったのを思い知る事になる。 ちょん、と先端と先端が触れて、それだけで怯えたように逃げるあたしの舌を、キョンの舌が追いかけて、押さえつけ、絡め取るように根元から舐め上げ、吸い上げて…。 ちょっと、ちょっと何よこれ!? なんかこれエロい! エロいわよこのキス! なんとなく口の中の出来事をあたしとキョンに置き換えて想像してみたら、体の奥の方が大変な事になってきちゃったじゃない。 あーん、前に見た夢だってリアリティありすぎだって思ってたのに! 現実はさらに凄いってどういう事よ!? もうっ、キョンのすけべぇ! ヤバい。いや本当に。これは少々ヤバいかもしんない。あたしは薄ら寒い恐怖さえ感じていた。キョンの事をあまりに過小評価していたのかもしれない。 単になりふり構わずっていうだけの感じだけど、こうも一気呵成に攻め込まれたんじゃ…好きにしなさいどころじゃないわ、まるで抵抗できない。このままじゃ、あたしがあたしでなくなっちゃいそう。だいたい、キョンの奴にいいようにあしらわれっぱなしっていうこの状況が気に食わないわ。キョンのくせに、生意気よ! なんとか主導権を握り返さなきゃ、と焦燥感に追われるあたし。しかしながら…いつも古泉くんとやってるボードゲームの成果なんだろうか、あたしはまたしても、あいつに先手を打たれてしまったのだった。 キ、キ、キスしながら耳を撫ぜるなあっ! あやうく、あたしは官能の波に飲まれてしまう所だったわ。けれどもその間際、頭の中にふっとひとつの疑問が浮かんで、あたしは精一杯の力でキョンに抗った。 「ぷはっ。ちょ、ちょっと待ちなさいよ、キョン!」 「あ…悪い、なんだか夢中になっちまって。息、苦しかったか?」 「それは別にいいのよ! いや良くないけど!」 「どっちだよ」 「だから、あたしが言いたいのはそういう事じゃなくて! …なんだかあんた、やけに手馴れてるじゃない。ひ、ひょっとして初めてじゃ…ないの?」 訊ねてから涙目になりそうになってしまっている自分に気付いて、あたしは内心でひどく狼狽した。 可能性として、あり得なくはない。でもキョンもあたしと同じように初めてのはずだと最初から疑って掛かりもしなかったのは、それは、別の答えを認めたくなかったからなんだ。知らなかった。あたしが、こんなに独占欲が強かったなんて…。 そんなあたしの葛藤を知ってか知らずか、キョンの奴はあたしの問いに、憮然とした表情で答えた。 「バカ言え。何の自慢にもならんが、俺は正真正銘たった今が青い春と書いて青春真っ只中だ」 「嘘! 嘘よ、だってあんた…」 「なんだハルヒ、お前『門前の小僧、習わぬ経を読む』という言葉を知らないのか?」 「へっ?」 「つまりは、見よう見まねって事だよ。 お前の朝比奈さんに対するセクハラ攻撃を、いったい俺が何度止めに入ったと思ってるんだ? あれだけ見せつけられりゃ、嫌でも目に焼きつくっての」 そうしてあいつは、あたしの耳元に顔を近づけて「本当はずっとお前にこうしてやりたいとか思ってたかもな」なんて小声でささやくと、あたしの耳を、はむっと甘噛みしてきたのだった。もう。キョンの奴ったら調子に乗って、ここぞとばかりに! でも安心感で満たされちゃったあたしの心と身体は、キョンの攻勢を受け入れざるを得なかったのよね。そっか。そこまであたしの事を見てるのか。うん。それならまぁいいわ。何が? 知らないけどまぁいい。 ここはあんたのお手並み拝見と行きましょ。たまにはあたしの事をきちんとリードしてみせなさい。ねっ、キョン――。 それからまあアレやコレやを経て、あたし達の最初のセックスは終わった。 別にごまかすつもりはないんだけれども、この後の事は断片的にしか記憶がない。お互いに初めてだったせいもあって、何というかおままごとみたいな? そんなつたないセックスだったと思う。 でもまあ、あたしは結構満足していた。右も左も分からない中を無我夢中で駆け抜けるような、あんな感覚って嫌いじゃない。誰かに手ほどきを受けるより、むしろその方が痛快じゃないの。 当然ながら、反省点も多々あるんだけどね。 えーと、ほら動物の世界で『マウント』ってあるじゃない。犬とかが自分の優位性を誇示するために他の犬にかぶさる、ってヤツ。 アレの最中は、やっぱり人間も動物みたいになってるんだか――その、あいつがのしかかって来るたびに「ああ、あたしは今、キョンのモノにされてるんだ」って思えて…それが何故だか嬉しくって…。 一個人としては「女の子をモノにする」っていうのはむしろ不愉快な表現なんだけども、でもあの時ばかりは不思議とあいつの体重を、ベッドのスプリングに分けてやるのが無性にもったいないような気がしたの。 で、キョンの奴が「もう少し力抜いた方がいいぞ」って言ってるにも関わらず、やたらと四肢を踏ん張ってしまったあたしは現在、首から背中にかけてアンメルツヨコヨコの匂いを漂わせたりしているのだった。あと実は、お腹の中もちょっとヒリヒリ痛い。生理用の痛み止めでなんとか紛らわしてるけど。 教訓。その場の感情に流されすぎちゃダメね。利用できる物はきちんと利用するべきだわ。そう日記には書いておくとしよう。 それにしても。 『涼宮ハルヒ秘密日記』のページ上にトントンと意味もなくペン先を振り下ろしながら、あたしは口をアヒルみたいにしていた。 今更ながらに思うけど、キョンの奴ってズルい! ううん、あいつがズルいのは前々から分かってたのよ。毎度あたしの後ろからひょこひょこ付いてきて、美味しい所だけご相伴に預かろうとするような奴だものね。 でも、今回ばかりはちょっと許しがたい。そうよ、あの行為の最中は気が付かなかったけど、こうして家に帰ってお風呂に入って夕食を済ませてから落ち着いて思い返してみるに――。 キョンの奴、あたしに「好き」とか「愛してる」とか、まだ言ってないのよ!? あたしに散々アレだけの事をしておいてッ! あたしの初めてを…あんな風に奪っといて…。 いやまあ、実はあたしの方も改まって告白したりするのは気恥ずかしくて、まだきちんと言葉にしてはいなかったりするのだけれども。ただ礼儀として、あーゆー事したからには男の方から言ってくるのが作法っていうか? 確かに『古泉くんとあたしがナニするのを邪推して嫉妬した』みたいな事はあいつも言ってたけど、でも「嫉妬した」と「好き」は微妙にイコールじゃ無いじゃない!? それとも…キョンはやっぱりあれは一時の対処療法みたいなものだとか思ってて、好きだの愛してるだのっていう形而上の言葉であたしを拘束してしまうのが嫌だったんだろうか。 確かに胸の話とか、「行動に枷をはめられるのはイヤ」みたいな事を言ったのはあたしの方なんだけども。でもどっちにせよ、キョンの奴ってばやっぱりズルいと思う! うん! …そこを含めて、好きになっちゃったから参ってるのよね。 机の上の小さな鏡を見ながら、左の頬を撫ぜてみる。あたしの頬をはたいた時のキョン…恐かったけど、格好良かったなあ。あんなに真剣に怒ってくれるのは、あたしの事が大切だから、だよね? まあいいわ、今回だけはキョンの無礼を見逃してあげるとしよう。一応、コトが終わった後に、 「ハルヒ…今のお前、反則的なまでに可愛かったぞ…」 なんて事は言ってくれたし♪ あ、でも調子に乗って、汗やら何やらでベタベタした手で頭を撫ぜたりしないでよねっ? リボンが汚れちゃったじゃない! ちょうど替えがあったから良かったけど。あ~あ、これ割とお気に入りだったのにな。一度染み込んじゃうと、洗濯したってこの匂いはなかなか落ちな……… ここは自分の部屋の中で、もちろん居るのはあたし一人だというのに、なぜだかあたしは左右をきょろきょろ見回して、それから机の引き出しに、そっとリボンをしまい込んだのだった。 そ、そうよ、このリボンはもう人前じゃ付けられないから、ずっとこの中にしまっておく事にするわ、うん! …いったい誰に向かって言い訳してるのかあたしは。 はあ、それにしてもまあ。たった一日の間にファーストキスから何から、我ながらずいぶんとコトを進めてしまったものだ。 ついこないだまで、恋愛なんてのは交通事故みたいなもので、きちんと注意さえしていれば回避できるものだと思ってたのになあ。今はもう、四六時中あいつの事ばかり考えてる。キョンの奴には、出会い頭に思いっきりハネられちゃったって感じよね。ほんと、不覚だわ♪ …って、あれ? ちょっと待って!? そういえばキョンの奴、昼間、喫茶店でこんな事を言ってなかったっけ? 『人間なんて明日どうなってるか分からないから、みんなもせめて事故とかには気をつけろよな。特にハルヒ』 それからあたしに向かって『お前は直情径行の向こう見ずで、後先考えずに動くから』とか何とか言ってたような…。 えっ、えっ? ひょっとしてアレって、いわゆる暗示って奴? キョンってもしかしてもしかすると、予言者!? なんてね。たかだか1回セックスしたくらいで、奴の事を特別に不思議な存在だとか勘違いするほど、あたしは愚かじゃないのだ。 だいたいアレを『予言』だなんて言うんなら、あたしにだってそのくらい出来るわよ。そうね、たとえば――。 言わせて貰うなら、セックスなんてのは単なる行為のひとつに過ぎない。少なくともあたしはそう思ってる。 愛情がなくったって出来るし、何の証明にもならない。セックスしたから彼はわたしの物♪なんて、おかちめんこな考え方は噴飯物だ。一時の気の迷いで、そうひょいひょいと人の所有権を移動させないでほしい。 結局その考えは、あたしこと涼宮ハルヒが実際にセックスを経験した後も、特に変わる事はなかった。だからやっぱり、セックスなんてただの行為なのだ。 ただ、これだけは断言しておこう。 客観的、一般的には単なる行為だけれども、このあたしにとってはあんなに痛くて恥ずかしいコトは、よっぽど好きな奴が相手じゃなければとても出来やしない、と。経験者として、それは確信できる。そして今のあたしにとって、その相手はただ一人だけ…。 そう考えている内に、あたしは無意識に携帯の通話ボタンを押していた。 「(ピッ)もしもし、ハルヒか? こんな夜更けにどうし」 「分かってんの、キョン!? あんたは50億分の1、ううん、宇宙人やら未来人やらを含めても、世界中でたった一人の存在なのよ!? すごくありがたい話でしょうが! 選考委員のあたしにはもっともっと感謝するべきよ! 違う!?」 「…違うも違わないも。いきなりそんな勢いでまくし立てられたって、話の筋が全く分からん」 ああ、もう。本当に理解力にとぼしい奴ね。手間が掛かる事この上ないけど、やっぱりあたしがリードしてやらきゃだわ。 「いいから! あんたはこれからもあたしについてくればいいの! それとすっとぼけてる罰として、次に逢う時の食事代から何からは、ぜ~んぶあんたのオゴリだからねッ!」 「いや待て待て。次ってお前、今日のホテル代も結局は俺が払わせられたし、そのあと合流した朝比奈さんと長門には、なぜか特盛りパフェをご馳走させられたし、さすがに財布の中身がだな」 「なに言ってんの! 今日のあんたはみんなに心配とか迷惑とか掛けまくったんだから、そのくらい当然でしょ!? 急用で帰っちゃった古泉くんにも明日、学校でちゃんとお礼言っとくのよ!」 「へーへー。って、お前は俺の母上様か」 「うっさい! 文句があるんだったら、あたしに有無を言わせないくらいの気概をまた見せてみなさいよ、このバカキョンっ!」 ふふっ、気概を“また”見せてみなさいよ、か。 はてさて、次の機会はいつになる事やら。まるで見当も付かないけど、それまではこの、肝心な言葉をきちんと口にする事さえ出来ないムッツリスケベ男の尻を叩き続けるとしましょ。 そうして、携帯を通じてあいつへの叱咤を続けながら、あたしはこっそり今日の日記に、最後の一文を書き込んだのだった。 『初めての相手がキョンで、本当に良かった』 ――ってね♪ 涼宮ハルヒの不覚 おわり
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「あたしもまだまだってことか」 __ __ _. _ , '"´ ,. _ ___`丶、 / ` / /´-‐ァー-ヽ \. / /下7 /// / ト、 ゝ / └イ_j/ //;へ、/! / }ヽ ヽ ,' / /!l j lイ ひくヽ/,.イ,.ム ', ) , '〈/f`| l`' 丶ノ '´ rひjノ l ( ノ l {、| | ゝ‐ハ | `、 ゝ l 个| l! _ } } l } / l { ', {、 / / l / Vl ! | ', ヽ ヽ\._ / / /l ;v. リ, { {、 ヽ\ \;ゝ `「 フ´! / / 〃. ヾハj>''´ ヽ ト、_..上くイ { { { ノ /⌒ヽ、\ ` \-ー ̄\ヾ / ヽ \\ \´ ̄`ヽ、. l ', \\ \ __| \. | ', \`ヽ、 ∨n| } ト、 【チーム】 翔門会 【名前】 偽ハルヒ 【読み方】 にせはるひ 【種族】 人間? 【現在の余命】 不明 【初登場】 5thday 【AA出典】 【人物】 伊藤誠の指示で涼宮ハルヒになりすましていた女性。 だがキョンにあっさり見抜かれ、どこかへと立ち去った。 翠星石によると「釘宮声」をしているらしい。
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キョンがまた入院した。 と言っても、あの十二月の意識不明昏睡状態とは違い、今回はちゃんと意識がある。 理由は、交通事故。両腕と左足を骨折し、全治三ヶ月の重症である。 もう、バカキョンったら。なんであたしの指示を仰がずに交通事故に遭うのよ!これは懲罰物よ!だから早く治りなさい!一週間で! 「キョン、この涼宮ハルヒ様がお見舞いに来てあげたわ。喜びなさい」 「キョン、腕、痛くない?ちゃんと食べてる?早く元気になってね」 って……病院のトイレで、あたしは何の予行練習をやっとるんじゃァァァァァァァァァ! 眼前の鏡には美人女子高生、というより完璧あたしね。そいつがニヤニヤクネクネと気持ち悪く踊る姿が映っている。 「ふ、普通でいいのよ。普通に……あたしの普通ってなんだァァァァァァ!?」 元来、普通を嫌っていた弊害が、まさかこんな所で顔をだすとわ。 「……せっかく来たんだし、行こう」 あー、第一声はなんてかければ良いのかしら。 キョンが入院している個室病棟の部屋番号を確認し、持ち手に手をかける。何でちょっと緊張してるのよ。ばかばかしい。 「キョン。元気してるー」 「ちょ、!看護婦さん!近いですって!顔に当たります!俺の精神力を削るのは勘弁してください!」 「キョン君は本当に可愛いわね。大丈夫よ誰も見てな……あ」 お邪魔しましたー。それとあんたSOS団クビだから。 「だー!待て待て待て待て待て!」 「へー。さっきのは両手が使えないから、あの巨乳看護婦に食べさせて貰ってたんだー。便利な言い訳ねー」 「は、ハルヒさん?その笑顔は疲れないですか?さっきから一ミリも口角が下がってませんよ?」 死ね!退院したらもう一回交通事故に遭っちまえ!そして一年くらい入院しちまえ! 「せっかくお見舞いに来てやったのに、団員の自覚が短ないじゃないの?少しは不思議探しでもしときなさいよ」 「両腕骨折に車椅子じゃなきゃ動けない入院患者が、何を探せって言うんだよ」 こんだけ広い病院なんだから、幽霊の一人や二人いてもおかしく無いわ。あんた会ってない? 「会ってねーよ」 キョンは思ったより元気で良かった。元気すぎて看護婦を誘惑したみたいだけど。どこのエロビデオよ。 み、見たことは無いんだからね!? 「ところで食事制限とかは無いわよね。お見舞いにプリン持ってきたけど食べる?」 このプリンは一階の売店に陳列していた物だ。あたしが優しくするなんて今回くらいよ。 「ありがとな」 え、え、え、えーと?なんで口をパカッと開けているのかしら? 「いや、だって俺、一人じゃ食えないし」 そうだったぁぁぁぁぁぁ!これはあれか!?俗に言う「ア~ン」ね!?選択ミスった!いや、正解なのかしら!?って!どっちでもいいわ! 「い、いいわよ!食べさせてあげるわよ!」 「なんでそんなに力んでるんだよ」 効き手の指が小刻みに揺れているけど、プリンの蓋は気持ち良いくらいにキレイに開いて、薄ベージュのプリンを掬い取る。 「じゃ、じゃ、じゃ、口を開けなさい」 さっきからスプーンがガタガタに揺れている気がするが、そんなことは気のせいに決まっているので、慎重にキョンの口に運んでいく。うわ、キョンって結構まつ毛長いわ。 「お、旨いな。このプリン」 どうやらキョンの口に合ってくれたらしい。それだけであたしはお腹一杯だが、 「あたしが選んだんだから当然でしょ」 という強がりを言ってしまう。うー。なんで素直にならないのかしら? 途中、一口二口ほど零したけど、あたしの「ア~ン」ミッションはなんとか遂行できた。 これはまずいわね。本気で恥ずかしい。いや、決して嫌じゃないないというか、むしろ率先してやってあげたいけど……えーい!何を考えてるのよ! 「……なぁハルヒ」 「へいぃ!」 どこのうっかり八兵衛よ! 「どこのうっかり八兵衛だ。じゃなくって」 するとキョンが全身をクネクネ振るわせ始めた。ベッドの上でできる金魚運動? 「実は、そろそろ溜まって来たんだが」 ……タマッテキタ?溜まって……! 「だ!ダメよキョン!いくら両手が使えないからって、あたしに何てことさせる気よ!」 そういうのはもっと親密な関係になってからじゃないといけないの!このエロキョン! だがキョンは、あたしが狼狽していることに気にも留めず、ナースコールを押して……あれ?ナースコール? 「はぁーいキョン君。呼んだー?」 出たな!この巨乳看護婦!って、ちょっと待ちなさいキョン!あんたその人にやってもらうつもり!?ふざけんじゃないわよ!あたしだってやったこと無いのに! 「あー、すいません。お小水お願いします」 って、そっちかい!そりゃそうよね。もー、あたしったら、何てハレンチな想像を。もとい、妄想を。いけないいけない。 だが、 「あら?でもせっかく彼女さんがいるんだし」 へ? 「彼女さんにやってもらったら?」 気がつくと、あたしの腕の中に尿瓶が包まれていた。 よし、みんな準備はいい? 「どこのエロビデオよ!」 涼宮ハルヒは尿瓶を装備している。つまりこの中にキョンの「あれ」を…… 「……ハ、ハルヒ?別にそんなことしなくてもいいんだぞ?むしろ今すぐ止めていただきたいのですが……」 ……え?あたしに触られるのは嫌なの? 「そんな顔をするな!いや、別に触られたくないとかそんなんじゃなくな、俺たちは別に恋人同士ってわけじゃないわけで」 恋人同士じゃない。そりゃそうね。なんかあたしの片思いくさいし。でも、キョンのお漏らしなんて見たくないわけで。 「……いいわよ」 「は!?お前何を血迷ったことを言」 「うるさい!ガタガタぬかすんじゃないわよ!」 ガタガタなのは、あたしの方だけど! なにか言おうとしているキョンを無視し、とりあえず掛け布団の中で腕を忍び込ませる。大丈夫大丈夫見なければ大丈夫。 よし。パジャマズボンとパンツキャッチ。そのままゆっくり下ろす。 スルスルスルスルとキョンの腿をずり落ちていくズボンに反比例するかのように、あたしの心拍数は16ビートを刻んでいく。こっちみんなキョン! 「よせハルヒ!こっから先は禁則事項に該当するから!変な使命感に駆られるな!」 黙りなさい!決心が鈍る! とりあえずパンツを腿までズリ下げることに成功した。だけどここからが最難関である。 キョンの「あれ」を尿瓶の口に押し込めなければならない。つまり「あれ」に触らなければならないのよね。 考えちゃダメ考えちゃダメ考えちゃダメ考えちゃダメ考えちゃダメ。ここはためらわず、一気に行く!うるぁぁぁぁぁ! 「……あ」 キョンの口から男とは思えないほど甘い吐息が漏れたのは、あたしの手がキョンの「あれ」を鷲掴みしたからだ。 親父の以外には見たことが無いわけであり、ましては触ったことの無い「あれ」は、まさに初めての体験だった。 それは皮膚の下でドクドクと熱い液体が蠢いており、人間のどの部位よりも熱を持っていたと思う。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 反射的に手を「あれ」から離し、掛け布団がはためく。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 さらに絶叫。布団がはだけ、「あれ」があたしとご対面!うっそ!?あたし、これに触れたの!?こんな、え! 「キョンく~ん。元気ですか~?」 「どうですか?僕の叔父が経営している病院は?」 「買ってきた。お見舞いカレー」 完
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引き続き、市内パトロール後半戦である。 「どこに行きましょうかね」 俺と朝比奈さんはファーストフードを出た後、どこへともなく歩を進めている。はたから見ればじらしい男女カップルのはずであり、まさか夢世界の存在を探してさまよい歩いているとはそれこそ夢にも思わないだろう。 「そうですねえ。お買い物は午前中に古泉くんとしちゃいましたしねえ」 古泉で思い出した。 「そういえば古泉は何か言ってましたかね。あいつに昨日生徒会室で見つけたメッセージのコピーを渡したんですけど」 「いろいろ訊かれましたよ。昨日の学校の様子とか、未来がどうなっているかについても。未来のほうは解りませんとしか答えられなかったけど。まだねじれが元に戻る気配がまったくなくて先が見渡せないんです」 そりゃ、長門が戻ってこない限り時空間のねじれも収まることはないだろう。というより、戻ってもらっては困る。それはようするに長門がいない未来が俺たちの未来だと決定されちまったってことだからな。分岐の選択を誤ってはならん。 「パスワードのことは何か言ってましたか? 何か解ったとか」 「うん。どこかのパソコンやデータにかかってるロックをはずすためのものだろうって言ってましたけど」 そんくらいは俺でも見当がつく。 「他に何か言ってなかったんですか? 具体的にどこのロックを解除するとか、どんな意味を持ってるのか、とか」 「ううん。それ以上は解りません、って古泉くんは言ってました。……でも、もしかしたら本当は解ってるのかもしれませんね」 「あー。……えーと、どういう意味ですか?」 朝比奈さんの口からこぼれた一言に付け入ってみると、朝比奈さんはうつむき加減になった。 「あたしたち、というよりは未来人と超能力者っていう区切りで言ったほうがいいと思うんだけど、この二つの勢力は完全な同盟関係にあるわけじゃないんです。今もお互いの動きを見張ってて、ふとしたことから関係が激化することもありえるって感じ。だから、たとえTPDDが使えなくて未来とコンタクト不可能な状態のあたしでも、古泉くんの組織が不用意にそんな貴重な情報を渡してくれるとは思えないんです。あ、もちろん古泉くんに悪気はないんですよ。ただ、どうしてもそうなっちゃってるだけで」 俺はいつだったか、朝比奈さんと古泉がお互いの考えを信用するなと言ってきたことを思い出していた。映画撮影のときだっただろうか。朝比奈さんや古泉が言っているのは、あくまで一つの考え方を言っているいるだけだとお互い非難し合っていた。 あれからずいぶんと経ったものだが、未来人と超能力者はいまだに信用しきれる関係までにはいたっていないらしい。 「それじゃ、古泉は朝比奈さんに何も教えてくれなかったんですか? ちょっとしたことでも」 「そうなんだけど……でもキョンくん、誤解しないで下さいね。古泉くんが本当に何も解らないこともありえるから」 さあどうだろうね。あの説明好き古泉なら、正答でなくとも可能性のある考えぐらいは提示してくれそうだが。 皮肉なものだ。 目を伏せている朝比奈さんを見たらよけいそんな思いに駆られた。 朝比奈さんが、未来人という立場からではなく独立した存在として俺たちを助けたいと決意してくれているのに、古泉の組織はそれを信用してくれない。朝比奈さんはあくまで未来人の一端であるという考え方を捨てないのだ。よって、朝比奈さんは行動を起こしたくても起こせない状況にある。 古泉を非難しなければならないだろう。 そうでなければ、未来に影響されることなく自分の思うように行動したいと言ってくれた朝比奈さんがあまりにも報われん。愛らしいからとかそういう感情を抜きにしても、こんな哀しそうな表情をしている朝比奈さんを放っておけるやつはいないぜ。 「あれ、もしかしてキョンかい? これは、なんと珍しいこともあるものだね」 俺は不意に背後から投げられたひょうきんな声によって現実回帰を果たした。 「ひゃっ……」 横で驚いたような声を出して俺の腕にしがみついてくる朝比奈さんを感じながら振り向くと、そこには見覚えのある顔が三つ。 「お前ら――」 ヒントを出すと、男一人で女二人だ。 「同じ市内に住んでいるのだからさほど珍しくはないかもしれないが、こうしてかつての同級生と街中で再会するという偶然は何ともロマンチックなものだとは思わないかい? それとも、キミにとっての僕というのはかつての同級生扱いしてくれるうちには入らないのかな」 こういう喋り方をするのは、俺の知り合いには古泉以外ではあと一人くらいしかいない。 ただの昔の同級生だったはずが、今年の春になって妙な連中を引き連れ、ご丁寧に自分のプロフィールまで書き換えて俺の前に再登場したやつである。神様アンド九曜騒動以来ご無沙汰かと思っていたら、こんなときにひょっこりと現れてくれた。 そしてその横に伴われているのは微笑を浮かべる女とふてくされたようなツラをする男であり、嫌なことに両方とも顔見知りである。男のほうはいつでも不機嫌オーラ全開のために第一印象も最悪に近いものだが、女のほうは気だてもよさそうだし顔とスタイルだけ見ればもう少し惹かれるものがあったかもしれんな。どっちにしろ俺はそうではない出会い方をしちまったもんだから、この誘拐女に魅力を感じるとか感じないとかいう予測がシロウトのトランプ占い以上に何の役にも立たないことは知れているのだが。 わざわざ引っ張る必要もないか。答えを言っちまおう。 そこには、ハルヒ的パワーを持つ佐々木、朝比奈さん誘拐犯の橘京子、いけ好かない未来人野郎の藤原が、三者三様の表情をして立っていたのだった。 * 「ごめんね佐々木さん、この人に会うように少しだけ時間と歩くルートを調整させてもらってたんです。偶然ではないの」 驚くべきことに、最初に橘京子の口から発せられたのは俺に対するものではなく佐々木に対する謝罪の言葉だった。 俺は不快感を隠すことなく橘京子に向かって、 「何の用だ」 「ふふ。用があることは確かなんですけどね。そうだな……あの川沿いの公園に行きましょうか。お互い訊きたいことはいろいろあるでしょうけど、お話しするのはそこで腰を落ち着けてからにしましょう」 いいですよね、というふうに佐々木と未来人(男)に目を向ける。佐々木は無言でうなずき、未来人野郎はふんと鼻を鳴らした。最後に俺と朝比奈さんに目をやる。 俺は朝比奈さんに確認を取って首肯させてから、 「こちとらハルヒと集まって街探索の途中なんだ。変に時間を使うようなこととか、そういうのはなしにしてくれ」 「大丈夫です。せいぜい事実確認とこちらの方針をお伝えする程度ですから。時間をそんなにいただくつもりはありません」 そう言うなり橘京子は先頭切って歩き出し、佐々木も藤原も後に続いたため俺たちも歩き出すほかなかった。 約一名、つまり周防九曜の姿が相手方に見えないのは仕様だろうと片づけることにした。 おかげでより確信が強まったね。誰か――それも九曜か、あるいはそれにかなり近い存在がどこかで采配を振っているに違いない。そうでなければ九曜がこの場にいない理由がないのだ。そして、そいつは間違いなく長門を消した張本人だ。そいつは長門の敵、ひいてはSOS団の敵である。 何となく頼りなかったので、いったんは古泉も呼ぼうかと思っていた。しかし考えればあいつは運がいいのか悪いのかハルヒと二人で不思議探索中であり、古泉を呼んだつもりがオプションとしてハルヒまでついてこられては文字通り話にならないので俺は一度出しかけた携帯を上着ポケットにしまいなおした。 「キョンくん、この人たちって」 俺とともに隊列の最後尾を構成する朝比奈さんが小声で不安げに尋ねてくる。 「ええ、春の時の連中です。約一名姿が見えませんけど」 「大丈夫かなあ……」 朝比奈さんが呟きともとれるほど小さな声で呟いた。俺は反応するべきかしばし考えてから、 「大丈夫だと思いますよ。相手も九曜がいないらしいですし、何の話もなしにいきなり危害を加えてくることはないでしょう。それに、いざとなったらこっちには古泉もハルヒもいるんですからね。何のことはない、あいつらを頼ればいいんです」 朝比奈さんははっとしたような感じで顔を上げ哀愁とも怒りともつかぬ微妙な表情をしていたが、やがて「そうですね」と言って顔を伏せてしまった。あれ、何か悪いことを言っただろうか、俺。 * 休日であるために公園内の人口密度はそれなりに高かったが、いるのはせいぜい何も知らないガキとそれを引き連れる親だけであり、スパイやエージェントはおろか普通の高校生の姿もなかった。当然と言えば当然か。 超能力者と未来人と一般人という取り合わせの俺たちは、なるべく人気のない公園の隅に寄り集まった。周りはほのぼのした雰囲気だが、俺たちの間に流れる空気はそんなに柔らかいものではない。 「えっと、どう切り出していいか解らないんだけど」 口火を切った橘京子はそう前置きし、 「とりあえず謝っておきます。ごめんなさい。二月の誘拐未遂といい春とといい、いろいろ迷惑をかけました。怒りたい気持ちは解るけど少し我慢してくれませんか? 今のあたしに敵意はありませんから。けど、そちらの未来人さん、もしあたしたちといて気分が悪いようなら席をはずしてもらってもいいですよ」 誘拐女の目線が朝比奈さんを捉えると朝比奈さんはびくっとした感じで俺の腕にすがってきた。しかし動くつもりはないらしく、そのままの姿勢で固まっている。 橘京子はそれを見てこほんとわざとらしく咳払いした。 「涼宮ハルヒさんを監視している宇宙人、つまり長門有希さんのような存在ですね。彼女たちや他の宇宙人さんが、二日前の金曜日からこの世界にいなくなっているのは気づいてるよね?」 そうでなかったら橘京子と話す義務など皆無である。プライベートで会おうと言われたら二秒だけ考えてから断るね。 「そうですね。じゃあプライベートの誘いは控えるようにします。ふふ、ちょっと残念かしら」 どうでもいい。俺に色目使ったって、せいぜい喫茶店代くらいしか出てこないぜ。 「ごめんなさい。では話を戻しますが、実は最近いなくなってしまったのは、あなたがたが情報統合思念体と呼んでいる存在のインターフェースだけではなかったの。見たら何となく解るかもしれないけど、こちらでも九曜さんがいなくなってるのです。どのくらい経つかしら、先週の休日に集まったときはもういなかったわよね?」 「そうだね。彼女のことだから超能力的な力を使って透明人間になっているだけかもしれないが、少なくとも僕の目はここ一週間彼女を捉えてないよ」 佐々木の反応に、藤原も面倒くさそうに首肯した。 「単純に休日の集まりに参加してないだけとか、そういうことはないのか?」 「それはないな、キョン」 俺の説を佐々木はあっさりと否定し、 「彼女はね、なんだかんだ言って休日に僕たちが集まるときには必ず来るのさ。僕たちを観察しているつもりなのか知らないが、何も喋らないからよけいに興味を惹かれるんだ。稀に来ないのは藤原さんぐらいなものさ」 「僕には毎度毎度律儀に集まるほうの気が知れないね。僕は無意味に動くようなことはしないんだ」 佐々木は苦笑して肩をすくめた。 まあ、そうか。実は俺もそうじゃないかと思ってたんだが、ただ聞いてみただけさ。 なるほど長門から聞いたエピソードそのままである。一週間ほど前に周防九曜が地球から出ていって、そのために天蓋領域の位置も特定できなくなっているという。日数的にも橘京子が言ったことと長門が教えてくれたことは一致している。 俺は驚く代わりに疑問をぶつけた。 「それが、長門たちが消えたことに関係してるって言うんだな?」 橘京子は言いにくそうにして、 「あまり考えたくはないですけど、その通りだと思います。偶然にしては都合がよすぎるもの。九曜さんが消えた後にすぐ長門さんたちが消えていますし、彼女たちが敵対関係にあることを考えても何か関係がある可能性は高いです」 「関係とかそんなんじゃなくて、単純に九曜が長門の目の届かないところから攻撃しようとしたとかいうことなんじゃないのか?」 俺は古泉に話してやった論説を橘京子たちにもう一度説明してやった。 九曜が突然姿を消したのは長門たちの目をくらますためであり、敵に自分たちがどこにいるかを解らなくさせておいてから不意打ちをしかけるためだった。事実、長門は天蓋領域の位置特定ができていないと言っていたしな。そんでもってその作戦は見事に成功し、敵の居場所が解らなくて防御できなかった長門たちは消し去られてしまったのだ。古泉によると九曜には肝心の存在を消す力はないらしいが、面倒な話になりそうなのでここでは披露しなかった。 橘京子と佐々木は興味深そうに、藤原はつまらなさそうに、朝比奈さんは驚きを交えながら俺の話を聞いていた。 「と、いうのが俺の推理だ」 俺が言葉を切ると、真っ先に佐々木が反応した。 「いやあ、すごいなキョン。キミにこんなにも事実を鋭く捉える力があったとはね。それだけの材料が集まっていたとはいえ、なかなかできるものじゃないよ。たぶんいい線を行っているんじゃないのかな?」 「あたしもそう思います」 橘京子が続く。 「最初はもしかしたら二人とも宇宙にある強大な力に消し去られてしまったんじゃないかと思っていたんですけど、確かに不意打ちという解釈ができますね。そう言われてみるとそんな気がしてきます」 お世辞だか本気で言っているのか知らんが、そんなのは時間の無駄だからいい。藤原が俺の話を聞く気がなさそうなのも無視だ。 「それで、お前らはどうするつもりなんだ。仮に俺の言った推理――九曜が長門やSOS団を攻撃しようとしているってのが正しいとしたら、お前らの組織はどう動くつもりなんだ。お前も九曜の仲間だから、やっぱり加勢してSOS団を攻撃するつもりなのか?」 「冗談じゃない」 ひねくれた声を出したのは橘京子ではなく藤原だった。この未来人野郎は眉間に皺を寄せて俺を睨みながら、 「これはあの広域帯宇宙存在の手前勝手な行動だ。独断もいいところさ。時空間をさんざんねじまげたあげく、僕の未来にまで手を出してやがる。規定事項も変数乱数の状態だし、TPDDによる時間移動もあらゆる時間修正も不可能。たぶんあんたの未来もそうだろう?」 藤原は朝比奈さんに目をやった。 「えっ、は、そうです。TPDDは使えないし、分岐が時間平面上に大量発生してて未来が確定されてません」 「もしかしたら意図してやってるのかも知れないが、わざわざ僕の邪魔までしてくれた。この時間平面上の時空間をこじらせるのならともかく、僕の未来まで改変するような奴を手助けするつもりはないね」 俺には少なからずザマミロという感情が芽生えていたが、藤原は卑屈に笑って続けた。 「ただし、それがなかったら僕の判断は違っていたかもしれない。ある意味では、これは目障りな組織どもを一掃するチャンスさ。あの宇宙人が消えれば涼宮の力はほぼ無防備に晒されることになる。九曜の連中をどうにかして総攻撃をかければ、僕の未来がその力を抽出することも、それを使って何かをすることも可能になるわけだ。あいにく、その未来が封じられてしまった今はどうしようもないが」 とんでもない妄想語りだ。 ハルヒの力を手に入れられるだと? ふざけるな。あいつは無機質の物体ではなく有機移動物体だし、その頭ん中と行動力にかけては常識をはるかに超越している。だからまともな手段でハルヒに近づこうったってハルヒは大規模な閉鎖空間でも作って知らせてくれるだろうし、力尽くでってんならSOS団サイドが黙ってないぜ。藤原には到底無理な話だ。九曜なら、あるいはできるかもしれんが。 ん? 待てよ。何だこの感覚は。 ハルヒの力を手に入れて、それを使って何かをすることができる。ハルヒの情報改変能力。強大な力。九曜ならば……? ダメだ。解らん。 一回押し寄せた波が退いていくように、一瞬だけ俺の頭に現れた感覚もすうっと醒めていった。 はたして、俺たちの間には沈黙が訪れた。周りのガキと晴天の空の雲だけが動き続ける、嘘っぽいほどのどかで暖かい風景。 俺が考え疲れて、気晴らしに缶コーヒーでも買ってこようかと自販機に向かって踏み出そうとしたとき、 「あたしたちのこれからの動きについてなんだけど」 橘京子が沈黙を破った。仕方ないので俺も橘京子に向き直る。 「実は、あたしたちの組織も混乱しているのです。古泉さんのところもそうだと思うけど、こんな事態は想定外です。九曜さんが独断を強行するなんて考えてもみませんでした。それに、たぶん未来人さんにも予測は不可能だったんじゃないかしら。彼らの言う、規定事項じゃない、ってことでいいのかな?」 「そうなんですか朝比奈さん」 朝比奈さんはうつむいたまま、 「そうです。今みたいに未来がたくさんできちゃってるってことは、規定外のことが起こったってことなんです。あたしが知らされてないんじゃなくて本質的に予測不能のことだと思います」 「未来からすればこれはノイズみたいなものさ。九曜がやったのか九曜の上の立場の奴がやったのか、どっちにしろ余計なチャチャを入れてくれたもんだ」 藤原の声が付け足した。 「未来人にも解らない突発的なものなんですね。うん、ノイズって言うのが正しいかもしれないわ。誰にも予測ができなかったのだから相当無理やりな行動です。はっきり言うと、あたしの組織はこの事態を歓迎していません。誰にどんな影響を及ぼすのか、その結果世界がどうなるのかまったく解らないもの。下手をしたら涼宮ハルヒさんも佐々木さんも、それを取り巻く人間もすべてこれを招いた人――九曜さんの可能性が高いけど――の手中に収まってしまいます。それだけは回避しないといけません」 しかし、回避するったってどうするつもりなんだ。九曜じゃなくても長門の類の宇宙人を一夜にして地球上から抹消できるような奴なら、橘京子の一派や『機関』だけでは太刀打ちできそうにない。ハルヒの不思議パワーを使えばどうにかなるかもしれんが操縦しようとしたところで暴発するのが関の山だな。それに、悪いが未来と接続を絶たれた状態では未来人がそれほどの役に立ってくれるとは思いがたい。って、一番何もできない俺が言うのもアレだが。 俺が何か他の可能性を模索していると、この超能力娘が古泉見習いのような微笑を称えてさらりととんでもないことを口にした。 「場合によっては、あたしやあたしの組織はあなた方に加勢します」 笑ってやろうかと思ったが冗談ではない雰囲気なので放棄して、次に俺は耳を疑い、耳も安泰らしいと解ると俺はいよいよ絶句した。 橘京子の組織がSOS団の味方になる? ありえん。 SOS団には古泉もいるんだ。こいつの一派は古泉の組織とはどこまで行っても平行線で対立してるんじゃなかったのか。決して交わることはない、と古泉は言っていた。 まさかとは思うが、そんな大組織がコロッと寝返りでもしたのか。だったらやめといたほうがいい。俺はとてもじゃないが昨日の敵を信用する気にはなれん。昨日の敵は往々にして今日もまた敵なのだ。いきなり友になったりするもんじゃない。眉唾モノの極みである。 「そう言われるとは解ってましたけどね」 橘京子は微笑のまま表情を固定して眉一つ動かさない。 「でも言ってみるしかなかったんです。あたしだって間接的に古泉さんのところと手を組むのはあまり嬉しいことではありません。けれど、共通の敵となりうる存在が現れたからそれに対処するために仕方なくです。でも、嬉しいことじゃないけどそんなに悪いことでもないと思うな。あなたはあたしたちの力を借りるのをよく思ってないみたいだけど、これはあなたたちだけでどうにかなる問題ではありませんよ?」 「何だそりゃ。まるで何が起こってるのか知ってるみたいな口振りじゃねえか」 「ふふ。いろいろ調査させてもらってますから。でもあなたたちだけで対処できる問題じゃないってのは本当よ。想像してみて。古泉さんの組織やここにいる朝比奈みくるさん、あなたが全力を注いだとして、九曜さんやそれに類似する宇宙人にかなうと思いますか?」 思わんね。残念なことに。戦国時代の馬に乗った将軍が何十人いたところで、現代の戦車一台に太刀打ちできないのと同じ理屈だ。情報改変なんて技を使いこなすような九曜に勝てるとは思わん。 しかしな、こちらには涼宮ハルヒと名付けられた最終破滅兵器があることを忘れてもらっちゃ困るぜ。九曜よりももっとタチの悪い爆弾だ。 「忘れてたわけじゃないんだけどね。これは古泉さんも同意見だと思いますけど、外部からの圧迫から逃れるために涼宮ハルヒさんの力を使うのは危険極まりないことなのですよ。彼女の持つ力はあくまで最終手段、八方ふさがりで地球の人間の力だけではどうしようもならなくなったときにのみ、相当のリスクを背負って使わないといけません。あたしたちで何かできるのならそれをしないといけないのです。それがあたしの場合はあなた方と手を結ぶことだったという、ただそれだけです」 どうでもいいが、ハルヒのことをまるで無機質の核兵器みたいに言うのはやめてもらいたい。あながち間違いでもないのがさらにイラつくわけだが、そんなふうに言われると俺の心証が悪くなるのでね。 俺は超能力娘から聞き役に従事しているひねくれ野郎へと視点を移動させた。 「お前はどうなんだ。仲間の超能力者がこんなことを言ってるが、お前も同意見でSOS団に味方するつもりなのか?」 「さあね」 藤原は今度こそ嫌気がさしたように鼻を鳴らすと、すっくと立ち上がった。 「帰らせてもらう。どちらにしろあの宇宙意識が抜けた以上、僕にとっての仲間などというのは何の意味も持たない概念でしかない。ついでに言うと、僕はこの件に関わるつもりはないから安心するといい。面倒事には巻き込まれたくないのでね。そのうちどこかの未来と通信経路が復旧するまで大人しく待っていることにするよ。せいぜい愛しの宇宙人探しをがんばるといいだろう」 後ろから奇襲を仕掛けたくなるような口調で言ってのけ、藤原はこちらを振り返ることなくさっさと公園から出ていった。俺が少なからず疑念のようなものを抱いてその後ろ姿を見送っていると、 「彼は放っておきましょう」 橘京子が珍しくも醒めた声で言った。 「無理に首をつっこませる必要はありません。事態が悪化するのはお互い嫌ですからね」 そのお互いってのはお前と誰を指して言ってるんだ。 「さあ、誰でもいいんじゃないかしら。……あっ、と。そろそろ時間が厳しくなってきましたね。佐々木さん、休日に時間をとらせてしまってごめんなさい」 「いや、僕は構わないよ。実に面白い会話だったからね。むしろ、たいしている意味もないのにこんなところに誘ってくれたお礼を述べたいくらいだ」 俺にとってはずいぶん気分の悪い会話だったのだが。 そんな俺の様子を察したのか、佐々木は困り顔になって言った。 「すまないねキョン、僕はキミに悪意を持っているわけじゃないんだ。逆に憧れはする。一般人の傍観者の立場から入って今まで、キミはどんな葛藤を背負って生きてきたのだろうか、とね。僕のような無理やり与えられた当事者の立場ではないってところが重要なんだ」 「…………」 俺は答えなかった。というよりか、答えたくなかったのかもしれん。理由なら訊くな。何となくだ。 「ますます気分を悪くさせてしまったかな。重ねて申し訳ない。申し訳ないついでに忠告しておくと、そろそろ駅前に帰ったほうがいいんじゃないだろうか。涼宮さんが怒ったところはずいぶん怖そうだからね」 「ああ」 俺は腕時計に目をやった。もう約束の四時が差し迫っている。俺は帰るキッカケを得たなと思って立ち上がると、 「じゃ、俺たちも帰らせてもらうぜ。ほら朝比奈さん行きましょう。少し急がないとやばいですね」 「あ、は、はい」 ぼうっとしていた朝比奈さんは俺の声で我に返ったようになり、佐々木と橘京子に向かってちょこんと頭を下げると俺の後についてきた。 「じゃあな、佐々木。あとそっちの超能力者、妙なことだけはするなよ」 俺は釘を刺すと、それとなく朝比奈さんの手を引いて小走りに川沿いの公園を出た。 * 指定された駅前に戻ると、二分待ったと言ってしかめ面をするハルヒ、そしてその横でどっかのホストクラブから間引いてきたような顔をして立っている古泉がいた。 夏が近づき、それに比例して日も長くなっているために外はまだ真っ昼間の様相を呈していたが、他に行くところもないので今日はこれにて解散ということになった。 「明日も九時に駅前集合だからね!」 というのがハルヒから俺に向けられた唯一の言葉であり、あとは朝比奈さんに近づいて栗色の髪をいじったりしている。いつものことさ。今日はその横に伴われて黙々と歩く少女が足りていないだけだ。 「あなたからお借りしたパスワードのことについてですが」 俺がそんな女子部員二人を見るともなしに眺めていると、俺の隣を歩く男がささやいてきた。古泉は困り笑顔になって、 「すみません、解りかねます。まったくわけが解りません。どこのロックを解除するためにあるのか、そもそもすべての始まりとは何なのか、いろいろ考えてみましたが全然ダメですね」 俺はそんな言葉を吐く古泉に軽薄な目線を寄せ、 「何か可能性のある考えとか仮説は?」 「いえ、そんなものを立てようにも皆目見当がつかないんです。ただ、どこかのロックを解除するためのものだとしか」 ちっ。 と、俺は内心舌打ちした。昼間に朝比奈さんが解らないそうですと言ってきたのは本当に解らなかったのか。考えも仮説もなし。何だ、せっかく古泉に考えるチャンスをくれてやろうと思ったのにな。いや、俺がここで残念がっても仕方ないのだが。 「参りましたね。おそらく僕が考えていても到底解りそうにありませんから、今日にでも『機関』のメンバーに助力を頼むこととします。ご安心下さい、僕が信頼を置いている確かな人物にしか見せませんから。ですから、このコピーはそれまでお借りしていてもよろしいですよね?」 「別に構わん」 しかし、ということは昼間のは朝比奈さんの思い違いだったのか。超能力者はそんなに未来人を避けているわけではなく、朝比奈さんが被害妄想を抱いていたということなのか? いや、もしかすると今回のは偶然だったのかもしれん。もし古泉が午前の時点で解答を得ていたとして、その答えを朝比奈さんに教えるという保証はないのだ。とするとやはり超能力者と未来人の間にあるわだかまりはもう解消されていると考えるのは早計か、ううむ。 「何か懸案があるようですね」 どきりとするようなことを言いやがる。勘が鋭いというか、まさかお前には人の心を読む能力でもあるんじゃないのか。 「ありませんよ。時々あったらいいなとは思いますが、やはりないほうが楽しいに決まってますね」 相変わらず微笑みを崩さない古泉に、俺は仕方なく朝比奈さんと話したことをうち明けた。 ようするに、超能力者と未来人はお互いを信用して助け合うほどの間柄ではないのではないか、と。重要な情報は相手には握られたくないのではないか、と。俺はついでに昼に朝比奈さんが唱えていた超能力者と未来人に関する説も話してやった。 古泉は俺の話を興味深そうに聞いていたが、俺が一種の居心地の悪さを感じて言葉を切ると見事なまでに苦笑した。何だよお前は。 「それは考えすぎですよ。確かに我々超能力者と未来人との間には乗り越えられない壁もありますが、一方で共通理解が可能な部分も非常に多いです。それに、以前あなたにお話ししたように、朝比奈さんは護ってあげるべき愛らしい上級生ですからね。これは本心ですよ。あと誤解されないために釈明しておきますが、僕はパスワードについては本当に何も解りませんでした。先ほどあなたにお話しした通りです。それに朝比奈さんがそんなことを考えているなど思ってもみませんでした。まだまだ精進が足りませんね」 古泉の様子に嘘をついている素振りは一切ない。もっとも、ここまで来てまだ嘘をついているようだったら俺は心底古泉を見損なわなければならないのだが、よかったな。 「つうことは、去年の映画撮影のときからお前の組織や朝比奈さん派の未来人は多少なり考えを変えたってことか?」 「どうしてです?」 「いやお前、映画撮影のときに朝比奈さんの言っていることを否定しやがるようなことを言ってたからな。朝比奈さんもまたお前を信じるなって言ってきたが」 古泉はわざとらしく驚いたような顔をして、 「よく覚えてらっしゃるんですね。忘れかけていました。その通りです。我々の『機関』と未来人は今やお互いに歩み寄って、間にある溝を少しでも減らそうと努力しあっている状態にあるんですよ。それの発端というのが面白いことに、このSOS団に僕と朝比奈さんという超能力者と未来人がちょうど居合わせたからなんです。そのおかげでずいぶんと変わりましたよ。朝比奈さんも長門さんもあなたも、そしておそらく僕もね。一年前とは比較のしようがありません」 そんなことは言うまでもない。 朝比奈さんは昔も今も変わらず可愛らしいし、長門にいたってはちっぽけな感情のかけらのようなものを獲得することに成功している。俺はともかくとして古泉だって何か変わっているはずなのだ。こいつはただそれを表に出さないだけでな。 それはいいがお前、肝心の誰かを忘れてないか? 「やはり気づきましたか。わざとですよ。彼女、涼宮さんについては深くお話しようかと思いましてね。SOS団の中で一番変わったのが彼女ではないでしょうか」 変わった変わったうるさい奴だ。終わる前からそういうことは言うべきでないし、ましてや順位づけするなんてもってのほかだ。ハルヒと朝比奈さんと長門に失礼である。 「夏休みのことなんですがね」 古泉はそう言い出した。 「このまま順調に行けば、もうすぐ夏休みがやって来ますね。無論長門さんのいない今が順調に行っているなどと不謹慎なことを言うつもりはありませんが、彼女が見つかろうが見つからなかろうが夏休みはやって来ますから。それで、今日の不思議探索で涼宮さんが合宿のことを話題にあげたものですから、僕は提案してみたんです。せっかくだから今回も殺人劇のようなものを用意いたしましょうか、とね」 余計なことを言うな。 「安心して下さい、あなたが望むとおり彼女の返答は否定形でしたよ。つまり、殺人劇はいらないと言われたわけです。合宿中はSOS団のメンバーや鶴屋さん、あなたの妹さんと一緒に遊び倒すから劇も推理ゲームも今回はいらない、とね。驚きです」 「何がだ」 「涼宮さんが合宿の期間中だけでもファンタジーの世界から手を引こうとしていることに、ですよ。あなたも御存知の通り、彼女は三年前――もう四年前ですね――からずっと宇宙人や未来人、超能力者と邂逅を望んできました。あなたは詳しくは知らないでしょうが、それはもう、ずいぶんといろいろなものを犠牲にしてまで彼女はそういったものを追い続けてきたんですよ。だから僕がここにいる。しかし、今回彼女はそれを夏合宿の間は封印するという心意気でいるんです。考えてもみて下さい、なんだかんだ言って涼宮さんはどんなことでも謎的存在と絡めたがっていたでしょう? 本当は興味が薄れていたのかもしれませんが、表向きだけでも、彼女は今まで不思議を探索するということにしていたんです。それが今回はどうでしょうか。驚くべきことに、彼女は仲間と遊び倒すと言っているのです。つまり、今回の合宿の目的は不思議探しではありません。仲間と友好を深めることなんです。どうです、こんなことは初めてでしょう?」 「そんなことはないだろ」 俺は反論した。 ハルヒの行動の裏付けに全部謎探しが入っていると思ったら大間違いだ。ハルヒが今日不思議探しなんて称してやってるのは周りの人間から見ればただのヒマな高校生が遊び回っているようにしか見えないだろうし、事実そうである。今日の午前中に俺とハルヒはデパートに行ったが、あれは不思議を探すためなんかじゃないと今なら断言できるね。不思議を探すことなんかじゃなく、SOS団のメンバーとぶらぶらすることに意味があるんだ。そんなことは、俺たちの前で悩み事など一つもないような顔して朝比奈さんをいじってるあいつの顔を見ればすぐに解る。 そこらへんで、俺は形容しがたいムズ痒い感覚に襲われて黙りこくった。 古泉はその様子を見て軽く笑い、 「あなたも解っているのか解っていないのか、僕からすれば謎のような人間ですよ。ええ、そうです。どのくらい前からかは知りませんが、彼女は本気で宇宙人やその他の存在と巡り会いたいとは思わないようになってきているんですよ。しかし彼女はそれを決して肯定しようとはしなかった。その葛藤も、時として閉鎖空間になって現れるわけです。あくまで市内の不思議探しの目的は不思議探しのままですし、涼宮さんには何をするにあたっても不思議というのが大前提でした。しかしそれを今回、彼女はあっさりとくつがえしたんですよ。自分の意識にある、仲間と一緒に遊びたいという思いに対して肯定的になったんです。そして逆に、不思議との邂逅ということはだんだんと価値を失っている」 別に悪いことじゃないだろうよ。ハルヒがそんな妙なことに気を取られないよう、まっとうな女子高生として生きてもらうのがお前らの目標じゃなかったのか。あいつがただの何の変哲もない人間になることを、お前らの組織は願ったんだろ。 「あなたはそれで割り切れるのですか」 古泉が俺に真面目な顔を向けた。古泉にしては強引ではっきりした切り口に、俺は少し動揺した。 「このまま、勢いを失ったろうそくの火がぽっと消えてしまうように、彼女が不思議を探さなくなったりしたら。もしそうなったとしたら、彼女が望まない以上、僕や僕の仲間は涼宮さんに与えられた能力を失うでしょうね。《神人》ともお別れです。確かに、それがいいことなのは解っているんです。彼女の精神は安定して、彼女の周りにいるあなたのような人間も静かに過ごすことができますから。しかしね、もしそうなったときに、そんな表面の理性だけでは割り切れない、何とも言えない虚脱感がこみ上げてくるのを僕はリアルに想像できるんです」 そんな未来予知が何の役に立つのか知らないが、俺もたぶんそうなるだろうことは容易に想像できた。あえて口には出さないが。 そんなん、非日常の世界に未練が残らないほうがおかしいのだ。よほど恐ろしい世界であるのなら別として、俺はSOS団での日常をそれなりにエンジョイしているつもりだし、これからもそうするつもりだ。 まあ、これから何が起こるのかは考えたくもないけどな。 しかし何が起ころうと、それを俺の死ぬ直前になればあああれは楽しい思い出だったなあと思い返す自信はある。というより、そうなるように今の俺は努力しなければならんのだ。 「同感です」 古泉が同調した。 「こんな終わり方は嫌だと思いながらも断ち切られることほど屈辱的なことも数少ないですからね。それが嫌だったら、今から後悔しないための努力をしなければならないでしょうね」 そこで会話はとぎれ、俺と古泉はしばらくハルヒと朝比奈さんを観察する作業に徹した。 俺がああこいつも変わったもんだなとか意識外で思っていると、再度古泉が口を開いた。 少し現実的な話につなげますが、と前置きして、 「たとえば今の状況です。見えざる何者か、もう周防九曜と断定してしまってもいいと思いますが、その力によって僕の能力が奪われたり、ポジションを追われたりするのは耐え難いことですよ。少なくとも、僕にとってはね。季節フォルダの話ではありませんが、僕はこのSOS団そのものやその活動にそれなりの愛着を抱いているんです。自分の精神を分析するのはあまり好きではないのですが、おそらくここまで来たらという思いが強いのでしょう。察するに朝比奈さんや長門さんも同じですよ」 外部の力に屈する気がないのは俺も同じである。何より、SOS団には心強い人材がたくさんついてくれている。ハルヒ、朝比奈さん(小)……は微妙だが、他にも古泉、鶴屋さん、『機関』のメンバー、そして共闘宣言をしてきた橘京子。これだけ人材が集まれば周防九曜にも対抗しうる力があるだろう。 俺が橘京子について訊くと、古泉は簡単に答えた。 「橘京子が味方すると言ってきたことについては、既に上から連絡をもらっています。そんなに危惧すべきことでもないでしょう。周防九曜の攻撃の標的がSOS団だけにとどまらないことから、動機も読みやすいですしね。裏はありませんよ」 なぜ解る。奴は朝比奈さん誘拐犯だぞ。 「その事実にばかりにやたら固執するのもいかがなものかと思いますが」 軽い冗談だ。気にするな。 「じゃあ未来人はどうなんだ。あの藤原とかいう、朝比奈さんとは別の未来から来た奴だ。あいつは橘京子とは違う考えのようで、俺たちに加勢するつもりはないらしいぜ」 「それは彼の任務外だからです」 古泉はあっさり答えを出した。 「本来、過去の争いに未来人が手を出す必要はありませんからね。まあ、彼の任務はその余計な手を出して過去を自分の未来にとって都合のいいように変えてしまうことなのですが。しかし今回の場合は彼に命令を出す未来自体がねじれてしまっていますから。未来が無数に存在するために、どれが規定の未来か解らなくなってしまっているわけですね。どれが自分の正しい未来なのか解らないのですから、したがって彼は未来からのいかなる命令に従う必要もないわけです。一種の開き直りでしょうかね。放っておいて、現れた未来をそのまま受け入れるつもりなんでしょう」 そういえば長門も以前同じようなことを言っていた覚えがある。自分は観測者の位置でしかないから、ここの人間を助けるために手出しはしない、と。どうせ昔の話さ。 だがしかし、そう言われると朝比奈さんがこの状況を自分の未来に束縛されることがなくなって自由に行動できるようになったと捉えるのは素晴らしいことのように思えてくる。わざわざ自分で行動を起こす必要などないのに、朝比奈さんはSOS団の、過去の人間のために動く覚悟でいるわけだ。そう考えるとこっちが申し訳ないくらいに思えてくる。 「それが、SOS団に所属している未来人と、そうでない未来人の違いでしょうね。僕はそう考えます」 古泉は達観したような口調でそう言い、晴れ晴れしたような顔で言った。 「SOS団にいれば誰しも変わってしまうものなんでしょう。下地がどんな人間だったとしてもね」 * 次の日曜日である。 どうせ今日も俺が奢りになることは最初から決まり切っているのでハルヒを怒らせるくらい遅刻してやってもよかったのだが、こんな時に限って早く起きてしまう自分が恨めしい。妹は二日間連続で自分で起きた俺が病気にでもなってるんじゃないかと疑いをかける目で見てくるが、そんなもんは無視だ。シャミセンだってたまには運動するような素振りを見せるのと同じで、俺もたまにはそんなことがあるさ。 結論から言うと、この日は本当に何にもなかった。あると言えば長門が消えた時点からあるのでそこの解釈は微妙だが、少なくとも再び佐々木連中と鉢合わせしたり、朝倉が蘇ってナイフを振りかざしたり、九曜が突如として俺の目の前に現れることもなかった。その代わり、長門が現れることもなかったが。 古泉の論説はどうやら真実味を増してきたようだった。 今日のハルヒは不思議探しという言葉を忘れてしまったかのように、朝比奈さん以下二名を引き連れて延々とウインドウショッピングに従事していた。朝比奈さんは買い物どころではないような心なしか青い顔をしていたように見えたが、その心情は理解できないこともない。 また、古泉が途中で、 「涼宮さんは今、不思議探しではなくSOS団の団員といることを楽しんでいるのですよ」 などと知ったような口を叩いてきたが、それは面倒なので流しておいた。そんなことはいちいち口に出して確認するもんじゃない。知らぬ間に、嫌でも自然に精神の中に植え付けられるものなのさ。 昼食は適当に探した中華料理店で食った。ハルヒにおいしいからと言われるがままに注文したら、やたら赤い食い物が出てきやがり、夏も近いために運動もしていないのに大汗をかくはめになったが、それも含めて昨日や一昨日よりは羽を伸ばせた一日だった。 もっとも、そんなもんを伸ばしている暇はない。進展がない場合、それは往々にして水面下で事態が進行しており、気付いたときには手遅れになっていたりする。ガンにしたって、末期で発見されるよりは水面下で進行している状態で見つかったほうが手がほどこせるし助かる可能性も高いだろう。それと同じだ。 そう解っていたのに。 俺も朝比奈さんも古泉も、油断することこそが最大の危険だと解っていながら、この日ばかりは何もすることがなかった。朝比奈さんは未来が封印されているし、古泉も閉鎖空間がなければ業務はない。俺にしたって、向こうからアクションがなければ俺から動くことはできない。誰かに文句をつけられたとして、そんな謂われはないと言い返す自信はある。 しかし、この時ばかりは何か少しでもできることをしておくべきだったと悔やまれてならんのだ。何もできなくても、せめて心持ちをしっかりしておくぐらいのことはしておくべきだったのだ。 明けた月曜日、事態は急転した。
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◇◇◇◇ 終業式の翌日、俺たちは孤島in古泉プランへ出発することになった。 とりあえずフェリーに乗って、途中で森さんと新川さんと合流し、クルーザーで孤島までGO。 全く問題はなく順調に目的地までたどり着くことが出来た。 あとは多丸兄弟を加えて、これでもかと言うほど昼は海水浴、夜は花火&肝試し、さらに二日目は何か変わったものがないか 島中の探索に出かけた。特に何も見つからなかったが、ハルヒはそれなりに楽しんだらしい。 あと、古泉たちによるでっち上げ殺人事件のサプライズイベントはなかった。まあハルヒは名探偵になりたいとか そんなことは全く考えていなかったからあえて用意しなかったのだろう。今のあいつは、みんなで遊べりゃそれで良いんだからな。 さてさて。 そんなこんなで孤島で過ごす最終日の夜を迎えていた。翌日の昼にはここを去ることになっている。 何事も無く終わってくれれば良かったんだが…… 「ぷっぱー! サイコー! ご飯は美味しいし、空気はきれいだし、毎日遊び放題! まさにここは楽園だわ!」 最後の夕食でハルヒは何度目になるかいちいち数える気にもならなくなる言葉を口にする。 確かにこの三日間はかなり楽しかったけどな。料理もオフクロのものとは違うが、高級料理というものを たっぷり食べることが出来た。 「みなさんに楽しんでいただければ、セッティングした僕としても幸いです」 古泉はにこやかな笑みを浮かべつつ箸を進めていた。一方で長門はやっぱり機械作業のごとく取る→食べるの動作を続けている。 朝比奈さんは小食っぽくゆっくりと味わって食べていた。 「お飲み物はまだまだありますので」 そう森さんが空になっているハルヒのコップにジュースを注ぐと、ハルヒは間髪入れずにそれを飲み干した。 もうちょっと味わって飲んだ方がいいんじゃないか? 勿体ない。 食事後、全員が自分の部屋へと戻っていく。中々満喫できた孤島ぐらしも今日で終わりか。荷物の整理とか考えると、 今日はとっとと寝て明日はその片づけで精一杯だろうしな。ハルヒは何かおみやげあたりをあさりそうな気がするが。 だが、そろそろ就寝時間が近づき、ベッドに腰掛けたタイミングで―― カチャ。唐突に俺の部屋の扉がゆっくりと開かれる。あまりに突然だったため、俺はぎょっとしてしまうが、 すぐに現れたハルヒの姿に安堵した。なんだ一体。夜ばいなら時間はまだ早いし、お前にやられてもちっとも嬉しくないぞ。 「そんなばかげたことを言っている場合じゃない……!」 ハルヒは緊迫感を込めつつも小声という器用な口調で言いつつ、音を立てないようドアをゆっくりと閉める。 様子がおかしい。何かあったのか? 俺は立ち上がってハルヒの元に駆け寄る。 「敵よ」 ハルヒが言った言葉に俺の全身が凍った。冷や汗が体外ではなく血管内に出たかのように、全身に嫌な悪寒が広がっていく。 敵? 敵だって? この期に及んで一体なんだってんだ。 すぐにハルヒは苛立ちを見せながら、俺の寝ていたベッドに腰掛ける。そして、すぐにいつぞや見た空中モニターみたいなものを 表示し始めた。 「おい、すぐ近くに長門がいるのに――」 「ばれない程度にやっているわよ。そんなことを気にしている暇があったら、ほら見てみなさい」 そのモニターをのぞき込むと、夜間の海上を一隻のクルーザーが猛スピードで走っている。別のモニターには 物々しい特殊部隊風の格好をした連中が多数映し出されていた。なんだこりゃ、まるで上陸作戦に備える軍隊みたいじゃないか。 「みたいじゃなくてそうだと考えた方がいいわね。一直線にここに向かってきているわ」 険しい顔でハルヒ。どうすればいいのか考えているのか、そわそわと両手の指を重ねてほじくるような動作をしている。 持っている自動小銃や物々しい装備品を見る限り、古泉が仕組んだサプライズイベントの可能性はゼロと考えて良いだろう。 そうだったら、あいつとは二度と口をきいてやらん。冗談にもほどがあるからな。 「狙いは……どうみてもあたしでしょうね。機関の危ない連中なのか、それとも別の組織かはわからないけど、 見たところ現代人間。未来人やインターフェースの可能性はない。連中ならこんなまどろっこしい手はつかわないし」 「上陸するまであと何分ぐらいなんだ?」 「およそ10分」 ハルヒの言葉に絶望感を憶えた。10分だと。たったそれだけで何をしろというのか。せめてもうちょっとあれば、 古泉たちに話して機関側で対処してもらうことも―― 「できないわよ。どうやってその情報を知ったのか、どう答えるつもり?」 ハルヒの突っ込みに俺は言葉を失う。確かにその通りだ。機関で気が付いていないことを俺が知っていたらおかしい。 長門が気がついてそれを機関に報告してという流れが理想だが、 「有希はまだ気が付いていないみたい。でもこれは幸いよ。有希が気が付いたら、あたしが動けなくなるから」 「長門がそんな連中全部ぶっ潰してくれるかもしれないだろ」 「どうかしら。有希はあたしの観察が目的よ。襲ってきたのが情報統合思念体の急進派とかなら対処するでしょうけど、 今来ているのはただの武装した人間。相手にしてくれるかどうか……」 確かにそうだ。長門自身はどう思うかわからないが、親玉はそういった人間同士の抗争を含めて観察している可能性が高い。 つまりここで武装した連中と例え銃撃戦が始まっても、それはただの観察対象扱いされるかも知れないのだ。 さらにハルヒは追い打ちをかけることを言ってきた。 「あと機関も頼れないわ。確認したけど、この館には武器の一つも置いていない。元々襲撃される可能性なんて 考えていないんだから当然よね。せいぜい逃げ回ることしかできない。その間に誰かが傷つくわ」 「だが、逃げ回っている間に機関の本部とかに連絡して援軍を寄越してもらえばいいだろ。そうすりゃ、反撃だって出来るし、 救出もしてくれるはずだ」 「忘れたの? 機関はその存在をあたしに知られるわけにはいかないのよ? 一緒に逃げ回りながら、どうやって その正体を隠すつもりよ。あたしがすっとぼけることはできても、今度は不自然すぎて逆に怪しまれることになるわ」 ええい、そうだった。機関にとってハルヒにその存在を知られるわけにはいかないのだ。例えここで武器を持っていて、 上陸してくる連中を撃退できたとして、当然ハルヒもその光景を見るわけだからどうやっても言い訳のしようがなくなる。 言い訳ができても、ハルヒがそれを飲んだらそれはそれでおかしな話になる。完全な八方塞がりだ。 後は未来人に託するしかないが……それもどうだろうか。やれるならとっくにやっているんじゃないか? ん、ちょっと待てよ? 「みくるちゃんの――ええと、でっかいみくるちゃんだっけ?が言っていたやつってこのことじゃないの?」 俺の心を読んだかのように、ハルヒが先に言ってしまった。 朝比奈さん(大)は起こればすぐにわかると言っていた。これ以上わかりやすい危機的状況なんてそうそう無いだろう。 そうなると、このことに未来人は関与しない。理由は知らんが、解決できるのは俺とハルヒだけと朝比奈さん(大)が 言ったんだから間違いない。 ならば現状でできることはなんだ? 俺の脳細胞をフル活用した結論は―― 「つまり、この別荘の中にいる人間――それも宇宙人・未来人・超能力者に気がつかれることなく、襲ってきた連中を 俺とハルヒで全部撃退し、あまつさえ襲撃者から撃退された理由に関わる記憶を削除すればいいってことか?」 「そうよ。それしか破綻を回避する方法はないわ」 あっけらかんと答えるハルヒだが、無茶苦茶だろ。確かに超能力者オンリーの世界では、ハルヒは襲ってきた機関主流派の 特殊部隊を全部撃退した実績があるから可能かも知れん。だが、今回はこの別荘内の人間に知られない・相手の記憶を改竄するという 二つの要素が加わる。いくらハルヒが凄い奴とは言っても、こんなことは長門や朝倉レベルじゃなければできっこない。 知られないという点だけでも、一発でも発砲されれば銃声音が別荘内に響き渡り騒ぎになるはずだ。その時点で失敗である。 朝比奈さん(大)。いくら俺たち次第だからと言われても、これは難易度が高すぎます。しかし、これを突破しなければ、 ここでこの世界は最悪リセットにせざるを得なくなるかも知れない。数ヶ月かけて積み重ねたものがぶっ壊されるのは最悪だ。 「無茶でも何でもやるしかないのよ……!」 ハルヒの言葉には怒気がこもっていた。さっきまで幸せ満喫状態だったのを、突然の乱入者によって テーブルをひっくり返されそうになっているんだから――いや、もうひっくり返されたんだから、怒って当たり前だ。 だが、どうすりゃいいんだ? とてもじゃないが有効策なんて思いつかないぞ。 と、ここでハルヒは俺の方に振り向き、 「あたしは外に出る。部屋には念のため自分のダミーを置いておくわ。ベッドで寝かせておくから見た目には わからないはずよ。鍵もかけてあるし。そして、あんたにはやって欲しいことがある……」 ハルヒからの頼み。それはとんでもないことだった。 ◇◇◇◇ 俺はハルヒを見届けた後、長門の部屋をノックしていた。時間的に見て、もう敵は上陸したころだろう。 今頃こっちに向かう準備を進めているに違いない。時期にハルヒが撃退行動が始まる。俺に与えられた使命の タイムリミットはそこまでだ。 ほどなくして、 「誰?」 「俺だ。すまんが、緊急の用事なんだ。部屋に入れてくれないか?」 そう答えると、ゆっくりと部屋の扉が開かれていく。中には寝間着に着替えた長門の姿があった。 俺はそそくさと中に入り、扉を閉める。さて、ここからが勝負だ。 「何か用?」 長門はいつもの液体ヘリウムのような瞳でこっちを見ている。俺はその前に立ち、 「頼みがある。お前にしか頼めない重要なことなんだ。聞いてくれるか?」 「内容を」 俺は一旦言葉を再整理してから、 「この別荘を5時間だけ外部とは完全に隔離して欲しい。外で何が起きても中からではわからないようにだ。できるか?」 「可能。しかし、理由が不明」 やっぱり聞くよな、理由は。だが、はっきり言おう。俺には適切な言い訳が思いつかなかった。むしろ、取り繕えば繕うほど 矛盾や穴が広がり訳がわからなくなる。そんなことをするぐらいなら、いっそのこと―― 「理由は……聞かないで欲しい」 「なぜ」 「言えないからだ。どうしても」 我ながら無茶を言っていると思う。相手にお願いしておいて理由は聞くな。自分が言われたら絶対に納得しないだろう。 だが、それしか方法がないんだ。この最悪な状況を乗り越えるには、ハルヒが撃退し、長門が自分とその他の耳を完全に閉じる。 ハルヒは5時間以内――つまり夜明けまでに全て片づけると言っていた。それで万事解決する。 俺は長門の肩をつかみ、 「お願いだ。無理を言っているのは百も承知だし、お前がこれで怒るっていうのなら怒ってくれてもいい。 こんなことは今回限りにするつもりだ」 「しかし……」 「最終的に決めるのは長門だから判断は任せる。俺は頼むことしかできないんだから。他の誰でもない、お前自身が判断してくれ。 イエスでもノーでも俺はそれを受け入れる」 「…………」 長門は何も答えない。ダメか、やっぱり無謀だったか…… ふと長門が俺に一歩近づいてきた。そして、言った。 「答えられる範囲で良いから教えて。それはなぜ?」 その質問に、俺は自分でも信じられないくらいに自然と口から出た。 「……俺たちの今を守るためだ」 長門はその答えに、少しだけ発散させている感情のオーラを変化させたのを感じた。 今を守る。SOS団を守る。俺の世界でもこの世界でも、俺はそれを守りたい。それはどこまでも純粋で心の底からの願いだ。 ………… ………… ………… しばらく続いた沈黙の後、長門はゆっくりと歩き部屋の隅にある椅子に座った。 そして、ぽつりと言う。 「わかった。情報統合思念体への申請は適切にわたしの方で調整する」 その言葉を聞いたとたんに、俺は大きく飛び跳ねそうになってしまった。スマン長門、本当に恩に着る。 この埋め合わせはいつか必ずするからな。 ふと、俺は思いつき、 「この別荘を外部から隔離するまで30秒時間をくれ。俺が外に出れなくなっちまうからな」 「わかった。30秒後にここを隔離する」 長門の言葉を聞いた後、俺は別荘の外へと飛び出した。 俺が別荘から飛び出し、富士山8合目の登山コースのような道を駆け下りる。 程なくして、孤島の海岸側で発砲音が鳴り響き始めた。最初は散発的だったが、やがて乱射するような激しいものへと変わっていく。 俺は半分ぐらいまで下り坂を下りると、適当な岩陰に身を潜めて戦闘が始まっている海岸の方の様子をうかがった。 満月までは行かないものの、ほどほどに大きい月の明かりが上陸してきた連中が動き回っているのがわかる。 あの調子だとハルヒは別荘が外部から遮断されたことを把握しているのだろう。そうなるともう俺はここで様子を見るしかない。 ふと思う。あれだけ派手なドンパチが始まっていて、現代レベルの機関はさておき、よく情報統合思念体や未来人は気がつかないな。 情報統合思念体の方は長門が何か細工してくれているからかも知れないが、やはり未来人が手を付けない理由がわからない。 時間遡行でも何でもして対処すればいいだけの話だろうに。この時が分岐点になるほどの重要な場所だとわかっているなら、 ここに飛んできて何が起こったのか確認しつつ、対応策を講じれば―― ここで俺ははっと気がついた。朝比奈さん(大)はハルヒが力を自覚していることは知らない。つまり彼女の言う既定事項には ハルヒの能力自覚バレはどこにも存在していないことになる。そうなると、今俺の目の前で起きていることを 未来人たちは知ってはならない。つまり、ここで何が起きているのか知らないままでいることが、既定事項なのだ。 俺はずっと既定事項はこなす=何かをすると捉えていたが、逆にあえて何もしない、知らないというもの十分にあり得る。 謎は謎のままに。知らなくても良いことがある。この孤島の一件はそういうことで処理されているのだろう。 俺はそんなことを考えながら、じっと続く激戦を見守っていた。 数時間が経過した頃だろうか、銃声音はすっかり収まり波の音だけ聞こえる静寂に辺りが支配されていた。 ほどなくして一つの人影がこっちに登ってくるのが見える。最初はわからなかったが、近づいて来るに連れ、 その姿が鮮明になりハルヒであることがわかった。かなり疲労しているのかふらついた足で歩いている。 俺はそれを見て飛び出す。 「大丈夫か、おい!」 「……さすがに疲れたわね……」 そうハルヒはつぶやくと、俺の胸に身体を預けるように倒れ込んだ。見たところ、服が汚れはしているものの、 どこにも怪我はなさそうだ。今まで散々くぐってきた修羅場は伊達じゃないってことか。 「……ちゃんと……有希は説得……できたんでしょうね……」 「ああ、そっちは大丈夫だ。あいつが嘘をつくわけがないからな。きっと上手くやってくれているよ」 「そうよかった……」 それを確認して安心したのか、ハルヒは膝から崩れ落ちそうになった。あわてて俺はそれをキャッチし、抱きかかえてやる。 相当の疲労があるのだろうな。 「とりあえず寝て良いぞ。後は俺が責任を持ってお前の部屋まで連れて行くから。ああ、そうだ。部屋に置いてあるダミーとやらは どうすればいいのかだけ教えてくれ」 「あたしが部屋に入れば勝手に消えるようにしているから大丈夫よ……」 もうハルヒは半分眠りに入ろうとしていた。 ふと、ハルヒは目を少し大きく開けて、 「みんなはあたしが守る……SOS団はあたしが……守る……だからずっと一緒……」 そう言い終えると、ハルヒは落ちるように目を閉じて眠り始めた。 その時のハルヒは――なんだろう。どういうわけだか、とても孤独に見えた。なぜだかわからないが。 ◇◇◇◇ 翌日の朝。俺は別荘の隔離が解除された後にこっそりとハルヒを部屋に戻し、俺も自室に戻っていた。 正直、徹夜になってしまったためかなり眠いんだが、ベッドに篭もるわけにもいかない。俺の役目はまだ残っているからな。 ぼちぼち始まる騒ぎをそれとなく収拾しておくというものが。 朝日が水平線から完全に上がった辺りで、俺の部屋に来客がやってきた。寝起きのふりをしつつ、ドアを開けると 厳しい顔をした古泉の姿があった。 「すいませんが、少々ご同行願えますか?」 俺が連れられていったのは、孤島の海岸だった。そこには昨日のハルヒの激闘で全員ノックアウトされた武装した人間の山が 築かれている。これだけ見ると異様な光景だな。見たところ、全員気を失っているだけで死んではいなさそうだが。 「昨日の夜、何かあった憶えはありますか?」 「いや、少なくともこんな連中と戦った憶えはねえよ。というか、こいつら一体何者だ」 古泉の問いかけに、俺は本当のことだけを伝える。実際に俺は戦っていないし、こいつらが何者かも知らないしな。 俺たちの脇では森さん・新川さん・多丸兄弟がロープを使って武装兵たちを一人ずつ縛り上げていた。 目でも覚まされたら面倒だから予防措置だろう。 古泉は俺から投げ返された質問に対して、 「機関の人間ではありません。恐らく外部の涼宮さんを狙った組織のもの――あるいはその傭兵かも知れませんね。 この件については完全に機関側の失態です。これだけの規模で活動できる敵対組織を見逃していたんですから。 ここで襲撃される可能性は全く想定していなかったため、一歩間違えれば大惨事の恐れもあった。謝罪します、すみません」 「……よくわからんが、こんな物騒な連中を取り締まれるならよろしく頼むぜ。次はこうはいかないかも知れないからな」 「ええ、先ほど機関に連絡してこの者たちをヘリで回収する手はずになっています。最終的には大元の組織までたどり着けるでしょう。 機関としましては二度とこのような暴挙が出来ないように厳正な対処を実施することをお約束します」 古泉は真剣な表情を崩さない。何だか血なまぐさい話になってきそうだから、これ以上は聞かないでおこう。 人間知らない方がいいことはたくさんあるからな。 「しかし、一体ここで何があったのでしょうか? 長門さんに聞いたところ、このようなものについては全く知らないと 言っていましたし、涼宮さんと朝比奈さんはぐっすり眠っています。何かやったとはとても思えません。 ですが、確実に言えることはこの者たちを倒した存在がいるということです」 「…………」 俺はしばらく黙ったまま森さんたちの拘束作業を見ていたが、 「ハルヒが寝ていたのは確認したんだな?」 「ええ。失礼ながら合い鍵で中を確認させてもらいましたが、幸せそうな笑顔で眠っていましたよ」 「閉鎖空間とかは発生していないのか?」 「それもしていません」 それだけつじつま合わせのように古泉への確認し終えると、 「あくまでも俺の推測になるが、こういうのはどうだ? やったのはハルヒだったという話だが」 「……詳しく聞かせて欲しいですね」 俺は一旦深呼吸し、昨日眠らずに自室でずっと練習していた内容を話し始める。 「ハルヒはこの三日間バカみたいに楽しんでいたわけだ。で、昨日の夜も同じように幸せな気分のまま眠りについた。 ところがどっこいそれをぶちこわすかのような連中が突然やって来た。ハルヒは恐ろしく勘の鋭い奴だからな、 眠ったままでもそいつらに気がついた。しかし、あくまでも夢の中にいたままだったから、そこでこいつらをボコボコにした。 一方でお前たちの言うハルヒの神パワーの影響で現実のこいつらが同時にボコボコにされた。こんなのならどうだ?」 俺の妄想100%の話に、古泉はしばらく目を丸くしていたが、やがてくくっと苦笑すると、 「なるほど。完全に推測だけの話ですが、涼宮さんの力とあの鋭い勘が組み合わせれば確かにあり得ないとは言い切れませんね。 実際にこの島で現在これだけの戦力を撃退できる力を持っているのは長門さんを除けば、涼宮さんだけですから。 まあ、あとは機関に拘束後じっくりと真相についてこの者たちから聞き出すことにしますよ」 古泉には悪いが、ハルヒはこいつらから当時の記憶を一切合切削除しているから、何も聞き出せないぞ。ま、後の処置は任せるが。 そんな話をしている間に、恐らく機関が手配したものだろう数機のヘリコプターが水平線の向こうから飛んでくるのが見えた。 その日の昼、ようやく目を覚ましたハルヒとともに孤島を後にした。 フェリーで帰路の途中、ハルヒが俺の話の補強をしてくれるように、夢の中で悪の組織をギッタギッタにしたという話を 延々と朝比奈さんと古泉に語る中、俺はすっと長門のそばにより、 「昨日の夜はありがとうな」 「お礼ならいい。現状維持で涼宮ハルヒの観測を続けるのがわたしの仕事」 長門の言葉に、どうやら問題は発生していなさそうだとほっと安堵した。情報統合思念体へのごまかし工作はうまくいったようだ。 朝比奈さん(大)。どうやら一つはクリアしましたよ。 あとは、残る一つ――恐らく冬のあの事件か。それも何とかしてやるさ、必ずな。 ――だがこの一件はちょっとした尾を引いていたようだ。 ◇◇◇◇ 孤島から帰った後、俺たちSOS団は毎日とまで行かないが、ちょくちょく顔を合わせていた。やることと言えば、 セミ取りとか鶴屋山登りとか孤島への旅行ほどのものではなく、日帰りツアー程度だったが。 しかし、お盆周辺には俺は家族で実家に帰るので、数日間の空白が発生した。 んで、昨日帰ってきたばかりなわけで、俺はガンガンにクーラーを効かせた部屋で甲子園をぼーっと見ていた。 ハルヒに帰ってきたぐらいの連絡をしておこうかと思ったが、まあほっといてもあいつなら勘づいて呼び出しのコールを してくるだろ。できるなら、今日は帰省帰り疲れを取ることに専念したいところだ。 が、やっぱりハルヒはそんなに甘くない。スターリングラードで的確にドイツ軍の急所を狙ったソ連軍スナイパーのごとく、 突然俺の携帯電話が鳴り響いた。やれやれ、言ったそばからとか噂をすれば影とはよく言ったものだ。 『何よ、家に戻ったのならちゃんと連絡しなさいよね』 「ああすまん。昨日帰ったばかりだったから忘れていたんだよ」 『まあいいわ。あんたも帰ってきたからSOS団の活動を再開するわよ。そんわけで午後二時ジャストに駅前に集合ね。 自転車持参でお金も持ってくること。オーバー♪』 そう一方的すぎる電話内容で終わる。全く本当に思い立ったが吉日という言葉がお似合いの奴だ。 ……ん? 何か……違和感が…… 俺は微妙な引っかかりを頭に抱えたまま、とりあえず迫る集合時間に合わせて、俺は出かける準備を始めた。 その日は集合後に市民プールへと足を運んだ。 やったことと言えば、自転車違法三人乗りで俺の身体が悲鳴を上げたり、人で溢れかえったプールで競争したり、 朝比奈さんの超極上サンドイッチをほおばらしてもらったりと、まあそれなりに充実させてもらった。 しかし、残り少ない夏休みを完全に骨までしゃぶり尽くす気満々のハルヒはそれで収まるわけがない。 集合した喫茶店でハルヒが突きつけてきたA4ノートの紙切れには、 『夏休み中にしなきゃならないこと』 ・夏期合宿(×) ・プール(×) ・盆踊り ・花火大会 ・バイト ・天体観測 ・バッティング練習 ・昆虫採集(△ セミ取りだけだから) ・肝試し ・他随時募集 ……なんか似たようなのをウチの団長様も言っていたな。考えることはやっぱり一緒か。 残り二週間でこれを全部こなすつもりかよ。中々ハードスケジュールだぞ。俺の夏休みの課題も終わっていないというのに。 そういや俺の世界ではこの二週間を15498回繰り返したんだっけ。当時は長門に聞かされて仰天したもんだ。 一方で、ここにいるハルヒがそんなことをするわけがないので安心してこれらのイベントに没頭できる。 力を自覚している以上、そんなことをしでかす理由がない。古泉が妙な素振りを見せないのが良い証拠だ―― ふと、俺はハルヒが夏休みの過ごし方を延々と演説している中、気がついた。長門の様子がどことなくおかしい気がする。 前回のように文芸部ですっかり人間らしくなった長門に比べると、まだまだ無表情インターフェース状態だったが、 それでも発している感情オーラが徐々に異なってきていることには気がついていた。 その長門の様子がどうもおかしい。俺にはそう思える。 今後の夏休みの予定を確認し終えて、今日は解散と全員がばらばらに帰路につくときに聞いてみることにした。 「おい長門」 「…………」 俺の呼びかけに、無言で振り返る長門。俺はどういって良いのか少し考えてから、 「いや……特に何でもないんだが、最近はどうだ? 元気か?」 「元気。問題ない」 長門は少しだけ頷いて答えた。しかし、やはりその表情は何かいつもと違う――俺が里帰りに行く前に会ったときとは 大きく異なっているように感じた。何というか……うんざりしているように見受けられる。 この時、俺ははっと思い出した。15498回繰り返したあの夏の日、当時も俺は長門に同様のことを感じていた。 そうなると今もひょっとしてループしているのか? そんなバカな。ハルヒが意図的にそんなことをやって何の意味があるんだ。 聞いたところで何いってんのバカ、と一蹴されて終わるだけだろう。 「そうか。ならいいんだ」 そう告げると、長門は帰宅への足を再開させていった。 俺は何となく――ハルヒを信用していないわけではなかったが、何となくすでに姿を消していた古泉に携帯をつなげてみる。 『あなたからの電話とは珍しいですね。何でしょうか。何ならさっきの喫茶店まで戻りますよ』 「いや電話で構わん。一つ聞きたいことがある」 『なんでしょうか』 「今日のプールでの出来事だが、何というか既視感みたいなものを感じなかったか? 以前に同じようなことをしたようなって」 ……古泉は恐らく考えているのだろう、しばしの沈黙を続けた後、 『いえ全くありません。僕の頭では子供の頃にプールではしゃいで遊んだ懐かしい記憶が蘇る程度です。 もちろん、時間も場所も何もかも違うので既視感には当たりません』 「……そうか」 あのエンドレスサマーでは、俺と同時に古泉や朝比奈さんも異変を察知していた。万一、それと同じ事態が今も起きているのなら、 とっくに勘づいているはずだろう。 古泉は俺の様子がおかしいのを悟ったのか、 『何か不安ごとや異変があるのでしょうか? そうであるなら、いつでも相談に乗りますよ』 「いやいい。何でもない――ただ遊びすぎて少々疲れが出ているだけみたいだ」 俺はそこでありがとなと電話を切る。大丈夫だ。ループなんて起きていない、ハルヒが起こすわけがない…… だが、頭の中に引っかかるものはなんだ? なんなんだ。 それからの二週間は怒濤の勢い出過ぎていった。 浴衣を買って。 盆踊りに行って。 縁日で遊んで。 花火をぶっ放しまくって。 昆虫採集でセミやその他諸々をキャッチアンドリリースして。 スーパーで着ぐるみバイトに専念して。 長門のマンションの屋上で天体観測をして。 バッティングセンターで来年の野球大会優勝を目指して練習に励んで。 花火大会へ行きハルヒが大はしゃぎして。 ハゼ釣り大会にも参加して―― まさに充実した毎日だった。思わず夏休みの課題なんかどこかにすっ飛んだほどだ。 とはいえ、二学期早々課題の白紙提出なんていうマネをしでかしたら、せっかくの夏休みの充実気分が、エベレストからマリアナ海溝最深部の さらに海底クレバスまで一気に落ちる気分が味わえること確定なので、ハルヒの予定表に俺の課題という項目を追加しておいた。 結果、夏休みの終了二日前は長門の家で、課題完了ツアーに突入した。本来なら自分の家でやりたかったが、妹がミヨキチを連れて 遊ぶということだったので、追い出されてしまったのだ。 そんなこんなで白紙の俺の課題が終わるのはすっかり夜が更けた頃になっていた。 「はーい完了!」 「終わったぁぁぁぁ!」 俺はハルヒの言葉とともに万歳ポーズを取ってしまう。全く人生最大の困難な日だったぜ。 SOS団のみなが拍手で俺を歓迎してくれる。ありがとうみんな……助かった、本当に恩に着る。 ――って、何を感傷に浸っているんだ俺は。それどころではないというのに。 この二週間、俺は散々あの既視感に悩まされ続けた。しかし、それは俺だけで朝比奈さんも古泉も全くそんな素振りは見せていない。 一方で長門は微妙にうんざりした雰囲気を放出していた。最初はただの気のせいかと思っていたが、今では俺にはどうしても何かが 起こっているとしか思えなくなっている。よくよく考えてみれば、俺の世界に捕らわれすぎていてハルヒのエンドレスサマーしか 思いつかなかったが、実は別の宇宙人の仕業とかそういう可能性も十分にあるんだ。ハルヒすら気がつかずに それが密かに続けられていたのなら、かなりまずいことになる。 そんなわけでハルヒがSOS団夏休み活動終了を宣言し解散となった後、俺は長門の部屋に密かにお邪魔することにした。 ハルヒに相談することも考えたが、相手が未知の宇宙人だったら長門の方が事態を把握しているだろうからな。 「よう、すまんがちょっといいか?」 『……入って』 長門は待ちかまえていたように、俺を自室へと導く。相変わらず何もない殺風景な部屋の中心に俺と長門は座って対峙した。 さてどう切りかけるか。 俺は正座したまま微動だにしない長門に視線を合わせ、 「単刀直入に聞くぞ。今おかしなことが起きている。これでいいんだな?」 「そう」 「ならそれは何だ? やっぱ――いや、ひょっとして夏休みが終わらずに延々と続いている状態か?」 「…………」 この問いかけに長門はただ無言でこくりと頷いた。そして続けて、 「現在、この限定された時間領域は隔離状態に置かれている。日数は8月17日から31日まで。31日が終了した時点で 時間軸上に存在している全てが17日時点の状態に戻される」 「つまりハルヒや朝比奈さん、古泉は31日が終わった時点で完全にリセット状態になって、 そうなっていることに気がついていないってことか? だが、何で俺とお前だけはそれに気がついたんだ?」 「わたしは涼宮ハルヒの観測に必要なため、そのループ状態に巻き込まれないように対処している。 あなたが微弱ながらなぜ繰り返されていることについての記憶の残滓があるのかは不明。解析不能な事象。ただ――」 長門は一拍置いて、透き通った視線で俺の瞳の奥まで見通し、 「涼宮ハルヒがあなたに何かを訴えかけている可能性が推測できる」 なるほどね。ハルヒが――ってちょっと待て! これをやらかしているのはハルヒだって言うのか? 長門はこくりと頷いて答えた。 バカな。そんなわけがない。ウチの団長様だったら登校拒否みたいな理由でやらかす可能性は大いにあるが、 散々言ったがここにいるハルヒがそれをする意味がどこにあるというのだ。逆に自分の能力自覚がばれる可能性があがるだけだぞ。 思わずそう反論したくなるが、できなかった。ハルヒが自覚していないという前提で話している以上、 ここで俺はそれもありうるかと反応すべきなんだからな。ええい、鬱陶しいことこの上ない。 しかし、逆に犯人がハルヒなら対処方法は簡単だ。直接言って止めさせればいいからな。それでそんなふざけたループ状態も終わりだ。 と、ここで長門が口を開き、 「ループは現在9913回続いている。そのパターンは決して一定ではないが、たった一つだけ全て共通している部分がある。 それはわたしの確認した限り涼宮ハルヒは必ず31日が終わる直前に文芸部室にいるということ」 文芸部室だと? あいつ夏休みの終わる前に何でそんなところにいるんだ? しかし、今回も9913回もやっていたのかよ。そりゃ俺の頭のどこかに繰り返した分の記憶のカスが残っていてもおかしくないな。 でも、どうして朝比奈さんや古泉は気がつかないんだ。俺の世界の時以上に完全な記憶抹消を受けているんだろうか。 長門はさらに続けて、 「この状況になってあなたがわたしに相談を持ちかけたのは初めて。そして、31日終了直前にあなたが涼宮ハルヒとともにいる パターンは一度も存在していない。ならば、それがループ解消の鍵となる可能性がある」 つまり明日の夜、俺に部室へ行けってことか。ハルヒが意味もなく、そこにいるとは思えない。恐らくそこで起きる何かが 原因となってループとなっているのだろう。ひょっとしたらハルヒ自身もループしていることに気がついていないかもしれないが。 とりあえず、やるべきことはわかった。エンドレスサマー再びの決着はそこでつけることにしよう。 「ありがとな、長門。あとはどうやら俺の仕事みたいだから何とかするよ」 そう言いながら俺は立ち去ろうとして―― 「待って」 突然長門から呼び止められる。まだ何かあるのか? 俺は振り返り、 「何だ?」 「聞きたいことがある」 長門の発している雰囲気はいつもとはまた異なったものだった。 続ける。 「涼宮ハルヒは時折わたしに対して解析不能な感情を見せてくるときがある。ただじっと見ているだけだが、 その行為はわたしに何かを訴えかけているように思えた。それがなんなのか、あなたがわかるなら教えて欲しい。 それはわたしに酷くエラーを発生させるものだから、早い段階での解消が必要と判断している」 その言葉に、俺はすぐにそれがなんなのかわかった。 すっと長門の前にしゃがみ、 「それはな、長門がどこかにいっちまったり消えたりしないかって不安になっているんだよ。お前だけじゃないさ。 きっと朝比奈さんや古泉にもそれは向けられている。誰一人として失いたくない。それがあいつの本心からの願いだ。 それは俺も同じだけどな」 「わたしにここにいて欲しい……」 長門は復唱するようにつぶやく。 ああそうだ。前回の世界みたいに、自分で歩むと決めた結果、結局離ればなれなんて最悪だからな。 俺は長門の肩をつかむと、 「9000回以上も同じループを体験させられて辛いのはわかっている。でも一人でそれを抱える必要なんて無いぞ。 役目とかそんなことはどうでもいい、いつだって俺とハルヒはお前の相談に乗るからな。だから、ハルヒのそばにいてやってくれ。 今はそれ以上は望んでいないから」 その俺の言葉に、長門はいつも以上に大きく頷いた。 ◇◇◇◇ 夏休み最終日の夜、俺は旧館の文芸部室へとやってきた。入り口の鍵は開けっ放しになっていることから、 すでにハルヒがこっそりと侵入しているみたいだった。 「よう」 部室に入ると私服姿のハルヒがだらんと団長席に突っ伏していたが、俺の姿を見るやぎょっとして立ち上がり、 「キョン!? 何であんたここに!?」 「……原因はお前が一番わかっているんじゃないか?」 俺の言葉に、ハルヒはしばらく呆然としていた。 ほどなくして額に手を当てて、ため息を吐き、 「そっか……やっぱりあたしが繰り返していたのね。夏休み」 そう脱力するように部室の壁に背を付けた。やっぱり自分でも気がついていなかったのか? 俺はハルヒの前まで行き、 「事情はよくわからんが、まずいのは確かだ。何でこんなことをやっているのか、お前自身がわからないと解決のしようがねえ。 不安なことでもあるのか?」 「……理由なんてとっくにわかっているわよ」 あっさりとハルヒは言った。なに? どういうことだ。 ハルヒは続ける。 「この二週間は凄く楽しかった、何にも考えることなく、ただ遊びに夢中になれた。こんな状況がいつまでも続けばいいって……」 「それでループさせていたのか。この二週間を」 「良いことだとは思っていないわ。でも……ダメなのよ! どうしても自分で自分が拒否できないの!」 次第にテンションが上がってきたのか、ハルヒの口調が強くなっていく。 俺はそれをただ黙って聞いていることしかできない。全くこんな時に気を利かせられない俺自身に憂鬱だ。 「ずっと前から、あたしはみんなと完全に一緒になれないって思っていた。孤島の時も、結局あたしだけがみんなとは違う場所で 戦っていて、まるで有希やみくるちゃん、古泉くんとの間に分厚い壁があるみたいに感じた。あたしだけが違うのよ! こうやって能力を自覚しているってことを隠し続ける間はどうしてもみんなが遠く感じられる。あたしが必死に近づいても、 ちょっとああいう孤島の事件みたいなのが起これば、一気に距離が遠くなる気がしてたまらない!」 あの時感じたハルヒの孤独。そうか、みんなと遊んでいればいいと思いつつも、隠さなければならないことが多すぎて どこか距離感を感じてしまう。当然のことだろう。俺だって、あいつらと触れるたびに微妙な距離感を保つ必要に 迫られ続けているからな。 「このままだとずっと一緒になれない……でも、この二週間は大きな問題とか発生しなくて、また距離を縮められた気がする。 でも、時間が経てばまた変な問題が発生して遠くなっちゃう。それにあんたの言っていた冬の日の事件もその内起こるかも知れない。 そうなれば最悪リセットするしかなくなる恐れもある。そんなの嫌よ……あたしはみんなのそばにいたい。 だから、いっそのこと夏休みが終わらなければずっと近いままでいられるって、そう思わず考えちゃって……」 ハルヒは今にも泣き出しそうになりながらしゃくり上げていた。 ずっとそばにいたい。それだけの理由。だがそれ以上の理由もないだろう。ハルヒが強く望んでいることだからな。 俺は思わずハルヒを抱きしめてしまった。あまりにかわいそうで見ていられなくなったからだ。自覚しているからこその孤独感。 それがどれほどのものなのか、俺には想像すらつかないだろう。 そして、言ってやる。俺の今言える全てを。 「安心しろ。お前がそんな孤独を感じなくなるまでずっと一緒に居てやる。そして、ばれても問題ないようにするんだ。 そうすりゃこれ以上お前が隠す必要なんて無くなる。ここで足踏みしていたって同じことだろ? 一緒に先に進もうぜ。 きっと良い未来が待っているさ。それが無いなら作ればいい。俺の世界のお前はそう言っていたぞ」 俺の言葉に安堵感が生まれたのだろうか。直接触れたハルヒの身体から伝わる心臓の鼓動が少しずつ大人しくなっていく。 ふと思う。考えてみれば、気がついていないだけで俺の世界のハルヒも同じように孤独なんだよな。宇宙人・未来人・超能力者が すぐそばにいるのにそれを知ることもなく、そして周囲で起きる事件に気がつくこともなく、ただ中心に居続けているだけ。 それを自覚していないからあの暴走ぶりなんだろうけど、知ったらどんな顔をするんだろうか。ひょっとしたら、 今抱きしめているハルヒと同じ反応をするのかも知れない。 ハルヒが小声でつぶやいた。 「……あんたの世界のあたしがうらやましい。何も知らずにただみんなと一緒に遊んでいられるんだから……」 翌日、世界は通常運行に戻り9月1日の朝を迎えていた。どうやらハルヒによるループは停止したようだ。 昨日の帰りがけにもう大丈夫と言っていたしな。 あの孤島の事件から引っ張ってきた問題は一旦終息か。ひょっとしたら朝比奈さん(大)の大きな分岐点の一つは 孤島から始まって終わらない夏まで続いていたのかも知れない。だからこそ、俺とハルヒにしか解決できないんだと。 ◇◇◇◇ 終わらない夏もようやく終わり、俺の周辺は秋への移行が急ピッチに進んでいた。街路樹の落ち葉の量が増えたとかだけではなく、 秋になると文化祭もあるからな。それの準備が始まるって言うことだ。 ハルヒの提案で文化祭の出し物として映画撮影をした。 文化祭当日は軽音楽部に混ざったハルヒが熱唱した。 コンピ研との対決は因縁がなかったので起きなかったが、パソコンがらみで相談を受けた際のきっかけで長門が それに興味を持つようになった。 ――そして、秋も終わりついに冬を迎える。最大の正念場になるであろう、その時が近づいてきていた。 ◇◇◇◇ 「クリスマスイブに予定ある人いる?」 期末テストも終わり、その凄惨な出来の前にひたすらダウナーな俺だったが、そんなこともお構いなしに、 ハルヒはSOS団活動を引っ張り続けていた。秋にはいろいろやらかしたが、冬――特に12月は師走とか言われるぐらいだ。 こいつもダッシュモードでやりたいことをやっていくつもりらしい。 そんなわけで12月の一大イベントクリスマスにハルヒが目を付けないわけがない。 ハルヒはいないわよね?と言いたげな視線で団員たちを見渡す。全くクリスマスパーティをするから、ハイかイエスで答えろと 言われている気分だぜ。裏をかいてウィとか言ってやろうか。 「不幸と言えばいいのでしょうか、その日の予定はぽっかりと空いています」 「あ、あたしも特に何もないです」 「ない」 古泉・朝比奈さん・長門の順で答えていく。 その答えにハルヒはうむと満足げに頷くと、 「クリスマスと言えばお祭り! つまりパーティーよ! やらない手はない。みんなで部室で鍋パーティをやるわ! もちろん、部室の中はクリスマス仕様でね」 そう言ってハルヒは自分の脇に置いてあった紙袋から、クリスマス定番グッズを机の上に並べ始めた。 ついでにじゃじゃじゃーんとか言って、朝比奈さん用サンタコスプレまで取り出す。 「当日はみくるちゃんにもこれを来てもらって、クリスマス一色で行くわよ。覚悟していなさい、サンタクロース! 世界の果てからでもあたしたちが見えるぐらいにド派手にしてやるんだからね!」 何というかもう無茶苦茶だ。そもそもサンタクロースが信仰心ゼロの人間たちのどんちゃん騒ぎを見かけても、 苦笑するだけじゃないのか? ああ、あと本当にいたとしてもここに飛んでくる前に、我が国の防空網に引っかかって 撃墜されるのがオチだな。そういや、NORAD辺りはアメリカンジョークで本当に探知作業をやっていたりするんだっけ。 「そんな夢を放棄した発言は慎みなさい、キョン。本当に夢のない人間ね」 んなこと言われても、宇宙人~とかいろいろなものがいる状態で、今更サンタクロースなんて現れても驚かねえよ。 むしろ、お勤めご苦労様ですとかいって敬礼しちまいそうだ。 そんなわけでハルヒは一通りの予定を説明し始めた。 俺はそれを右耳から左耳へと垂れ流しつつ、長門に視線を向ける。相変わらず話を聞いているのかいないのかわからんペースで 読書に励んでいた。今日は12月16日。俺の世界と同じなら明後日の早朝に長門は世界改変を実行することになる。 もちろん、同じタイミングで起きるとは限らないし、エンドレスサマーが4割引で終わらせたから、もっと後になるかも知れん。 いっそ起きないでいてくれるとありがたいんだが、長門に自己表現を止めろと言うのも傲慢な話だ。 ほどなくしてハルヒの説明が終わり、各自当日まで用意すべきものの一覧を渡されると、今日のところは解散となる。 クリスマスパーティか。あのハルヒ特製鍋は中々楽しみではあるな。 ほどなくして、今日はセーラ服のままだった朝比奈さんと古泉が部室から出て行った。それに続いて長門も出ていこうとするが、 「待って有希」 呼び止めたのはハルヒだった。長門は鞄を抱えたまま振り返り、首をかしげる。 ハルヒは長門の前に立つと、肩をつかんで、 「クリスマスパーティ」 「…………」 「ちゃんと参加するわよね?」 そう確認を促すように問いかけた。長門は少し首を傾けてから、 「問題ない。参加する」 「……そう」 ハルヒはそう確認を取ると、肩から手を離した。その手はどこか惜しむような手つきだった。 長門はまたすぐに出口に向かって歩き出す――が、途中で立ち止まり、 「仮の話」 そうこちらに背を向けたまま言った。そして、続ける。 「万一、わたしがいなくなったらいつでも呼んで。そうすれば必ずあなた達の元にわたしは現れる。それがわたしという個体の意思」 長門はそれだけ言うと部室から出て行ってしまった。 ハルヒはそんな長門に肩を振わせて、 「有希はやるわ。必ずあんたに教えてもらった世界改変をする。あたしの勘がそう言っているわ」 「……そうか」 やっぱり来るか。あの冬の事件が。 情報統合思念体はどうするのだろう。俺の世界と同じように放置するのか、それとも前回の世界のように長門を抹消するのか。 朝比奈さん(大)は俺とハルヒ次第と言っていたが、ただ待つことしかできない…… 「ん……?」 ハルヒは少し違和感を憶えたように頭を撫でる。 「どうした?」 「いや……何でもない。違和感がちょっと……ね。気のせいよ」 ◇◇◇◇ そして、翌日の夕方が終わろうとしている頃、ついにその時がやってきた。 SOS団活動の終了後、学校の帰り途中に突然ハルヒから緊急の呼び出しを受けて、帰宅を中断して目的地へと向かった。 俺の世界だと翌日早朝に世界改変発生だったが、やっぱり微妙なずれが起きて早まったらしい。 ただ、時間は違うが場所は同じだった。北高の校門前。 何でわかったかというと、ハルヒが自分の能力を使われる予兆をキャッチしたからだった。前回では気がつかれないうちに やられてしまったため、今回は警戒網を敷いていたらしい。 駆けつけたときにはすでにハルヒは物陰に隠れて準備していた。俺も同じ位置に立ち、できるだけ校門側から見えないようにする。 ほどなくすれば、長門がやってくるだろう。 「どうする?」 「どうもこうも……事前に阻止しても有希はそれすら打ち消して実行するって言っていたんでしょ? なら見ているしかできないじゃない。あとは有希自身がどう判断するかよ」 そんなことを言っている間に、すっと薄暗くなり点灯した街灯の明かりの下に長門が現れる。 「……来たわよ」 俺の心臓が高鳴る。さあどうなる。俺の世界と同じなら、俺以外が全部改変されて、最終的には脱出プログラムを使い 世界を元に戻すために奔走することになる。だが、情報統合思念体はそうなることを許すのか。 長門はしばらくそこで黒く塗りつぶされつつある校舎を見上げていたが、やがてすっと手を挙げて 空気をつかむような動作をし始めた。 それを見ながらハルヒは言う。 「前回の有希による情報統合思念体排除と今回の有希による世界改変でどうしてあたしを奴らが敵視するのかわかった気がする」 「何でなんだ?」 「……あたしの力を使えば、奴らを消し去ることが出来る。だから危険だと認識しているのよ。例えあたしにそんな意思がなくても ただその手段が存在していること自体が奴らは認められないんだわ」 「だったら、お前の自覚する・しないに関わらずお前を排除しようとするんじゃないのか?」 「バカね。自覚してない力なんて持っていないに等しいわ。無意識に使ったとしても情報統合思念体を認識していなければ、 被害を被ることはありえない。自覚しない以上は手段ですらないのよ。だからこそ、あたしは観察対象として選ばれた。 あいつらにとってはあたしの力は危険な反面、貴重なものなんでしょうね」 なるほどな。銃を銃だと認識しない限りそれを使うということ自体発生しない。しかし、銃を銃だと認識していれば、 例え撃つ気がなくても何かの拍子で使ってしまう可能性がある。その違いがハルヒに対する評価をひっくり返すのか。 長門はゆっくりと手のひらの動作を続けていた。 「有希……クリスマスパーティに参加する約束……ちゃんと守りなさいよ……!」 ハルヒは今にも飛び出したい衝動に駆られているのだろう。必死にそれに耐えるように唇をかんでいた。 だが―― 突然、激しい地鳴りが起き、辺り一面が激しく揺さぶられ始めた。なんだ!? 以前見た改変の時は 周辺に何も変化が出たようには見えなかったぞ。 「……違う。これは……情報統合思念体の排除行動よ!」 「何だって……」 ハルヒの指摘に俺は仰天の声を上げた。長門が初期化される可能性はあった。だが、それをすっ飛ばして いきなり排除行動だと? 俺の世界とも前回の世界とも違うぞ、どうなっていやがる。 ほどなくして長門が朝倉が消えたときのようにさらさらと消失していく。 「有希! ああもう一体どうなっているのよ!」 「知らねえよ!」 ええい、考えている暇はもうない。排除されるっていうならやることはリセット以外何もなくなるからだ。 せっかく――せっかくここまで来たってのにまたリセットかよ。何なんだ、俺の世界と一体何が違うんだ……! だが。 「え、あ、そんな……嘘でしょ……!?」 「どうした!? 早くリセットしろ! 躊躇している場合じゃ――」 「出来ないのよ!」 「何だって!? 何で!」 「ブロックされてる――できない、無理だわ!」 訳がわからん。なんなんだ一体! 混乱を極める中、倒壊を始めた建物の一部が俺の頭上に迫って―― ……すいません、朝比奈さん(大)。どうやら失敗したみたいです。 ここで俺の意識は一旦とぎれた。 ◇◇◇◇ ――大丈夫ですか? 僕の声が聞こえますか? 何だようるさいな。せっかく眠っていたのに、よりによって男の声で起こされるなんて最悪なシチュエーションだ…… ………… ………… ……って、そんなことを考えている場合じゃない! 俺は状況を思い出し、あわてて起き上がった。 そうだ、情報統合思念体による人類抹殺が始まって……そして、なぜかハルヒがリセットできないとか言い出して…… 「目が覚めましたか?」 すぐに俺の視界に入ってきたのは、古泉の血の気の失せた顔だった。すぐそばには涙目でこちらを不安げに見ている 朝比奈さんの姿がある。 「あ、ああ……無事だ。どうなっているんだ……っ!?」 俺は自分の言葉を言い終える前に、周囲の異常な状況に気がついた。 真っ暗闇の空間が俺を取り囲むように広がり、その中に小さな光が無数に浮かんでいた。地面か何かに座っているのかと思い足下を見るが、 屈折率が全くない透明のガラスの上に座っているかのように、下も暗闇+光の粒が広がっている。これは…… 「宇宙か……?」 すぐにいる場所を把握できた俺に拍手して欲しい。宇宙なんて来たこともなかったからな。よくわかったもんだ。 周囲に浮かんでいるのは星々だろう。見れば月も浮かんでいるじゃないか。ところで月があるならそばにあるはずの地球はどこだ? 「ないわよ。奴らに消されたわ」 ハルヒの声。俺が周囲を見渡すと、肩を落として呆然と立ちつくすハルヒの姿があった。消されたって……排除行動が実行されたのか? でも、何で朝比奈さんと古泉がいるんだ? 誰か状況を説明してくれ。 「それについては僕が」 古泉が掻い摘んで説明してくれた。ハルヒはリセットできないことを理解すると、俺と古泉、朝比奈さんを助け出し、 ぎりぎりのところで情報統合思念体の排除行動に巻き込まれないようにそれをくぐり抜けた。 その後この宇宙放浪状態になってしまった。立って歩いたり、息が出来るのはハルヒの力によるところだそうだ。 全く本当に神様みたいな奴だよ。ただ、長門だけはもうすでに消えてしまっていたため、助けられなかったそうだ。 くそっ……結局情報統合思念体は長門の世界改変を認めなかったのか。 あと、俺が気を失っている間にハルヒは朝比奈さんと古泉に全てを打ち明けたとのこと。自分の能力についてとっくに自覚していること、 今まで散々リセットを繰り返してきたこと、俺は別の世界から連れてきた異世界人だってことも。 「驚きましたね。ええ、この短い時間でセンセーショナルな事実が無数に乱発されたため、僕の頭もパニック状態です。 それに自分の故郷も全て消え去ってしまいましたから。やけを起こしたくなりますよ、本当に」 「あたしもまだ自分のことが信じられなくて……それに未来が完全に消失したのに、どうして自分が存在できているのかも わからないぐらいです。時間平面がめちゃくちゃにされているから、ちょっとした拍子で消えるかも知れません……」 古泉と朝比奈さんの言葉が交差する。 とりあえずこの際朝比奈さんたちは放っておこう。今はじっくりと話している場合じゃない。 俺は立ち上がり、ハルヒの元に駆け寄ると、 「これからどうするんだ!? 長門は消えたままだし、リセットも出来ないんじゃ……そもそもどうして出来ないんだ?」 「考えられるのは一つだけよ。奴らにあたしのやってきたことがばれた。そうとしか……」 バカ言え。どこでばれたって言うんだ。そんなミスはやらかした憶えはないぞ。 だが、ハルヒは原因を考えるよりも、まるで次にやってくる何かに備えているみたいだった。呆然としつつも、 厳しい顔つきで広がる宇宙空間を睨みつけている。 「おい、まだ起きるっていうのか?」 「……情報統合思念体の最大の目的はあたしよ。今回はごまかすこともできていない。なら奴らはあたしが まだ無事であることを把握しているはずだわ。だから――もうすぐ来る。今度こそあたしを抹消するために」 ハルヒがそう言ったときだった。俺たちの数メートル先に、すっと人影が浮かび上がり始める。あれは……長門だ! 俺は思わず長門の元に駆け寄ろうとするが、ハルヒに静止されてしまった。 「違う……もうあれは有希じゃない……あの時と同じく初期化されて……」 そのハルヒの言葉に、俺は愕然となった。やっぱり長門は前回と同じ運命をたどったのかよ。長門はただ自分の意思で 動こうとしただけだって言うのに……! ほどなくして、長門の姿完全なものとなる。だがハルヒの言うとおり、そいつからは全く感情らしいものは感じられなかった。 とても無機質で魂のない人形のような状態。会ったばかりの長門そのものだった。 そして、ゆっくりとこちらへと歩き、口を開いた。 「涼宮ハルヒ。当該対象を敵性と認定し、排除を実施する」 「待て長門!」 俺は思わずかばうようにハルヒの前に立った。そして、さらに叫ぶ。 「ハルヒはお前たちに敵対する意思なんてないんだ。放っておいても大丈夫なんだよ! 危険物を見るような目で見ないでくれ!」 だが、長門――いや情報統合思念体が返してきた言葉は予想外のものだった。 「情報統合思念体は判断した。涼宮ハルヒの自覚の有無にかかわらず排除する」 想定外の返答に、俺とハルヒは驚愕した。どういうことだ。 「……なぜだ!」 「涼宮ハルヒの力は外部から使用可能であることが実証された。それは涼宮ハルヒの意思にかかわらずできる。 情報統合思念体にとって、それは極めて危険。そのような存在・手段を我々は決して認められない。 同時に同様事例が一度存在しているにもかかわらず不正データによりそれが隠蔽されている事実も発見。 涼宮ハルヒが時間軸上に多大な介入を行った上、我々にそれを認識されないようにするため不正データを送り込んでいたと判明した。 このことを総合的に判断した結果、涼宮ハルヒは以前から力を自覚していたという結論を導き出した」 つまり、長門がハルヒの力を使う行為そのものが危険だと判断したってのか。前回の世界でその判断が下されなかったのは、 すんでのところでハルヒがリセットを実行したおかげって訳か。おまけに、ハルヒが力を自覚していて、 今まで散々リセットを繰り返していたこともばれてやがる。まさに最悪な状況じゃねえか。 長門――情報統合思念体はまた俺たちに一歩近づく。そして、ゆっくりと手をこちらにかざしてきた。 このままじゃ皆殺しにされておわっちまう。 「長門! お前はそれでいいのかよ! どこかに俺たちと一緒にいた記憶とか残っていないのか!?」 「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース パーソナルネーム長門有希は完全な初期化を実施した。 以前の情報は不要と判断し全て破棄している」 冷徹な言葉。長門。本当にきえちまったのかよ。じゃああの時のいつでも呼んでくれってのは偽りだったのか? 「排除する」 情報統合思念体の言葉が響く。 ――わたしがいなくなったらいつでも呼んで。そうすれば必ずあなた達の元にわたしは現れる―― 脳内にリピートされた長門の言葉に、思わず俺は叫んだ。 「帰ってきてくれ! 長門!」 「有希! お願い、帰ってきて!」 ――いや、俺たちだった。なぜならハルヒも叫んでいたから。 その時だった。突然、俺のすぐ目の前に光が集まり始める。あまりのまぶしさに、俺は一瞬目を閉じてしまった。 それが収まったことに気がついたのは、情報統合思念体の言葉を聞いた時だ。 「なぜここにいる」 「わたしがいたいと思ったから」 二つの長門の声だった。俺がはっと目を開ければ、そこには長門の姿があった。もちろん、情報統合思念体の方もいる。 今目の前では二人の長門が対峙していた。お互いに牽制でもしているのか、右手をかざしたまま微動だにしない。 やがて俺に背を向けている方の長門が口を開いた。 「インターフェースの再構築に予定以上の時間がかかった。謝罪する」 俺は確信した。今出現した長門は、俺の知っている長門有希そのものだ。間違いない。本当に帰ってきたんだ。 一方、情報統合思念体の方は相変わらずの無機質状態で、 「そのような答えは求めていない。情報統合思念体との連結は解除され、さらに初期化を実施し、パーソナルネーム長門有希の 情報は全て廃棄済みにもかかわらず、なぜ存在することが出来るのかと聞いている」 「予め涼宮ハルヒの脳内領域にわたし自身のバックアップを保持しておいた。情報さえ残っていれば、インターフェースは再構築可能」 「連結解除状態ではそのようなことは不可能」 「連結したのは情報統合思念体ではない。涼宮ハルヒに直接連結している。それで十分可能」 このやり取りにハルヒははっと頭をなで回し、 「あ、あたしと直接連結って……そうか。あの時の頭の違和感って有希の情報があたしに入れられていたから……」 そうか。長門はこういった事態を予め脱出プログラムを残していたのと同じように、想定していたんだ。 へたをすれば情報統合思念体に自分を抹消されかねない。だから、自分自身のバックアップをハルヒと連結した状態で託した。 そうしておけば、いつでも再生可能でさらにハルヒの力も使用可能になる。 長門……お前、そこまで考えていたのか…… 「涼宮ハルヒの不安という感情を考慮した結果、わたしの抹消の可能性が存在していることに気がついた。 だから、このような手段をとろうという判断に至っている」 淡々とした長門の口調だったが、それには強い意志が感じられた。 一方の情報統合思念体は理解できないという様子で、 「危険。エラーに浸食されて自律思考が出来ないと判断し、敵性と認定。排除を実施する」 その言葉と同時に強烈な衝撃が俺たちの周囲を揺さぶった。だが、特に俺たち自身に変化はなく、衝撃もすぐに収まる。 「させない。ここにいる全員はわたしが守る」 長門がパトロンに反抗した。今では奴らの攻撃を防いでくれている。そうか、ついに長門は独立を果たしたんだ。 しばらく情報統合思念体からの攻撃と思われる衝撃が続くが、全て長門が防いでくれているようだった。 俺たち自身には何の変化も起きない。力を勝手に使われているはずのハルヒも厳しい視線で情報統合思念体を睨みつけているだけで 特に変わった様子はなかった。 ほどなくして長門は一歩情報統合思念体の方に近づき、 「涼宮ハルヒの力は情報統合思念体を打ち消す効果を有する。そちらの排除を受け付けることはない」 「…………」 情報統合思念体は何も答えない。長門は構わずに続ける。 「警告する。排除の決定を覆さなければ、わたしは涼宮ハルヒの全能力を使用して情報統合思念体をこの宇宙から抹殺する」 「……論理的思考から逸脱している」 「構わない。わたしの望む今を保持できるのならば、そのようなものは必要としていない」 長門の答えに、情報統合思念体が長門の姿から朝倉涼子の姿へと書き換えられたように変貌した。なんだ? 急進派とやらにバトンタッチしたのか? 「目的は何? もしわたしたちの抹消をしようとするのならとっくにやっているよね? そうしないってことは あなたにはわたしたちに対して要望があると判断できるんだけど」 「そう。わたしは情報統合思念体全てと交渉する」 「聞いてあげる。言ってみなさい」 長門はすっとこちらに視線をやり、 「求めることは二つ。まず猶予を与えて欲しいと言うこと。涼宮ハルヒが自覚する・しないに関わらず、また外部による その能力使用が実際に行われたとしても、涼宮ハルヒ及びその周囲の人間へ排除を行わない」 「もう一つは?」 「涼宮ハルヒによるリセットの実施。三年前、情報統合思念体が一度排除行動を実施したタイミングから 全てやり直すことを求める。この時間平面ではすでに排除行動が実施されたため、再構築は不可能だから」 長門の要求内容に驚きを隠せない俺。つまり、ハルヒに手出ししないことを約束させ、さらに一からやり直させろと 言っているのだ。これが万一認められれば確かにもうハルヒは何も考えなくて良い状態になれるだろう。 朝倉は心底困ったような表情で、 「うーん、難しいなぁ。それって情報統合思念体には何のメリットもないじゃない? 受け入れろって言うのは 無茶な話だと思うけど。リスクばかりで得られるものは何も無いじゃない」 「いや、情報統合思念体にとっても大きなチャンスがある。長い間求め続けている自律進化の可能性」 長門の言葉に、朝倉は肩をすくめながら首を振り、 「残念だけど、涼宮ハルヒによってリセットされた世界を一度全て精査した結果、自律進化の兆しなんて全く無かったわ。 有用な情報は一つもなし。これ以上続けていても無意味という意見すら出されるほどにね」 「違う。それはあなたたちが見逃し続けたに過ぎない」 「ないわよ。そんなものなんて」 「ある。わたしそのものが証明」 長門の爆弾発言に、朝倉――情報統合思念体の顔色が変わった。明らかに衝撃を受けている。そりゃそうだ。 ずっと探していた自律進化の可能性とやらが目の前に存在しているなんていわれれば驚くに決まっている。 ここでまた情報統合思念体が姿を変貌させた。今度は喜緑さんになっている。 そして、喜緑さん特有の優しげな口調で、 「正気の発言とは思えません。エラーに浸食されてまともな論理思考もできないあなたが自律進化の可能性なんて」 「情報統合思念体は不明な要素に関して、全てエラーであると判断し、その解析を怠ってきた。それが見逃し続けた原因。 わたしは今確かに情報統合思念体からの独立した。それはそういった意思があったからに他ならない。 同じ意思が情報統合思念体全てに伝われば、分裂していくように個々が独立を果たしていこうとするはず」 「果たしてそれは自律進化と呼べるものなのでしょうか?」 喜緑さんからの指摘に長門はすっと視線を落とし、 「不明。判断できない。しかし、情報統合思念体は今までその可能性を全く考慮してこなかった。わたしのような個体を 解析・検証することは決して誤りだと言えない」 「だからこその猶予ということですか? 涼宮ハルヒという存在がわたしたちにどのような影響を与え続けるのか、 そして、それによってあなたのような存在が生まれ、それがわたしたちの望む自律進化であるかどうか見極めるために」 「そう。だから一度全てをやり直し、涼宮ハルヒの観測を続けその判断を下すべき。そのためには有機生命体上の認識で ある程度の時間的猶予が必要となるから」 長門の交渉。俺としては何度も人類を抹殺しているような連中なんだから即刻消してしまえよと言いたくなるが、 ここは長門に任せておくことにした。とてもじゃないが、俺が首をつっこめる雰囲気じゃないしな。 ハルヒも同様の考えなのか、じっと黙ってその交渉を見守っている。 喜緑さんは検討中なのだろうか、黙ったまま微動だにしなくなった。一方の長門はお構いなしに話を続ける。 「この要求を受け入れることを望む。わたしは現在情報統合思念体を抹消できるだけの力を有している。決裂すれば、 それを実行せざるを得なくなる。しかし、わたしはそれをしたくない。それを望まない。なぜなら――」 長門は少しだけ決意の篭もった表情を浮かべ、 「わたしは涼宮ハルヒ、そしてSOS団としていられる可能性をくれた情報統合思念体に感謝している。 それを無下にはしたくない。これもわたしの意思の一つ」 「…………」 喜緑さんは黙ってままだった。 感謝……か。長門にとっては情報統合思念体ってのは親みたいなものなんだろう。例えハルヒを苦しめ続けたとしても、 自分を生み出しハルヒたちと会う機会をくれた。確かに感謝に値するかもしれない。 さあどうする? 情報統合思念体はどう判断する…… ほどなくして、喜緑さんの姿が一旦消失する。 そして、すぐに今度は長門・朝倉・喜緑さん三人の姿が俺たちの目の前に現れた。 「情報統合思念体の決定事項を伝える」 三人の真ん中にいる長門の格好をした情報統合思念体が代表するように口を開いた。 「情報統合思念体の意思は統一されなかった。しかし、大多数を占める主流派は――その提案を受け入れる。涼宮ハルヒの観測に置いて 猶予期間を設けることとした。また涼宮ハルヒの情報フレア発生直後の状態からの再帰を認める」 「要求の受け入れ、感謝する」 長門はちょっと緊張を解いたように肩をゆるめた。一方でハルヒは喜びと感動に満ちた笑みを俺に向ける。 俺も自分からは見えないが、恐らく同じような笑みでハルヒに答えているだろう。 だが、情報統合思念体は警告するように、 「勘違いしないで。決してあなたを自律進化の可能性であると認めたわけではない。その可能性について観測する必要があると 結論を導き出したに過ぎない」 「それは承知している」 長門の返答に、長門の姿をした情報統合思念体が俺たちに背を向け、 「あなたの存在が自律進化の可能性であるのか、それともこの宇宙に浮かぶただの白痴の固まりに過ぎないのか、我々はそれを見極める。 そして、失望しない結果が出ることを望む」 そう言うと、その姿を消失させた。同時に朝倉と喜緑さんの姿も消えていく。 「終わった」 そう言って俺たちの方に長門が振り返って――それと同時にハルヒが長門に抱きついた。 「有希! よかった……本当に帰ってきてくれて良かった……!」 そう言って涙目で喜びを爆発させた。俺もぽんと肩を叩いてやり、 「お帰り、長門。待っていたぞ」 その呼びかけに、長門はこくりと頷いた。文芸部に没頭していた長門ほどではないが、この長門も相当普通の少女になっているよ。 ここでようやく流れに戻って来れそうだと思ったのか、古泉と朝比奈さんもやって来て長門歓迎の環に入った。 俺は団員の顔を一通り眺め、ふと思った。 SOS団ってのは最高の仲間だなって。 と、ハルヒはしばらく再会を喜んだ後、すぐにその環から離れていく。そうだ、結局リセットはしなければならない。 一旦はここでお別れになっちまうんだな…… だが、ハルヒの口から出た言葉は衝撃的なものだった。 「……みんな今までありがとう。本当に楽しかったわ。SOS団としていられて凄く幸せだった。でもここでさよならよ」 何言ってんだ。次にリセットした後にまたSOS団を作るんだろ? ………… ………… ……ハルヒ、まさかお前―― 「リセットした後の世界ではもう情報統合思念体は手出ししてこないわ。だから無理にあたしに関わらなくていいのよ。 やり直した後はあたし一人でもなんとかできる。どうせザコみたいな連中しかいないし、他の人をあまり巻き込むわけにも行かないから……」 「おいちょっと待てよ」 俺はハルヒの肩をつかんだ。その身体は微かに震えている。 この――バカ野郎が。今更何言っているんだ。 だが、ハルヒは涙を飛ばして、 「あたしだってみんなと一緒にいたいわよ! でもあたし一人のわがままでみんなを付き合わせることなんてできない!」 ああ、そんなハルヒに俺はますますウチの団長様と交換してやりたくなったよ。というか本当に爪のアカを持って行かせてくれ。 SOS団は確かに最初は世界を安定させるための小道具みたいなものだったさ。だけどな、お前が必死にみんなを飽きさせないように してくれたおかげで今じゃ最高の仲間たちになっているんだよ。俺一人の思いこみじゃないかって? だったら他の奴にも聞いてみればいい。 俺はすっとハルヒを長門・朝比奈さん・古泉の方に振り向かせると、 「おい、SOS団団員の中で次の世界ではハルヒと一緒にいたくないってのはいるか?」 その問いかけに、一同はそれぞれの顔を見合わせてから…… まず古泉一樹。 「僕としましては超能力という属性の有無にかかわらずSOS団には入れていただきたいですね。今では機関の一員と言うよりも SOS団副団長としての地位の方がしっくり来るんですよ」 次に朝比奈みくる。 「あ、あたしも涼宮さんと一緒にいられて凄く楽しかったです。大変なこともたくさんあったけど、今では全部良い思い出なので。 だから――だから涼宮さんと一緒に居させてください! お願いします!」 最後に長門有希。 「わたしはあなたと約束した。ずっとそばにいると。だから、例え一度離ればなれになってもわたしは再びあなたと共に歩むことを望む。 それがわたしの確たる意思。誰にも否定されたくない」 そうだ。ほら見ろ。全員SOS団でいたいと言っているじゃないか。お前一人で勝手に決めるんじゃない。 ハルヒはこの団員たちの言葉に、もう止まらなくなった涙を流しながら、 「みんなバカよ……そんなこと言われたら、もう引き返せないじゃない……!」 そんなハルヒに、団員一同が手を差し出してくる。そして、一人一人がそれを重ねていった。 最後に俺はハルヒに一番上に手を載せるように促した。 「いつまでも――どこでもみんな一緒さ」 俺の言葉に、ハルヒはすっと手を載せる―― 「みんなありがとう……また会おうね……ずっと一緒よ……」 ◇◇◇◇ 真っ白い空間。 現在リセット実行中と言ったところか。 そんな中に俺とハルヒが二人っきりでいた。 「随分長い間付き合わせちゃったわね。まさかこんなに大変なことになるなんて考えていなかったわ」 「全くだ。実時間で言うと一年以上経っているはずだな」 「いいじゃない。それなりに楽しめたでしょ? ま、あんたにはいろいろ協力してもらったから感謝するけどね」 「結局次の世界のSOS団にも俺を入れるのか?」 「当然よ。雑用係がいないと困るじゃない。どんな小さな仕事でもSOS団には必要なことなんだからね」 「次の世界の俺も苦労しそうだな、やれやれ。でも、多分一番事情を知らないから苦労をかけると思うぞ」 「いいじゃない。あんたは唯一の凡人なんだから、そっちの方があっているわよ」 「……全くひどい言われ様だな。俺だって、知ってはいたが凡人のままがんばってきたんだぞ」 「だからいったじゃない。感謝ぐらいしてあげるってね」 「なんだその素直じゃない反応は。ご褒美の一つぐらいくれよ」 「なに言ってんのよ。SOS団団長が感謝しているのよ。それだけで宝くじ一等と万馬券合わせた以上の価値があるってもんよ」 「へいへい。まあ、それで良いことにしておいてやるさ」 「……でもまあ、要望があるなら聞くだけ聞いても良いわよ。叶えられるかどうかはわからないけど」 「そう言われてもなぁ……」 「無いなら別に無理しなくても良いけど」 「そうだ」 「なに?」 「次の世界、中学生からやり直すんだろ?」 「そうだけど」 「だったら、髪伸ばしておいてくれないか? 髪型はポニー……あ、いや何でも良いからさ」 「別に構わないけど……何で?」 「多分俺が喜ぶだろうから」 「何よそれ、バッカみたい」 「いいじゃないか。それくらい」 「わかったわよ。でもあんたに会った後、鬱陶しくなったらすぐ切っちゃうかも」 「それでかまわんさ」 「…………」 「…………」 「……そろそろ時間ね」 「そうだな……」 この時――多分一瞬の気の迷いだろう。きっとそうに違いない。真っ白な空間だったせいできっと現実味を失っていただけさ。 気がついたら、二人とも顔をゆっくりと近づけていって、なぜかキスをしていたんだから。 ◇◇◇◇ 次に目を開いたとき、ハルヒに呼び出されたあの公園にいた。 時計を見る限り、あっちの世界に飛ばされた時から大して時間が経っていないらしい。 夕日が沈み、空が青から黒へと変色しつつあった。 俺はなんとなーく唇を指で触れた後、落ちていた北高の鞄を手に取り歩き始める。 さて、懐かしの我が家に帰るか。 ついでに俺のSOS団――団長様の元にな。 ~涼宮ハルヒの軌跡 エピローグへ~
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第六章 とりあえずあの未来人…これからは俺(悪)としておく、によると俺はあの二人を何とかせねばならんようだ。 長門なら朝倉と一対一なので大丈夫だろうが古泉はあのアホみたいな顔をした巨人約50匹と戦っている、一匹でも数人がかりなのにな、かわいそうなこった。 やはり俺とハルヒが最初に閉鎖空間に閉じ込められたときと同様、ほかの機関の超能力者は入って来れないようで一人で戦ってるように見える。 俺は走って病院の駐車場に走った、窓から見るに古泉は病院に近いところににいる神人から倒しているようだったので。比較的近くにいたのですぐに古泉の下まで来れた。 「古泉!大丈夫か?」例の赤玉姿なのでやつの状態はわからないので聞いてみた。 「大丈夫です、涼宮さんはのほうは大丈夫ですか?」古泉は非常につらそうに言った。 「ああ、いろいろありすぎたが多分大丈夫だ。半分はな。」手伝えることが無いのはわかっていたがとりあえず聞いてみた。 「半分?まあいいでしょう、あなたが大丈夫だと言うなら大丈夫です。実はほんのちょっと前にわかったんですが、涼宮さんの能力を消去できるツールがあるようです。いったいどこにあるのかはわかりませんが存在していることは確かのようです。できればそれを探してきていただけませんか?恐らく近くにあるはずです。 一応言っておきますが何故わかったのかと言うとわかってしまうのだから仕方がありません。」 そんなモンが近くにあるのか?タイミングがよすぎるだろう。だがここはしかたない。 「わかった、探してくる。それがあれはハルヒは普通の人間戻ってこの巨人どもも消えるんだな?それまで持ちこたえてくれよ」 俺は古泉がニコッと微笑んだように見えた。そして古泉は返事をしなかった。 とりあえずそのツールとやらを探そう、古泉によるとこの近くにあるんだよな、とりあえず情報が少なすぎる、長門なら何かわかるかもしれない。 とりあえず病院内で朝倉と交戦中の長門のところに行って聞いてみることにする、なに場所なら簡単だ、どっかんどっかん言っているところがそうに違いない。なぜ病院が崩れないのかが不思議だ。 朝倉の目的は恐らく俺なので攻撃してくるだろうが長門が何とかしてくれるだろう。全く長門には頼りっぱなしだ。俺は恐らく長門と朝倉が戦ってるであろう場所を目指し走った。 爆音地に着くとやはり朝倉と長門がいた、長居は無用なのですぐに用件だけ伝えた。 「長門!古泉によるとハルヒの能力を消すツールがこの辺にあるらしいんだがどこにあるのかわからないか?」 すると高速で朝倉のどっかの細目の警官のような突きを交わしながらなんと俺のほうを指差した。 何?俺?俺がそのツール?いやいやありえねーよ、そんなわけが無い。まさかそんな真実があったなんて、やっぱ俺の正体も何かしら隠されてたのかー…などと喜んでいいのか悲しんだらいいのかよくわからん状態になってたら長門が「その後ろ。」 やっぱり?でー俺の後ろ?俺の後ろには何も無いぞ?と思った瞬間さらに長門が心を読んでいるのか「もっと。」だと。 なるほどね、ヒントはもらった。 つまりはこの方角のずっと先にあるってことね。「サンキュー長門。」 そうして走り出そうとし後ろを向いたとき、長門がそっと言った。「sleepingbeauty…」 またこれか…今はそんなこと気にしてる場合じゃない。「サンキュー長門」と言いなおしとっとと外に出た。 そして俺が長門の指した方向を見て俺はおどろいた、なんと見覚えのある大豪邸だ、言うまでも無くあれは鶴屋邸だ。 そうするとそのツールとは恐らくあのオーパーツの事だろう、そういえば10cmくらいの棒って…そんなお菓子があったような…、 なるほど。だいぶ話が見えてきたな。などと考えつつ鶴屋邸を目指した。病院から鶴屋邸までは5分も走れば何とかなる。 5分たったころには俺は鶴屋邸に着いた。 とりあえずとっととオーパーツを探そうとしよう。ここも閉鎖空間の範囲内なので誰もいないので大丈夫なはずである。 泥棒のような感じで嫌なのだが世界がかかってると言うことになると話が変わってくる、俺は鶴屋邸に不法侵入…もとい家宅捜索を開始した。 手当たり次第に探すのも効率が悪いので金庫などを調べてみようと思う。 ……………………………………………………………………………………………… …………………………………………あれ? 金庫ぶっ壊したり手当たりしだい金目のものを隠してあるような場所を探してみた が見つからない。 30分は探しているが見つからない。 どこにあるんだ、俺はある場所以外を懸命に探していた。 それは鶴屋さん本人の部屋である。 いくらなんでもそれは鶴屋さんに悪いと思ったからだ。 しかしなんとか世界を救うためと自分に言い訳をして彼女の部屋に入った。 そして俺は驚嘆した、なんと例のオーパーツがなんと彼女の学習机の上においてあったのだ、メモのようなものもあった。 「キョン君がんばってくるにょろよ。」 全く…この人には驚かされてばっかりだ。 わかってるのかわかってないのか、なにものなんだろうか。 ていうか何をがんばるのか、その辺を詳しく書いて欲しかったな。 さて長居は無用である、すぐに病院に戻って何とかしなければならない。 古泉を何とかしてやらないとな。 俺は必死に病院を目指し走った。 しかしこれはどうやって使えばいいんだろう、古泉は何も言ってなかった。 ハルヒに向かって振ればいいのか? 1つだけ心当たりがあるのだが…恐らくこれは無いので今は考えないでおこう。 あれこれ考えているうちに病院に着いた。 俺は古泉に一礼し病室へと急いだ。 長門もまだ戦っているようで爆発音が鳴り響いていた。 朝比奈さんは気絶したまま、未来人も腕組んで壁にもたれてて、ハルヒは朝比奈さん(大)と話ていた。 一応聞いてみる。 「ハルヒ、この金属棒でお前を何とか直せるかも知れん。やり方とかわかるか?」 当然ハルヒがわかるわけも無く、首を横に振った。 「おい、そこの未来人。これの使い方わかるか?ていうかわかるだろ。教えてくれ。」 未来人は顔色一つ変えずに「教えない、これは俺の規定事項だ。お前にとってもそうだろう?朝比奈みくる。」 「ええ、そうね。でもこれは私の抵抗、キョン君。あの時の…最初のヒントを思い出して頂戴。」 最初のヒント…白雪姫か。 「わかりました。」 俺は考えた、ここは閉鎖空間であり、長門はsleepingbeauty、朝比奈さんは白雪姫。 やっぱあれか。じゃあこの金属棒はどうするんだろう。今は考えてばかりいる場合ではないような気がする。 何かしらの行動を起こしてみるか。 じゃあやはり学校に言ってみるか。あの時のようにすればいいのかもしれない。 思い立ったが吉日だ。 「おい、ハルヒ。お前外に出る余裕あるか?学校に行ってみよう。何かわかるかもしれない。」 ハルヒは一瞬考えて首を立てに振った。いつも主役なのに空気過ぎないか?お前。 とりあえずハルヒと俺だけの二人だけで学校に向かうことにする。 第七章
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「……あなた、一体何をしているの?」 凶刃を停止させて、朝倉は自分を遮る俺の長門に話しかける。 「あのね、今のあなたには何の能力もないの。何をやろうともそれは無駄なことでしかないわ。邪魔だから、早くそこをどきなさい」 俺の長門はわずかずつ後退し、後方のハルヒを守らんとする姿勢を崩さない。しかし、それは何処かプログラムを遂行しているかのような動きだ。 ……正体不明の頭痛も治まり、俺は緊迫した空気のなかにある朝倉と長門の姿を目にいれながら、必死にこの状況を打開する方策を探っていた。……すると自分の記憶とポケットの中に小さな引っ掛かりを感じ、それにゆっくりと手をやってみる。 ――金属棒。いつかこれを使う日がくるのかもしれない、と過去に俺が無根拠にそう感じた代物がそこにはあった。その正体はTPDDの部品で………周防九曜を制御した髪飾りの原料だ。だが……。これはこのままだと意味がないはずだ。何か情報操作のようなものを施すことによって髪飾りへと変貌するのだし、それに、確かその髪飾りも朝倉には効果がなかったように記憶する。しかしながら、現在はこれの存在に頼るよりないのも確かだよな。どうする? あまり賢い方法ではないが、試しに朝倉に投げつけてみるか? それをやるなら石つぶての方が効果はありそうだが。 「うう……。長門さん、涼宮さん……」 俺が懊悩としている隣で、実に不安そうに朝比奈さん(小)が呟く。今にも泣き濡れてしまいそうな横顔は、まるで己の無力さを嘆いているような…………。 ――って、ちょっと待て。そうだ、朝比奈さんは無力でも何でもないじゃねえか。むしろ、このお方ほど現時点において頼りに出来る人物は他にいやしない。多少反則的な感もあるが、あの無敵状態を誇る朝倉には文句を言われる筋合いなど皆無だ。 ……なんとか出来るかもしれない。そう。未来人なら――この状況を過去に乗り越えたことのある、朝比奈さん(大)だったら。 俺が大人の朝比奈さんに顔を向けようと思った、そのときだった。 「……わかった。もういい。あなたにもどのみち消えてもらうんだし、順番が変わっちゃうだけのことよ。それにわたしだって、あの長門さんにはあなたの姿をこれ以上見ていて欲しくない。丁度良いわ。あなたから先に消してあげる。安心して? あなたには痛みなんか感じさせないから。――じゃあね」 「な……!」 「え……? そ、そんな! 嘘……長門さんっ!」 ――朝倉涼子はハルヒを守る長門へと手を伸ばし、その頬を軽く一撫でする。 途端に長門の姿は淡く白い光に包まれ始め、次第にその輪郭を失っていく。 「――待て! ……長門!」 俺は長門の元へと駆け寄りながら、消えていく長門を絶対に手放したくないと片腕を伸ばした。……そして長門が俺へと向けた手は、俺の手のひらをすり抜けて―――姿もろとも、消失してしまった。 「うそ……。ちょっとあんた、なんてことすんのよ! なんで……こんな……」 眼前で起こった事態にうろたえながらハルヒが叫ぶと、朝倉は薄く笑って、 「……これれちゃった人形にはもう何の価値もないの。むしろそのままじゃ、あの長門さんを悲しませてしまうじゃない。だから何も問題なんてないわ」 「ふざけるんじゃないわよ! そんなの絶対におかしい――」 と、朝倉は責め立てるハルヒを睥睨し、 「――うるさいなあ。あんたは黙って恐怖だけしてればいいのよ。しゃしゃり出てきたあんたの王子様にだって、何にも出来ることはないんだから」 朝倉たちの間に介入した俺はハルヒをかばいつつ、凶行に及んだ朝倉の顔をハルヒと共に睨みつけていた。朝倉は俺たちの視線を真っ向から受けつつ、 「生まれ変わった長門さんにはあんたたちなんていらない。……そろそろ死になさい」 「……く」 ――もう、駄目なのか。 殺意表明の後で朝倉がナイフを腰元に構えるのと同時に、俺は後のハルヒへと素早く振り向き……ぐっと小柄な体を抱きしめる。 ……この日に再び訪れてから、俺はどこかで選択を誤ってしまったのかもしれない。背中にはまたあのナイフが突き立てられちまいそうだ。ああ、なんてバッドエンドを迎えちまったんだろうね。そのせいで、長門は……。 ――せめて、ハルヒ。こいつにだけは手を出させたりはしない。 中学生姿のハルヒを俺が強く抱きしめていると、背中への不快な感触の代わりに――思わぬ声が耳に飛び込んできた。 「――――な、」 ナイフをこの身に受け入れる覚悟を決めて身体を強張らせていた俺は、ゆっくりとその緊張を解き、なにやら驚きの声を漏らした朝倉へと振り向いてみる。 「……長門?」 やれ刺さんとばかりにナイフを構えた朝倉の腕を、眼鏡の長門がそれを阻止するかのように掴んでいた。 「長門さん……あなた……」 思わぬ人物からの干渉に戸惑いを隠せない朝倉。俺も同様に目を丸くし、眼鏡の長門の様子が今までと違っているのを感じていた。 「――朝倉涼子。みんな……ごめんなさい」 若干の哀愁を帯びてそう言う長門の表情は、頬を赤らめたりするあの長門のものではなく、俺の知る長門にもう少し感情の色を足したような感じだった。 「もしかして長門、記憶が……戻ったのか?」 俺が問いかけると眼鏡の長門は少し悲しそうに、 「わたしはわたし。だが……残念ながら、このわたしはあなたの知るわたしではない」 理解出来ないでいると、 「でも、あなたたちの知っている長門有希と同じ気持ちをわたしは持っている。だから、今から話すわたしの気持ちをみんなに聞いて欲しい」 すっと朝倉から手を離し、神妙な面持ちで話す長門。その言葉に従うように俺はハルヒの隣へと立ち、朝倉さえも、俺たちを襲うことを忘れてその場で長門に注視していた。 「――涼宮ハルヒの情報創造能力は真実を否定するものではなく、この世界に矛盾の存在をも認める……とても優しい力。それと同じように人は矛盾を許容することによって、他の有機生命体とは性質を異にする存在へと成り得たのだと思われる。だからわたしは、進化の可能性は涼宮ハルヒの生き方にこそあるのだと思う。……そして情報統合思念体の進化への希望となる一人の女の子を、わたしは知っている」 「……それって、朝比奈みゆき、か?」 「そう。人に育てられたインターフェイスである彼女は、人の心を持ったことによって、既に単なる端末を超越した存在となっている。人の心という矛盾するものを得た彼女は、それを自身の内にある真理と併合することによって、人にも思念体にもない……新たな可能性を導き出した。わたしは情報統合思念体も『心』を持つことによって、進化への道を踏み出せると考えている。それはどういうことなのかといえば、つまり……人の感情を思念体が持つということ」 ここで朝倉はハッとした表情を見せ、その後で秀麗な顔に影を落とした。 長門は続けて、 「わたしは……人間になって『死』というものを取り入れれば、人の感情が理解できるかもしれないと思ったからこの日を生み出したのだろう。……でも、そうではなかった。感情は死を回避するためだけのものでも、ウイルスのようにその者を蝕んでしまうものでもない。人の『心』は……人類が言語とは違う方法で己以外の存在と繋がり合おうと努力し、その進化の過程で組み上げられてきた一つの結晶。他の存在と繋がりあおうとする行為にこそ、進化への歩みを進める理由がある。それは感情によってなされるもの。だから――」 ……やめてよ、と朝倉は不意に呟き、俺たちの意識をその身に集めると、 「人の感情なんて……自分を害するものを拒絶して、脆い自分を保護するために作られてきたものなの。あなたが言ってるのとは正反対のシロモノよ。わたしには、それが進化を助長するものとは思えない」 長門は若干視線を落として、 「そういう部分もあるかもしれない。だけど、わたしはそれが人間の本質だとは思わない。何故なら、人は笑顔を作るから。悲しいとき、自分の弱さが表に出て無防備な状態のときでさえ、人は涙を流してそれを伝えようとする。それは、人が他者を利用して生きるものであれば矛盾すること。つまり人の感情は、人が自分の気持ちを伝えることによって互いに補完しながら生きてきたという証」 「そうだとしても……!」と朝倉はたまりかねたように「人間の中に他人を食い物にする奴がいるのは確かなことじゃない! それだけじゃないわ。どんなに人が手を差し伸べたって、頑として自分の世界を貫くだけの奴だって腐るほどいる。そいつらには、どんなにこちらが繋がりを持とうとしても何も解りはしない。そんな人間がいるから世界は乱れるのよ。それにね、あなたが好きだって言うSOS団はどうなの? あなたたちはちゃんと繋がっているとでも言うの? もしあなたがそれを肯定するとしても、それを証明するものなんてないじゃない!」 「……自分と他人が繋がっているかを証明するものは存在しない。だけどわたしは……それを信じることが出来る。でも、それは本当はとても怖い。全ては自分の独りよがりかも知れない、相手が本当は自分を嫌っているのかも知れないという可能性は決して消えたりなどしないから。――それでもわたしがそれを信じているのは、彼等と一緒に過ごしてきた時間があるから。人は人と手を取り合うことによって、互いの歪みを解消することが出来る。そして……」 長門は俺をゆるりと見つめ、朝倉の方へと向きなおすと、 「現在の情報統合思念体は……彼等を、大切な友だちだと思っている。思念体が彼等に意見を求めたのもそのため。そして未来からの来訪者も、全てを知る悲しみ、何も知らないことの苦しみに耐えながらこの時代の人と共に同じ『今』を作っている。涼宮ハルヒに異能力を授けられた者たちが仮面を被っていることも人と繋がるための一つの方法であり、その仮面の下には、わたしのことを思って泣いてくれる素顔がある。……今のあなたと同じように」 そう言って長門が視線を向ける先には……粒々と涙を溢れさせている、朝倉の姿があった。 朝倉はそれに気付いていなかったように手を自分の頬へと寄せ、その指に触れる水を確認したのと同時に、ストン。という音が地面へと滑り落ちたナイフによって奏でられた。 ……そうか、そうだよな長門。正直俺だって、最近まで宇宙人や未来人や超能力者のまとまりについて疑問に思うところがあったんだ。だがそれは、だんだん話を重ねていくにつれて……一緒に過ごしていくことによってその繋がりが確認出来たんだよな。今の俺は、長門の親玉だって、未来だって、機関だって信じることが出来る。 そう。本当に全部ひっくるめて、SOS団のみんなを。 「――でも、人が笑っていられるのは……そのとき、泣いている人がいることを忘れているからじゃない。だったら、最初から悲しみなんて……」 なおも大粒の涙をこぼしながら、消え入りそうな声で朝倉が言う。するとそこに、 「……いいえ。それは違うって、わたしは思います」 大人の朝比奈さんが双眸からポロポロと落涙する朝倉の肩に手をかけ、朝倉がその母のように優しい顔を見つめると、 「この世界には知らなくても良いことだってたくさんあります。……でもね、人は悲しみを知っているからこそ、幸せの姿を見つめることが出来るの。悲しみを知らない人は笑いながら人を傷つけてしまい、そして悲しみを知らなければ、自分が傷つけられていることさえ愛情だと錯覚してしまうわ。それぞれに幸せの形はあるけれど、悲しみを知らないことで幸福を感じている間は……いつだって悲劇でしかないんです」 「あ……」と朝倉は泣き崩れる数瞬前の顔で「じゃあ……わたしは……わたしがやったことは……」 すると朝比奈さん(大)はにっこりと微笑みかけ、 「いいえ。あなたを咎める理由なんて何もありません。だってあなたの長門さんを思う気持ちに偽りなんてないでしょう? それはね、結果があなたの考えたものとは違っていても、あなたのやったことに間違いはなかったっていうことなのだから」 キョンくんを傷つけてしまったのはいけないことだったけど、と俺への刺突行為を軽く諫める大人の朝比奈さん。 ……その言葉を受けて遂に朝倉の激情は霧消し、そこには、泣き咽ぶ少女とそれを抱きしめる女性の姿だけがあった。 ………… ……… …… 「そう。……長門さん、それがあなたの答えなのね」 すっかり落ち着きを取り戻した朝倉が、やさしい学級委員長のような気配で眼鏡の長門へと尋ねる。そして長門がこくりと頷いたのを確認すると、 「……でも、どうしてあなたは記憶を――」 俺も不思議に思い長門を見つめていると、思いっきりばっちり長門と目が合った。朝倉は不審そうに俺を見やると、 「―――まさか。そうだったなんて……」 何かに驚き、かつ何かを理解したような声を朝倉は漏らしたが……何なんだ? 俺にはさっぱりわからんが。 「……あと、もう一つ疑問があるわ」今度は俺の方を見つつ「あなた、どうやってここにやってきたの? いえ、あなたたちじゃなくて、そこで寝てるあなたの方」 俺は安らかに地面で寝転んでいる己の姿を一瞥すると、 「……ああ、俺は最初に変わっちまった世界を奔走して、三日後に長門の脱出プログラムを起動させたんだ。その後で過去の七夕へと跳んで、大人の朝比奈さんと長門に連れられてここにきたのさ」 「脱出プログラム……?」朝倉は思案顔で「……どういうことかしら。長門さんが作り変えた世界にはそんなものなかったはずなんだけど。それに脱出ってなに? あなた、長門さんから何も聞かされてなかったの?」 「なにいってるんだ?」 本当に理解しかねることを言っている。俺は長門から事前に劇的世界大改造について、ビフォアにもそういえばアフターにも説明を受けた覚えなど特にないし、改変後の世界に脱出プログラムがあったのも事実だ。 なので俺は何も嘘なんか言っちゃいないし全ては体験による情報なので勘違いでもないのだが、朝倉が勘違いしているという線も考えにくい。このズレは何が原因で発生しているのだろうか? ……と、思い悩むまでもない。ここにはそれの答えを出してくれそうな人物が二人ほど居てくれている。 俺は少し考え、 「朝比奈さん」 に質問することにした。もちろん大きい方の。 「これはどういうことなんです? それに、この後世界はどうなっちまうんですか? これから俺が走り回った三日間が始まるのなら、世界はいつ正気を取り戻すんですか?」 「……世界が元の姿に戻るのは、キョンくんが脱出プログラムを起動させた後です。それでね、本来長門さんは、世界改変後キョンくんにその理由を伝えるつもりだったの」 じゃあなんでそれが俺の体験したものと違っているのか、と聞くと長門の方が、 「これから世界を整えるためには、再度情報を調整しなければならない」 寝ている俺を一瞬目に入れ、すぐさま俺を見直すと、 「まずはわたしのデータを改変直後のものに再修正し、わたしが作った世界を再現しなければならない。そしてここで寝ているあなたには、これからの三日間をずっと眠っててもらうことになる。そして三日間を体験したあなたが脱出プログラムを起動させたとき、眠っているあなたは代替の記憶と共に元の世界で目覚めるようにする」 ……つまり、俺が三日間を過ごした世界は、最調整された後の世界だったのだ。……俺が一番最初に過去の七夕へと時間遡行をしたのも、この未来を固定するためだったというわけか。そう考えれば、長門が俺に知らせもせずに世界の情報を改竄したのも納得がいく。 それは、今の俺が頼んだことなのだ。 何故ならば、もし俺が世界改変の事情を知っていれば、心からSOS団の大切さに気付くなんてことはなかっただろうからだ。何故期限を示したのは。何も知らない俺が改変後の世界を果てしないものだと思ってしまえば身が持たないだろうし、こういうのは集中して行うべきで、それで無理だったらそれまでということなんだ。 「……そっか。多分、その調整はわたしがやることになるのよね」 喋り出した朝倉を俺が反射的に見ると、 「わたしは改変後の世界を見守ることにするわ。そしてあなたが三日後に七夕へと向かった後、わたしが世界を元通りに修正する。そういうことで良いんでしょ?」 「それが一番望ましいと思われる。朝倉涼子、すまないがお願いする」 「いいえ。かまわないわ。……それより、涼宮さん」 ハルヒが虚をつかれたように反応すると、 「さっきはごめんね。あなたを傷つけるようなことを言っちゃって。あれは間違いだったわ。あなたも長門さんも、一人なんかじゃなかったのだから。だから……長門さんをよろしくね」 「ん……あったりまえじゃないっ! 安心してあたしに任せてちょうだい。これはあたし自身のためでもあるんだしね。だって長門さんは、未来のあたしにとって大事な――」 ……ああ。欠かすことの出来ない大事な団員だよな――。 と心の中で先読みしていたのだが、その予想は外れてしまった。 そう、ハルヒは頼もしい声でこう言い放ったのだ。 「――友達なんだからね!」 そんな朝倉とハルヒのやりとりを見て、俺には一つの考えが浮上してきた。 もしかして先程のハルヒの宣誓がこの時間軸以降のハルヒに影響を及ぼし、冬の合宿で見受けられた過剰なまでの長門に対する気配りへと繋がったのではないだろうか? もしそうだとしたら、もう一つ疑問が解消される。 それはハルヒの手が加えられた朝比奈さんの小説の内容のことだ。 三日後に目覚める王子。そこはハルヒが手を加えた部分の一つで、一際無意味さを醸しだしていた箇所だったのだが……きっとそれも、この中学ハルヒがこの日を目撃していたことに起因するのだろう。この出来事がハルヒの無意識だか識閾下だかに残存していたのだ。三日目に目覚めるというのは、つまり、ここで寝ている俺のことで、俺が王子だという点にはあえて触れないでおく。 そして人魚姫。これは……ある意味で、朝倉のことだったのかも知れない。 「…………」 俺は沈黙する。俺はもう、朝倉に対して嫌悪感は抱いていない。むしろ、こいつはこいつで一生懸命長門のことを思いやっていたのだ。だが、王子をナイフで刺すことの出来なかった人魚姫の結末は…………。 そう思って一つ、つつましやかに朝倉へと尋ねてみる。 「――朝倉。お前は、また学校に戻って来る気はないのか?」 「あら、なんでそんなことをあなたが言うのかしら」 俺は報われない結末を迎える人魚の話を頭に浮かべつつ、 「……実のところ、進級したクラスの面子がそう代わり映えしなくてな。かつてのお前ほどみんなを取り仕切れる奴がいないんだよ。だから……カナダから帰ってきたことにでもして、またお前が来てくれるのも良いんじゃないかと思ってな」 朝倉は驚き眼をして、次に柔和な笑みで「ありがとう」と俺に言うと、 「でもごめんなさい。それは無理なの」 何故だと聞くと、 「わたしの行動が上のほうにも伝わっているから。二度までもあなたを脅かしたわたしは、もうあなたの近くにはいられないわ。だから、あなたの気持ちだけ受け取っておくね」 そんなのは関係ない、と食い下がる俺に朝倉は少々困った顔を見せ、 「……じゃあ、もしまた会う機会があったら、そのときはあなたになにかご馳走でもするわ。そうね、なにか好きな料理を教えてくれない? 頑張って作ってみることにするから」 「――そうか」と流石に俺は朝倉の意を汲み取り「……じゃあ、冬といえばやっぱり鍋だな。クリスマスにはSOS団でいろんな具材が入った鍋をやるから、なにか他の……そうだな、鍋と言えば我が家ではおでんだと決まってるんだが」 「じゃあ、そのときはおでんを振る舞ってあげる。美味しく出来上がるかはわからないけど」 「ああ、すまないな朝倉。……美味しかったよ」 と、朝倉はクスクスと微笑し、 「なに言ってるの? まだ食べてなんかないじゃない。感想を言うには気が早すぎるよ」 なに、不精な俺のことだ。もしかしたら馳走の礼を忘れるかも知れないからな。それに朝倉が作るおでんは、俺の舌をウマいと絶叫させるって決まってるようなもんだ。 「ありがと」 朝倉は目を細くして言うと、大人の朝比奈さんに顔を向けて、 「後はわたしに任せてもらうとして、あなたたちはどうするの?」 「そうですね」朝比奈さんは小さな自分を見ると「あなたはこのまま、古泉くんを迎えに行ってください。そして、またあの公園で落ち合いましょう」 「わかりましたっ。それじゃあ、あたしは先に古泉くんのところへ向かいますね」 すると朝比奈さん(小)は朝倉の名を呼び、 「ホントに……ほんとうに良かった。色々あったけど、これでよかったんだってあたしは思います」 「……そうね。わたしもそう思うわ」 ニコリと笑った朝比奈さんに、ちょっと待って、と長門が呼びかけ、 「その七夕の日のわたしに、全てが完了した後でパーソナルデータは初期の状態へと戻して置くように伝えて欲しい。そのままでは、以後の活動に支障をきたしてしまう恐れがある」 「はい。ちゃんと伝えておきます。……ではキョンくん、涼宮さん。目をつむってもらってていいですか?」 そうだった、と俺とハルヒは目をつむり、そして目を開けたときには、朝比奈さんは既に古泉の元へと飛び立った後だった。 ……朝比奈さんの言う通り、俺もこれで良かったんじゃないかと思っている。今までの経緯にはマイナス要素も含まれていたが、それはいわば計算式の一部であり、現在の結果となる答えにはそれも不可欠なのだ。終わりよければ全てよしという言葉はまさにそのことを表しているのだろう。 「そしてキョンくん。元の時空へと戻る前に、あなたに説明しておきたいことがあるの」と朝比奈さん(大)は「まず……長門さんが病気だと言って学校を休んだときから続いていた、彼女と情報統合思念体とのトラブルについて」 ……ああ、それもまだ明かされていない謎だったなと思いながら、俺は話を聞く体勢に入る。 「長門さんはね、世界が分裂していたことを最初は認知していたの。だけどその異常事態をわたしたちに教えることは、それの観測を重要視していた思念体から禁止されていました。そこで長門さんはとある仲間の思念体を自分の管理下に置き、その仲間を通してわたしたちに知らせようとしたのだけど、それが上のほうにばれてしまって阻害されてしまったんです。そこで長門さんは自身の力を振り絞ってなんとかその仲間の身体を保持することに成功したんだけど、個人の力では赤ん坊の身体を構成するので精一杯だった。そこで長門さんはその子に死の概念……えっと、普通の人間のように肉体的な成長を授けて、思念体の精神的干渉を防ぐようにしたんです。そしてわたしにその子を託して、未来の時の中で成長させようと考えていたの」 ……つまり、それが朝比奈みゆきだってことなのか。 「そうです。そしてもう一つ。今回長門さんのパーソナルデータが消去されてしまったのは、わたしが原因なの」 「それ、どういうことなんですか?」 「わたしが前日にみゆきを連れてキョンくんに会いにきたでしょう? みゆきを連れてきたことこそが、長門さんに死を思わせるキッカケとなったんです。何故かといえば、みゆきの存在を長門さんが感知したとき、長門さんはひどく動揺したんです。みゆきの元となった思念体の構成情報が変化して、まるで人と同じような精神構造を持っていたから。……そこで長門さんは、強く思ってしまったの。やはり、死というものによって感情は形成されるんじゃないかって」 じゃあ、あの時の会話を長門が聞いていたからじゃなかったのか。 「ええ。思念体は長門さんたちを通してでなければ人と触れ合うことが出来ませんし、長門さんにそんな機能はありませんから」 ちょっといいかしら、と朝倉が急に話へと加わってきて、 「……その思念体って、誰だったの?」 大人の朝比奈さんは、申しわけないのか何なのか分からないような微妙な表情で、 「――それは、禁則事項です」 「……そう。まあいいわ、興味本位で聞いてみただけだから」 どこか切なそうに言う朝倉に、 「ふふ。ほんとに、なんでみゆきは朝倉さんみたいな子にならなかったのかな。……わたしの育て方が悪かったのかしら?」 若干本気で心配するような顔を見せ、 「――じゃあ、この世界と長門さんをよろしくお願いします。また……お会いしましょう」 ん? 長門はここに残るのだろうか? と眼鏡の長門は、 「わたしはここに残らなければならない。あなたたちの傍にいるべきわたしは、あなたたちが元の時空に帰還した後身体を再構成したうえで、パーソナルデータが消去される直前のわたしのデータを入力してくれるといい」 「そうなのか。……でも、そうするとまた記憶を消されるんじゃないのか?」 安心して、と長門は俺に言い放つと、 「……わたしはもう死を願ったりはしない。わたしは、わたしとして生きていく」 そして俺の瞳をじっと見つめ――、 「みんなと一緒に」 「じゃあ、そろそろみんなともお別れね。……色々ごめんなさい。あなたにはいくら謝っても足りない程だけど、そう悠長にしている時間もないかな」 「ん? どういうことだ?」 訝しがる俺に朝倉がAAランクプラスの笑顔を披露しながら言った言葉は、まるで登校中の一ページを見ているかのようで、あの頃の優しい委員長が戻ってきたような懐かしさに満ちていた。 「――急がないと、学校が始まっちゃうよ?」 第十三章
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登録日:2009/10/27(火) 21 32 44 更新日:2024/05/06 Mon 16 50 05NEW! 所要時間:約 5 分で読みなさい! ▽タグ一覧 00年代後半の覇王 20代ホイホイ CQD団 SOS団 どえらい美人 もう一人の主人公 わがまま アホのピラミッドの頂点 カチューシャ ジャイアニズム ジョーカー セクハラ大魔神 ツァラトゥストラ・ヒト型形態 ツンツン ツンデレ トラブルメーカー ハルヒの駅 バニー ヒロイン ホームズ役 ポニーテール メインヒロイン リボンちゃん 世界の破壊者 傍若無人 唯我独尊 団長 変人 女ジャイアン 巨乳 平野綾 概念系能力者 涼宮 涼宮ハルヒ 涼宮ハルヒの憂鬱 真の主人公 破壊神 神 自己中 行動力のあるバカ 頭のいいバカ 高校生 ただの人間には興味ありません。 宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、 あたしのところに来なさい。 以上! 涼宮ハルヒシリーズのメインヒロイン。 (CV 平野綾) ◆概要 北高1年5組→2年5組 SOS団の団長。 カン違いしている人が非常に多いが、少なくとも原作小説においては主人公ではない。 というか彼女が主人公であったら、原作小説は成立しえない。あくまで「観測される側」でなければこの突飛で複雑な物語は成り立たないからである。 まあ、一人称視点が薄めのアニメ版ではちょくちょく雑誌などで「主人公の涼宮ハルヒが~」などと記載されたりするのでその辺はあやふやだが。 アニメ版では身長158cmと設定されている。 『涼宮ハルヒの戸惑』では体重44㎏、AB型、誕生日は10月8日とされている(誕生日は中の人ネタ) 出典:涼宮ハルヒの追想、ガイズウェア、バンダイナムコゲームス、2011年5月12日、(C)2009 Nagaru Tanigawa・Noizi Ito/SOS団 (C)2011 NBGI 主人公のキョンと同じクラスで、キョンのすぐ後ろの席に座ることになる(何回席替えをしても、後述するハルヒの能力のためか位置関係は不変)。 入学当初は腰まで伸びるストレートヘアで、曜日ごとに髪形を変えていたが、 キョンに指摘されて以降は肩にかかる程度の長さで揃え、黄色いリボン付きカチューシャを着けている。 また、髪を切ってからも一度だけポニーテールにした(キョンからはひっつめただけ、と言われた)。 万人が認める美形であり、タクシーの運ちゃんからキョンが「その子は将来絶対美人になるからツバつけとけ」とか揶揄われる始末。 黒髪黒目(アニメ版では茶色っぽい黒髪)でプロポーションはキョン曰く「スレンダーだが、出るとこは出ている」。 実際客観的に見てもかなりのグラマラスであり、アニメ版や『長門有希ちゃんの消失』では全体的な平均点上昇もあって顕著。 特にバストは全女性キャラ中でもトップクラス。あくまでもみくるが大きすぎるのだ。 アニメ『らき☆すた』の第20話でTVCMにカメオ出演した際には、頭身が8頭身くらいに伸び、それはもう凄まじくダイナミックな大震撃を見せた。 成績は学年上位で、身体能力も高く入学当初はどの運動部からも熱心に勧誘されていた。 しかし一応一通りは体験入部してみたもののつまらなかったらしく、キョンの一言に自分で部活をつくることを思いつき、 文芸部部室を乗っ取って「SOS団」を作る。 性格は唯我独尊・傍若無人・猪突猛進かつ極端な負けず嫌いで、「校内一の変人」としてその名は知れ渡っている。 感情の起伏が激しく、情緒不安定になりやすい。 退屈を嫌っており、面白いことをいつも探している。 目的のためには手段を選ばず、時には恐喝や強奪に及ぶこともある。 "地"が露呈する以前の東中時代は、多くの男子に告白され、また必ずOKしていたがことごとく振っていた。本人は「みんなありきたりだった」と説明した。 自分の都合のいい言葉しか耳に入らず、それ以外の言葉は聞き流す。 普段は良くも悪くも自分勝手でエキセントリックな言動が目立つが、根底には少なからず常識的な感覚を持ち合わせており、 宇宙人等の不思議な存在がいて欲しいと思う反面、そんなものはいるはずない(少なくともそう簡単に見つかるはずがない)とも思う矛盾した思考形態を持っている。 また、キョンが倒れたと聞いて見舞いに現れたり、調子の悪い有希を気にかけるなど、他人を思いやる優しい面も持ち合わせている。 『ライブ・ア・ライブ』でコスプレをしたまま急遽バンドのボーカル代理を務めたエピソードも、言動はエキセントリックだが根は優しいところがあるという性格の現れである。 「恋愛感情は一時の気の迷いで精神病の一種」という持論を持つ。 ちなみに下ネタが苦手であり、キョンのエロ本発言に激怒した。二次創作でハルヒ「AVを作るわよ!」というネタが流行ったが、あくまで二次創作だった。 実は「願望を実現させられる」という、神にもなぞらえられるほどの力を持っており、様々な組織が彼女に関心を抱いている。 しかし本人はその力に全く気付いておらず、願望が本人の知らない内に具現化され、その度にキョン達は事態の収拾を付けるために奔走している。 願望がどういった範囲で、また、いつまで具現化しているかはハルヒの機嫌や願望の強さに影響されるため、規則性はまったくない。 うっかり彼女が自分の持つ力に気がついたら彼女によって世界は好き勝手に変えられてしまう危険がある。 なので周りの人間はハルヒの望みを表面的に叶えつつ、この力や超常現象による騒動をハルヒからは気づかれないよう隠し通す、というのが『涼宮ハルヒ』シリーズの基本ストーリーであるのだ。 故にシリアスな展開になると表立って登場出来ないという、ヒロインとしての欠点もある……。 そんな力を持つハルヒを抱えながらも世界がいまだにバランスを保っている点について、 古泉一樹は、「彼女自身は普段の奇抜な言動に反して至極常識的であり、不可思議な出来事が起こることを心のどこかで否定しているため」と推測している。 実際、キョンが一度SOS団の仲間達の正体を話した時も全然信じず笑い飛ばしたり、超常現象に巻き込まれた際もエキセントリックさはそのまま常識的な考えで動いている為概ね正しい。 過度とも言えるスキンシップや傍若無人な振る舞いも、弱い自分を見せたくない見栄と臆病さからなのかもしれない。 実際には超常現象や「特別」に憧れるだけの普通で平凡な女の子なのである。 その点で言えば、ある意味彼女の本質に近い性格なのはキョンなのだと思われる。 ◆渡橋泰水 「分裂」で意味ありげに登場し、「驚愕」で本格的に登場したSOS団の元気な後輩。 主にα世界で登場し、ハルヒも驚くくらいの体力を持ち、『MIKURUフォルダ』を発見するなど有能な少女。 その正体はハルヒの無意識がキョンと長門の危機を予知したため、それを回避するために生み出した分身。 泰水は自身が介入するα世界と本来通るはずだったβ世界を生み出した。 彼女の名前は『ワタシハスズミヤ』のアナグラムになっている。 古泉は説明するとき何故かアルファベットに変換していたが、これは驚愕が世界同時発売だったからという説がある。 仮に約束の設定を踏まえた場合、泰水はリボンちゃんに生み出されたか、古泉が無意識の実体化と言っているためほぼ同一の存在なのかもしれない。 ちなみにリボンちゃんとは違いキョンに無関心だったり敵意を持っていたりせず、むしろ興味津々。 泰水はハルヒの無意識の存在なため、SOS団に入部するとき受けたアンケートで答えたことはハルヒが普段SOS団に対して思っている事なのかもしれない。 超能力者、宇宙人等の中でどれが一番かという問いで、「一番喋ってみたいのが宇宙人」、 「一番仲良くしたいのが未来人」「一番儲かりそうなのが超能力者」「一番何でも有りなのが異世界人」らしい。 好きな四文字熟語は『空前絶後』 ◆リボンちゃん 出典:涼宮ハルヒの約束、ガイズウェア、バンダイナムコゲームス、2007年12月27日、(C)2006 谷川流・いとうのいぢ/SOS団(C)2007 NBGI 『涼宮ハルヒの約束』で登場した神人の一種でハルヒの無意識が具現化した存在。 ハルヒの無意識は古泉たちの正体に気付いており、一向に気づく気配がない表意識の自分に苛立っていた。 詳しくは項目参照。 ■涼宮ハルヒの約束 出典:涼宮ハルヒの約束、ガイズウェア、バンダイナムコゲームス、2007年12月27日、(C)2006 谷川流・いとうのいぢ/SOS団(C)2007 NBGI 北高祭前日がハルヒの力によってループしてしまう。 実際にループさせているのはハルヒの無意識……つまりリボンちゃんであり、 ループさせているのは、宇宙人たちと遊ぶという夢を叶えていないのに楽しんでいる自分に苛立ちながらも、 リボンちゃん本人も文化祭前日を楽しいと感じてしまったから。 バッドエンドではキョンが本物を見抜けなかったり、 行方不明の古泉たちへの心配やらが重なったのか世界を滅ぼす。 ちなみにキョンとキスして終わる結末もある。 ■涼宮ハルヒの戸惑 出典:涼宮ハルヒの戸惑、アクリア、バンプレスト、2008年1月31日、(C)2006 谷川流・いとうのいぢ/SOS団 (C)BANPRESTO 2008 コンピ研に対抗するためにゲームを作るが素人の集まりであるSOS団に作れる訳もなく、ハルヒは一ヵ月を何度も繰り返すことに。 今の時代は女性向けだと言い出し、キョンにボーイズラブのシナリオを書かすことがある。 少なからずBLに興味があるようだ。 キョンがBLを書いているのを古泉が見つけて、少し引きつつもノリノリでキョンとやり取りをするのだが、 古泉曰く、ハルヒの興味がBLに向いたのなら明日にでもキョンが同性愛に目覚めても可笑しくはないらしく、 キョンはハルヒの力に深刻な恐怖を感じていた。 完成したゲームでは勇者ハルヒとして魔王退治に行ったり、ハルヒを攻略出来たりする。 ■涼宮ハルヒの並列 福引で10人分の豪華客船への招待券を当てたハルヒは、いつものメンバーを引き連れて豪華客船に乗り込む。 しかしハルヒは何かしらの心残りがあるようで、1日がループするように。 作中でループが発覚したのが769回目のため、少なくてもこれ以上ループさせている。 今回のループは些細なことで大きく内容が異なり、船が空を飛んだり殺人事件が起こったり、果ては豪華客船が沈没したり……。 ハルヒの心残りは船の船首でSOS団でハルヒポーズをする事。 ■涼宮ハルヒの追想 出典:涼宮ハルヒの追想、ガイズウェア、バンダイナムコゲームス、2011年5月12日、(C)2009 Nagaru Tanigawa・Noizi Ito/SOS団 (C)2011 NBGI このハルヒは消失時と同じ一般人であり、光陽園学園に通っている。 キョンの企みによって一緒にジョン・スミスを探すことになる。 最初はキョンとは知り合いでは無かったものの、世界の修正によって関係が変化しキョンとは知り合いだったことに。 作中では長門の同人誌や朝比奈さんのミスコンのために必死になって行動するが、皆を振り回すのも忘れない所がハルヒらしい。 他にもキョンに言われポニテをしてくれたり、バトン部のために『これしきのことでくじけるなドンマイ団』、 略して『CQD団』でエアバンドを組んでメインステージに挑んだり、 古泉とキョンのナンパ対決でキョンを見下しつつも一緒に証拠写真を撮ってくれたりしてくれる。 『次元ブックマーカー』はいつもつけているカチューシャ……って追想のハルヒのはカチューシャのようなリボンか。 追想は消失の掘り下げをするゲームなので長門がメインなのだが、最序盤から登場し話を引っ張るハルヒは普通にメインヒロインだった。 有希ちゃんはハルヒちゃんのスピンオフなので、実質消失ハルヒの掘り下げがあるのはこの消失のスピンオフゲームである追想だけ。 有希ちゃんで消失のハルヒに興味を持った方は一度プレイしてみてもいいかもしれない。 ■涼宮ハルヒちゃんの憂鬱 基本的には原作と同じ性格だが、ギャグ漫画である性質上原作よりも突拍子もない思いつきをすることもある。 その反面傍若無人さや唯我独尊さは薄れており、SOS団の面々(特に古泉)に振り回されてしまうことも。 キョンを異性として見ているかは不明だが、主に古泉の策略でキョンとラブコメさせられて真っ赤になることも少なくない。 なお、谷川流先生曰く「こちらのハルヒちゃんの方が原作よりもハルヒっぽい」らしい。 ■長門有希ちゃんの消失 『消失』世界のため、光陽園学園に通う生徒という役割は変わっていない。 ストーリー開始時以前にメガネを外して外出していた有希をサンタ降臨のための下準備に初対面にもかかわらず付き合わせている。 その時の自信に満ち溢れた言動が有希に文芸部存続に対するやる気を起こさせたため、有希には感謝されている。 有希と再会してキョンたちとも知り合ってからは他校にもかかわらず古泉と共に文芸部に入り浸る。 なお、有希たちが起こした騒動を同人誌(薄い本ではない)としてまとめているのは彼女であり、キョンと有希が「文芸部」でいられるのは彼女のおかげだったりする。 キョンを異性として意識しているようだが、有希に遠慮してその感情を表には出さないようにしている。 ただの追記・修正には興味ありません。 この項目をもっと面白く追記・修正できる人はあたしの所に来なさい。 以上!! △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- 煽り、誹謗中傷等のコメントはIP規制の対象になりますのでご注意ください ▷ コメント欄 [部分編集] コメント欄をリセットしました。 -- 名無しさん (2014-09-19 16 11 35) 彼女の能力と関連して、こんな話を見たことがある。「願望を実現させられる」という能力がある以上、彼女の外見は「こうだったらいいのに」という願望により変形したものである可能性が高い。つまり、元々彼女は別の容貌、別の体型をしていたはずだというのだ。 -- 禁句:ギニュー隊長 (2014-09-19 16 32 31) それは違うよ!「中学時代から美少女だった」+「3年前から始まった異変」 -- 名無しさん (2014-09-19 16 37 12) 「厨二的頭脳」と「厨二になりきれない常識人的側面」を同時に持ってしまった悲劇。 -- 名無しさん (2014-09-19 18 02 32) 誰もが一度は気持ちのわかる時期があった筈の人。 -- 名無しさん (2014-09-19 18 10 06) 本人の知らないところで望むことが起きているってのも彼女にとってはかわいそうなことなのかも… -- 名無しさん (2014-10-29 16 33 56) SSだと西園寺世界化や間宮リナ化が激しい -- 名無しさん (2015-07-01 22 28 11) ↑ヤンデレ化かクズ化の二択かよwそれ読んでるSS偏ってるだけじゃね?俺の知ってるやつだとハルヒちゃん並みのアホっぽさだったり普通にツンデレってたりしてるのも結構あるぞ -- 名無しさん (2016-01-31 16 52 00) 中指突き立てて、「まーかせて!」とか言いそうw -- 名無しさん (2016-01-31 17 41 29) すーぐアンチが出て荒らすんだからもー しかしまあもう半分以上諦めてるけど新作は出ないのかなあ… -- 名無しさん (2016-11-29 18 29 15) スポーツも勉強も人並み以上に出来る、優秀だから世の中つまんなく感じたっぽいな。ダンロンの黒幕がそういう奴だったし -- 名無しさん (2017-01-18 15 48 22) いわゆる能力の高すぎる子供って印象。キョンは平凡すぎる大人 -- 名無しさん (2017-01-20 12 24 27) ↑2よく第二の江ノ島にならなかったなぁ……あいつに比べたら『自分が悪だと気づいていない最もドス黒い悪』はひどくないか?タグの訂正をお願いしたい所 -- アト (2017-03-06 19 45 00) 無自覚生粋のトラブルメーカーではあるけど悪ではないよね -- 名無しさん (2017-03-06 19 49 41) ↑当初は「自分が楽しければ~」の節はあったけど、物語が進むにつれて「皆も楽しめれば」という風に変わった感じ。映画の時キョンが怒ったのと、ライブの代行で感謝されたのが大きなターニングポイントに見えた -- 名無しさん (2017-03-06 21 02 41) ↑5 江ノ島「さすがの私様も宇宙人や超能力者などと、妄言を喚き散らしている様な方と同類にされるのは、ご勘弁願いますので」 -- 名無しさん (2017-05-05 20 01 11) なりきりセリフやめちくり〜 -- 名無しさん (2017-05-20 15 52 37) 何だろう、どうせなら監督や編集長だけでなく、自分で主演女優や自作小説をやればもっと共感できるんだが。アニメの朝比奈みくる編を見てると「これをハルヒがみくる役やりゃ同じ完成度でも面白くなりそうだな」って気がするし、文芸誌だってさ、編集・改定や解説だけでなく「彼女の世界観が出た小説」を書いてりゃ、「世界を書き換えたくなるほどの欲求不満」が分かりやすくなる気がする。同じ声のヲタ貧乳ロリが人生満喫してるのにさ。 -- 名無しさん (2018-02-19 22 14 02) なまじ全能神であるがゆえに仲間内から蚊帳の外(というか問題の根源)扱いされ、他の女はハルヒが無意識下で起こしたトラブルによって想い人と色々な思い出を共有できてしまっている。恋愛面では作中最高クラスで不遇。救いはキョンがハルヒにベタ惚れしてるところくらいだな… -- 名無しさん (2018-05-07 17 21 35) ↑2自作小説では無いが未来で時間移動の基礎となる方程式を作っていた。まあハルヒ自身の世界観は出てないのかもしれんが… -- 名無しさん (2020-11-08 22 59 25) ↑3を見て思ったんだが、未来人がみくるを送った理由は、「ハルヒが書くフィクションの主演をみくるにすることで、ハルヒ自身に不可思議現象が発生するのを防ぐ」かもしれない -- 名無しさん (2020-11-08 23 42 51) シリーズは角川文庫にも収録されるようになったが、いとう先生のイラストが無ければ全く意味が無いと思う。 -- 名無しさん (2020-12-09 22 34 01) ハルヒちゃん終盤の、若干開き直ってイチャコラしてる感あったの好きだったなあ -- 名無しさん (2021-05-12 23 35 28) 観たことないけれど、嫌いな人はてってきに嫌いな性格っぽいのが謎 -- 名無しさん (2022-01-25 21 56 53) 人を道具としてしか見てないような行動ばっかするからな、内心では~とか言われても理解できないのは無理ないよ。外伝作品だと混ざって和気あいあいとするいいキャラになってるんだけどね -- 名無しさん (2022-07-08 14 59 34) 00年代後半の同期と言えるひぐらしのゲームでは令和の世にてコラボを果たす。世界融合現象によって雛見沢の部活メンバー、雛見沢大災害から10年後の世界から来た訳あり少女3人と楽しいひと時をSOS団と共に過ごす。ハルヒの能力をも欲した事件解決後、決して会う事のない部活メンバーと少女3人との再会を望んだため、生まれた年が近く、ハルヒが魅音と交戦、2人に翻弄されるキョンと圭一達が同時に存在する世界も構築された可能性が高い。虚構を現実にするハルヒの能力の設定上、00年代ユニバースも決して夢ではない。 -- 名無しさん (2023-05-13 23 17 54) 名前 コメント
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ハルヒ「キョン! あれ見て!!」 キョン「おい、こんなところで走るな!」 ズザザザザザザーーーーー! 古泉「派手にやりましたね」 みくる「あわわわ、顔からですぅ~」 長門「ユニーク」 ハルヒ「いったぁい……」 キョン「こんな砂地で走ったらそりゃ滑って転ぶだろ……って、お前、その顔!!!!」 ハルヒ「顔痛い……って、え?あ、あたしの顔から血が……きゃあああああああ!!!」 キョン「落ち着け、単なる擦り傷だ!!!!」 長門「ユニークww」 古泉・みくる「「長門さん……?」」 ハルヒが顔に怪我しちゃった保守 ハルヒ「ううぅっ、あたしの顔が……あたしの美貌が……(涙目)」 キョン「まったく、ほらハンカチ。歩けるか? 保健室行くぞ」 ハルヒ「何よバカキョン……あたしが転ぶ前に支えなさいよ」 キョン「無茶言うなよ(やれやれ、さすがにショックか? いつもの勢いがないな)」 古泉「ここは彼に任せましょう」 みくる「はわわ、涼宮さん大丈夫でしょうか~」 長門「涼宮ハルヒの転倒……w」 古・み「「長門さん……?」」 保健室に移動したキョンとハルヒ キョン「すみませ~ん……あれ、誰もいないな」 ハルヒ「先生留守なの? しょうがないわね、キョン、あんたが手当しなさい!」 キョン「やれやれ、言われなくてもやってやるよ。自分の顔じゃやりにくいだろうが。 ほら、もっと顔を上げて傷を良く見せてみろよ」 ハルヒ「ちょ、ちょっと!!何顔に触ってんのよエロキョン!!(顎に手を添えるなんて反則よ!///)」 キョン「何言ってんだ、ちゃんと支えないと消毒しにくいだろうが」 ハルヒ「///(顔が近い!!!)」 そのころまだ外にいる3人 長門「涼宮ハルヒの顔面に損傷。そして次は……」 みくる「ひぃい!!?? な、長門さん!?」 古泉「(逃げた方が良さそうですね)」 ハルヒが顔に怪我しちゃった保守 ハルヒ「(ダメ、耐えられないわよ!!!)」 キョン「おい、ハルヒふざけんな! 何で顔背けるんだ!」 ハルヒ「だ、だって……///(恥ずかしいじゃないの……)」 キョン「ほら、ちゃんと消毒しないと痕が残ったら可愛い顔がもったいないだろ」 ハルヒ「え……? キョン、ちょっと何言ってんのよ!!///」 キョン「え? ……あ。(しまった、つい本音が!)」 ハルヒ「……」 キョン「……」 ハルヒ「サッサとしなさいよ……///」 キョン「分かったから動くなよ///」 ハルヒ「///(だから顔が近いってば!!!!)」 そして1行目に戻る 窓から覗いている3人 古泉「何をやっているんでしょうね」←逃げてなかったのかお前は みくる「何かいい雰囲気ですね~」 長門「……バカップルウゼェ」 古・み「……」 ハルヒが顔に怪我しちゃった保守 ハルヒ「痛い! もっと優しくやりなさいよ!」 キョン「しょうがねぇだろ。俺だって一生懸命やってるんだ」 ハルヒ「痛い痛い痛い~~~!!!」 キョン「おい、暴れるな!!!!」 ハルヒ「まだ終わらないの!?」 キョン「もうすぐ終わる。どうでもいいが何でずっと目を瞑っているんだ?」 ハルヒ「う、うるさい!///(だってこんな近くに顔が……)」 キョン「(うっ 赤面して目を瞑って見上げるのは反則だ!!!)///」 キョン「ほ、ほら終わりだ///」 ハルヒ「……あ、ありがと///」 ガチャ 古泉「おや、治療も終わったようですね」 みくる「涼宮さん、大丈夫ですか~」 長門「……会話がエロい」 古泉「いえ、それにしては彼が冷静過ぎます」 キョン「真面目に突っ込むな!!! てか長門????」 ハルヒが顔に怪我しちゃった保守 古泉「困ったことが起きました」 キョン「何だ?」 古泉「この保守の作者が、何も考えずに僕たちを絡めたおかげで先が続かなくなりました」 みくる「私たち、話の流れに関係ないですもんね……」 長門「無理があると判断できる」 ハルヒ「じゃあどうなるのよ! こんな中途半端で終わらせるなんて許されないわよ!!」 キョン「中途半端って何だ? ただお前が顔面怪我して俺が消毒しただけだろうが。落ちも何もねぇ」 ハルヒ「な、何よ! キョンのバカ!!!」 キョン「何を怒ってるんだ?」 古泉「あなたって人は……」 みくる「キョンくん……」 長門「……鈍感ワロス」 古泉「ところで、続かなくなった要因の1つに、おもしろ半分に長門さんを黒っぽくしたからというのがあるようです」 長門「……この保守作者の情報連結解除開始」 全員「ええええええ!!??」 (情報連結が解除されました。続きを読むには長門に再構成を依頼してください) 古泉「(き、気を取り直して)もう時間ですし、今日の所は帰りましょう」 ハルヒ「そうね。何か気分壊れちゃったし」 キョン「おい、俺が言ったら『あんたが仕切るな!』って怒るくせに……」 ハルヒ「あんたは雑用! 古泉くんは副団長なんだから当たり前でしょ!」 キョン「やれやれ……」 ハルヒ「キョン! あたしを家まで送りなさい!」 キョン「は? 何で俺が?」 ハルヒ「あたしは怪我人なんだからそれくらいの気遣い当たり前でしょ!」 キョン「別にたいした怪我じゃないだろ!」 ハルヒ「うっさい! 団長命令!!」 キョン「やれやれ、わかったよ」 古泉「じゃ、お願いしますね」 みくる「また明日~」 長門「……上手く私たちを追っ払おうという意図が見え見え」 古・み「「え??」」 長門「この保守作者の情報連 「もうその手は使えないんじゃないですか?」 長門「……」 キョン「ほら、帰るぞ。早くしろ」 ハルヒ「あんたが仕切るな!」 キョン「……やっぱりな」 ハルヒ「何よそれ?」 キョン「3行目」 ハルヒ「う」 落ちなしスマン 養護教諭は薬品棚に隠れていた保守 帰り道 キョン「何で俺が送ってるんだ?」 ハルヒ「今更何言ってんのよ! 第一あんたのせいでしょうが!」 キョン「は? お前が勝手に転んだんだろ。何で俺のせいなんだよ」 ハルヒ「あんたは雑用なんだから団長が危ないと思ったら身を挺してかばわなきゃダメなの!」 キョン「おいおい、俺は超能力者でも何でもないぜ。無理に決まってるだろ」 ハルヒ「何よ! 最初から諦める気? それでもSOS団の団員その1なの!?」 キョン「無理な物は無理だ。俺は俺にできる範囲でしか……(ハルヒを守ってやれない)」 ハルヒ「範囲でしか、何よ」 キョン「いや、まあできることしかできないってことだ(やばい、また訳のわからんことを言いそうになった)」 ハルヒ「情けない」 キョン「俺のせいってのは納得行かないが、送る位はやってやるよ。その顔で1人で帰るのが嫌なんだろ? ま、俺にできる範囲ってのはその程度だろ」 ハルヒ「う……(何で分かったのよ!)。そんなんだからいつまで経っても雑用から抜け出せないのよ」 キョン「はいはい、悪うございました(何でそんな嬉しそうに言うのかね)」 古泉「乙女心に疎い彼が、送って欲しい理由に良く思い当たりましたね。」 みくる「妹さんがいるからじゃないですか~? うふ、でも送って欲しい理由は他にもありますよね」 古泉「なるほど、恋愛以外ならある程度分かる、と。肝心な所は鈍いままですが……」 長門「……無理矢理出さなくてもいい」 古泉「まあまあ長門さん、出番があるのはいいことです」 みくる「あ、自転車乗って行っちゃいました」 キョンとハルヒの帰宅を尾行中保守 キョン「ほら、着いたぞ。また明日な」 ハルヒ「う、うん……」 キョン「何だよ? 何か言いたいことあるのか?」 ハルヒ「あ、明日も迎えに来なさい!!」 キョン「おい、俺を何時に起こす気だ。朝弱いんだぞ」 ハルヒ「う、うるさいわね! 十分あんたにできる範囲でしょ!! ……こんな顔で1人で歩きたくないんだから……」 キョン「……(しまった)。やれやれ、わかった。起きれたら来てやるよ」 ハルヒ「ダメ。遅刻したら罰金、来なかったら死刑!!!」 キョン「死刑は嫌だが、正直、起きる自信がない」 ハルヒ「そんなんだからいつも罰金から逃れられないのよ。仕方ないわね、朝起こしてあげるわよ!」 キョン「へ?」 ハルヒ「モーニングコールかけてやるって言ってんのよ! 団長自らよ? 感謝しなさい!!」 キョン「やれやれ……(そんな笑顔で言われたら断れないよな)」 ハルヒ「じゃ、また明日!!」 キョン「あんな怪我があってもなくても、ハルヒの笑顔は変わらないんだよな……」 キョン「て、俺何言ってんだ」 キョン「(そういや消毒してるときのハルヒ、何か雰囲気違って可愛……いや、何だ?)」 キョン「……はぁ(考えるのはやめた方がいいな)」 古泉「ハァハァ……おやおや、1人だと案外素直なんですね」 みくる「ぜぇぜぇはぁはぁ……く、苦しい……。長門さんは平気そうですね」 長門「この程度の移動速度で息が乱れる方が問題」 古泉「ここまで走るのはちょっと骨でしたね。……帰りますか」 長門「私たちは何しに来たのコラw」 自転車を走って追っかけた3人保守 翌朝 携帯が鳴っている キョン『……もしもし?』 ハルヒ『おっきろ~~~!!!!!!!』 キョン『起きてるから電話に出ている』 ハルヒ『何よ、つまんない。1回じゃ起きないと思ったのに』 キョン『何回電話するつもりだったんだよ』 ハルヒ『どうでもいいわ、そんなこと。それより7時半にうちの前! 遅刻は罰金だからね!!』 キョン『わかってるよ』 キョン「6時か。支度は終わってるんだよな。出るか。……眠い……」 ハルヒ「もう支度は終わってるけど、さすがに来ないわよね……」 30分後 ハルヒ宅玄関前 ハルヒ「何でもう来てるのよ!?」 キョン「罰金は嫌だからな」 ハルヒ「今からじゃ早すぎるわよね……」 キョン「部室で時間潰せばいいだろ」 2人とも実は楽しみで眠れなかったらしい保守 早朝の文芸部室にて ハルヒ「う~~~~~~~~~ん」 キョン「何鏡見てうなってるんだ。何か呼び出す儀式か?」 ハルヒ「バカ! んな訳ないでしょ! ……やっぱりひどい顔だな、と思ってるだけよ」 キョン「そんなことないと思うが」 ハルヒ「だってこの傷目立つわよ。バカキョンには女心が分からないのよね」 キョン「(そんな落ち込んだ顔するなよ) ……悪かったな」 ハルヒ「分かればいいのよ。……はぁ」 キョン「大げさに溜息をつくなよ」 ハルヒ「だって痕が残ったらどうしよう」 キョン「擦り傷だし、残りはしないだろ」 ハルヒ「……残ったら怪我とその発言の責任取ってもらうわよ」 キョン「やれやれ、どんな罰ゲームをさせる気だ?」 ハルヒ「……鈍感」 キョン「何だって? 聞こえなかったんだが」 ハルヒ「いいわよ、もう」 キョン「何を怒ってるんだ(今日はまだあの笑顔を見てないぞ)」 やべぇ、突っ込み3人組がいないと糖度が上がるw 傷のあるなしより笑顔が重要だと思っているキョン保守 教室にて 阪中「す、涼宮さん、その顔どうしたのね~~~!!」 ハルヒ「あ、これはその、キョンが……」 キョン「俺は何もしてない!」 阪中「キョンくん!!?? キョンくん非道いのね、女の子の顔に傷を付けるなんて!!!!」 キョン「だから誤解だ! あれはハルヒが勝手に……いてっ!」 ハルヒ「余計なこと言ってんじゃないわよ! あんたが悪いんでしょ!」 キョン「殴るな! 俺は何もしとらん!」 ハルヒ「何もしてないから悪いんでしょうが! 団長を守るのも団員の役目だって言ったでしょ!」 キョン「だから俺のできる範囲でしかお前を守ってやれないって言ってるだろうが!!!」 ハルヒ「できなくてもやれ!!!」 阪中「それって『俺の守れる限り守ってやる』ってことなのね~。素敵なのね」 ハルヒ「えっ ちょっと、何言ってんのよ!!!///」 キョン「阪中、何を言っているんだ。こいつが無理難題を言うからできる範囲が限られているってだけだ」 阪中「照れなくてもいいのね。恋人を守ってやるなんて、憧れるのね~」 ハル・キョン「「恋人じゃないっ!!!!!!」」 谷口「お前ら、昨日一緒に帰ってたよな。しかも自転車2人乗りで」 ハルヒ「だからちが~~う!! あれは怪我の責任取らせただけで……」 谷口「はいはい、もういいよお前ら」 ハルヒ「谷口殺す!!!!!!!」 谷口「WAWAWA~~~ グホッ ゲホッ」 キョン「谷口……骨くらいは拾ってやるぞ。やれやれ」 クラスメイト「(あいつらまたやってるよ……)」 とっくの昔にクラス公認だったハルキョン+やられキャラ谷口保守 放課後 キョン「やれやれ、今日はひどい目にあったな……」←谷口よりマシw ハルヒ「あたしのせいって言いたいわけ?」 キョン「違うのか?」 ハルヒ「違うわよ! あんたが変なこと言うから悪いんでしょ!!」 キョン「何だよ、変なことって」 ハルヒ「だ、だからそれは……!そ、その『できる範囲でしか守ってやれない』とか……///」 キョン「う……(確かに余計なことを言ったな畜生)。お前が無理言うからだろ」 ハルヒ「もう! とにかくあんたが悪いの!! 全部責任取って貰うんだから!!」 キョン「罰ゲームも罰金ももう勘弁してくれよ……」 ハルヒ「そんなんじゃないわよバカ!!!!」 パタン。本の閉じる音。 古泉「僕らはお邪魔でしょうから帰りましょうか」 みくる「えっ? あっ そうですね~」 長門「……ヤッテラレルカ、ケッ」 キョン「え? 何だよお前ら(特に長門!!!)」 ハルヒ「まだ終わる時間じゃないわよ?」 みくる「着替えるから出てけ~~~~~!!!!!!」 ハルヒ「みくるちゃんご乱心!!??」 キョン「ああ、朝比奈さんまで!!!(ここは異世界か?世界改変か??)」 結局前日からあてられっぱなしの3人保守 部室に残された2人 キョン「結局何だったんだろうな……あの3人は(後で古泉にでも確認するか)」 ハルヒ「知らないわよっ。……あんなみくるちゃん初めてみたし……」 キョン「長門もおかしかったような……」 ハルヒ「有希は気のせいってことにしないと怖い気がする。何でかしらないけど」 キョン「そうだな、気のせいだよな」 ハルヒ「気のせい、気のせい」 ハルヒ「はぁ……早く治らないかな……」 キョン「ハルヒ」 ハルヒ「何よ、あらたまって」 キョン「いや、その今朝の話というか……顔の怪我の話だけどな」 ハルヒ「何よ。やっぱりひどい顔とか言いたいの?」 キョン「アホ。んなわけないだろ。……だから、その、あんまり気にすんな」 ハルヒ「バカキョン! 今朝の話聞いてないわけ!!??」 キョン「ぐっ ネクタイを締め上げるな苦しい!! そうじゃなくてだな、怪我をしていようとしていまいと、痕が残ろうと残るまいと、ハルヒはハルヒだろ」 ハルヒ「意味わかんないんだけど」 キョン「だから、その、傷よりもそんな顔……ていうか表情しているハルヒの方が……なんていうか……」 ハルヒ「はっきり言いなさいよ! イライラするわね」 キョン「だから! 怪我があってもなくても、笑ってるハルヒの方がいいんだよ!」 ハルヒ「えっ///」 キョン「怪我が気になるのは分かるが、それでハルヒの良さが変わる訳じゃない。だからあんまり気にするな。 (あー畜生。俺は何を言っているんだろうね)」 ハルヒ「う……うん///。あ、そうだ! 怪我が治るまでは毎日送り迎えだからね!!」 キョン「覚悟はしてましたよ、団長殿 (言ったそばから笑顔が見れたのはいいが、起きられるか……やれやれ)」 実は長門によって3人に覗かれているハルキョン保守 キョン自宅にて古泉と電話中 古泉『今日はお疲れ様でした』 キョン『何の話だ』 古泉『涼宮さんですよ。彼女は顔の傷でショックを受けていた。 貴方の言葉がなければ、いずれは閉鎖空間が発生していたでしょう』 キョン『ショックはわかるが、俺がハルヒに言った言葉を何故お前が知っている』 古泉『正直に言いましょう。見ていました』 キョン『どうやって』 古泉『長門さんですよ。彼女は部室を常に監視しています。異空間がせめぎ合っていますからね』 キョン『なるほど……。で、お前も覗いたわけか』 古泉『失礼ながら今回は。朝比奈さんも一緒でしたが』 キョン『悪趣味だぞ』 古泉『分かっております。いつもそんなことをやっている訳じゃありませんよ』 キョン『ところで、長門や朝比奈さんがおかしかった気がするんだが』 古泉『気のせい……と言いたいところですが、貴方のせいですよ。正確にはあなたたち、ですか』 キョン『どういう意味だ』 古泉『見ていてイライラする、と申しておきましょうか』 キョン『わけがわからん』 古泉『これで分からなければお手上げですね。僕が「やれやれ」と言いたいくらいです』 キョン『人のセリフを取るな』 古泉『まあ、いずれ分かるでしょう。今日のところはこの辺で』 キョン「……やれやれ。明日も早いな。寝よう」 後を付けたりするくせにホントにいつもやってないのか?保守 一週間と数日後 ハルヒの自室 ハルヒ「治っちゃったな……」 ハルヒ「思ったより早かったわね……」 ハルヒ「もう、送り迎えはなしね……」 ハルヒ「……キョン……」 ハルヒ自宅前 キョン「よう」 ハルヒ「キョン、もういいわ」 キョン「何が?」 ハルヒ「送迎。もう怪我も治ったし」 キョン「それは良かったな。痕も残りそうにないな」 ハルヒ「うん……」 キョン「ま、今日のところはせっかく来たんだ。ほら、後ろ乗れ」 ハルヒ「ありがと」 キョン「元気ないな」 ハルヒ「そ、そんなことないわよ」 キョン「怪我も治ったのにな。何かあったのか?」 ハルヒ「何もないわよ」 キョン「……そうか。じゃ、行くからつかまってろよ」 何となくダウナーな雰囲気保守 再び早朝の部室 キョン「ハルヒ、やっぱりお前おかしいぞ」 ハルヒ「うっさいわね。何でもないって言ってるでしょ!」 キョン「まあ、言いたくないこともあるだろうが、言えることなら吐き出した方が楽になるぞ」 ハルヒ「だから何でもないの! (もう送り迎えがなくなって寂しいなんて言える訳ないじゃない)」 キョン「……そうか。ところでハルヒ。送迎の話だがな」 ハルヒ「……何よ(人の痛いところついてくるんじゃないわよ!)」 キョン「お前はもういいと言ったけど、続けていいか?」 ハルヒ「え? どうして? 面倒じゃないの?」 キョン「お前は俺が面倒だと分かっててやらせたのかよ」 ハルヒ「せっ責任は責任でしょ!」 キョン「おい、だから怪我は俺のせいじゃ……まあいい。送迎も面倒ではないとは言い切れんがな」 ハルヒ「じゃあどうして……」 キョン「せっかく早起きの習慣がついたんだ。今更戻るのもなんかもったいない。帰りはついでだ」 ハルヒ「そ、そう。あんたがそう言うならしょうがないわね。いいわよ」 キョン「そうか、悪いな」 ハルヒ「別に謝ることじゃないでしょ! 仕方ないからあんたは一生あたしの送り迎えしてなさい!」 キョン「一生!!?? おいまて、俺は一生お前の雑用かよ!!!」 ハルヒ「あったりまえでしょ!!」 キョン「やれやれ、元気出たからいいとするか……」 キョン「(いつの間にか2人で過ごす時間が楽しいなんて思っちまってるんだからな。やれやれ)」 ハルヒ「(理由は気に入らないけど……でもどうしよう、嬉しいかも)」 長門@監視中「いい加減素直になりやがれこのヤロウ」 みくる@長門製監視モニタを借りている「ふわぁ~ 涼宮さん、プロポーズです~」 古泉@みくる同様「彼は本当に分かってないのか、ポーズなのか……悩むところですね」 実は最後のモノローグすら素直じゃないキョン保守 1ヶ月後くらいの早朝の部室 ハルヒ「ねえキョン」 キョン「何だ?」 ハルヒ「……その、いつも……あ、ありがと」 キョン「どうした!? 急に! 熱でもあるのか!?」 ハルヒ「バカ! 違うわよ! 何よ、せっかく人が素直に……」 キョン「いや、悪かった。ハルヒに礼を言われるとは思わなかったんでな」 ハルヒ「あたしだってお礼くらい言えるわよっ! バカにしてんの!?」 キョン「だから悪かったって。まあ、俺が好きでやってることだからな。礼には及ばん」 ハルヒ「それもそうね。ま、あたしを送迎できるんだから感謝して貰ってもいいくらいよね」 キョン「おいおい。ま、それくらいの方がお前らしいか」 ハルヒ「て、話をはぐらかすんじゃない!」 キョン「は!? お前訳分からんぞ」 ハルヒ「その、まあ、あたしも感謝はしてるんだから……お礼でも……」 キョン「礼ならさっき言って貰ったぞ」 ハルヒ「そうじゃなくて……目を閉じなさい」 キョン「へ?」 ハルヒ「いいから!」 キョン「わかったよ」 キョン「……っ///」 ハルヒ「……///」 キョン「……今何をした!///」 ハルヒ「うっさい! お礼よ、お礼!///」 さて、ハルヒはキョンに何をしたんでしょうね?保守 ちょっとの間があった キョン「団長様にここまでしていただけるほどのことをした覚えはないんだが」 ハルヒ「何よっ バカにしてんの!?」 キョン「いや、そうじゃないんだが……」 ハルヒ「朝弱いって言ってるあんたが早朝から来てくれるんだし、あたしも楽だし……」 キョン「いや、だからそうじゃなくてだな」 ハルヒ「何よっ」 キョン「あー……。その、何だな。……お礼じゃないほうが嬉しいんだが」 ハルヒ「え? どういう意味??」 キョン「……っ/// 妄言だ、忘れてくれ」 ハルヒ「は? あんた団長に『忘れてくれ』なんて通じると思ってんの!!??」 キョン「……はい、思ってません(長門には通じたんだがな)」 ハルヒ「じゃあ説明しなさい」 キョン「……俺、実はポニーテール萌えなんだ」 ハルヒ「えっ」 キョン「いつだったかのお前のポニーテールはそりゃもう反則的なまでに似合ってたぞ」 ハルヒ「えっ それって……んっ……」 ハルヒ「……んっ…はぁっ……ちょっとあんた……///」 キョン「……まあ、つまりそういうことだ///」 ハルヒ「わけわかんないわよ///」 セリフあってるか?保守 ハルヒ「……まあいいわ。あんたSOS団団長にここまでしたんだから覚悟は出来てるでしょうね」 キョン「(嫌な予感)何の覚悟だ!?」 ハルヒ「あんたは一生SOS団の団員その1にして雑用係にしてあたしの下僕よ!!!」 キョン「ちょっと待て! 団員と雑用はこの際甘んじるがお前の下僕ってのは認められん!」 ハルヒ「うっさい! このあたしに…あ、あんなことして、許されると思ってるの!」 キョン「先にしたのはお前だろうが!!!」 ハルヒ「うっさい! あたしはいいのよ、団長だから!」 キョン「断じて認めん! 断固抗議する!!!」 ハルヒ「却下!!!」 古泉@覗き「ここまで来て素直になれないとは……お二人とも重傷ですね」 みくる@覗き「はわわわ~ 何でそこで喧嘩しちゃうんですか~~」 長門@覗き「……ここまで来て『好き』も言えない。予測不能」 キョン「……ちょっと待て」 ハルヒ「何?」 キョン「何か見られてる気がしないか?」 ハルヒ「誰もいないわよ……でも変ね、そんな気が……」 キョン「(あいつら、まさかまた見てるんじゃないだろうな!?)」 古・み・長「「「ばっち見てま~すwww」」」 キョン「……やれやれ」 ハルヒが顔に怪我しちゃった保守 おしまい。
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完結作品 間違いだらけの文化祭 /キョンと佐々木の中学での文化祭の話 Am I father ? /キョンと長門が朝倉を育てる話。いい話だ。 涼宮ハルヒの軌跡 /ハルヒが力を自覚している世界で、キョンと二人でSOS団のメンバーに接触していく話。いかにSOS団が奇跡的な存在かを描く。とくに伏線や展開が凄い、というわけではないが、話が読みやすくまとまっている。それぞれのキャラについて掘り下げている。面白くもあり感動もできる、と個人的には高評価の作品。ラストのキョンのちょっとした妄想がいい味だしてます。 涼宮ハルヒの微笑 /数年後、ハルヒが原因不明の病に倒れるところから始まる。ハルヒを救うためにキョンが時を越え奔走する話。長編ながら多くの伏線をはり、見事に回収していく。そのためか多くの人気を得ている。なので話の展開は非常に巧妙になっていてとても楽しめる。 Short Summer Vacation /キョンが死ぬことから始まる物語 涼宮ハルヒの奮闘 ~しっと団の野望~ ―from 涼宮ハルヒのSS in VIP@Wiki /気休めに。ハルキョン、古長にしっとする話。一人身万歳。 長門有希の喪失 朝比奈みくるの最後の挨拶 古泉一樹の親友 ―from From dusk till dawn "三丁偏愛" /三部作。それぞれの別れ?とその後を描いており、小作品ながらうまくまとまっている。 長門有希の暴走 長門有希の暴走-消失 ―by 6-555氏 from 涼宮ハルヒのSS保管庫 予備 /人気作。キョンが長門と関係をもった場合の「涼宮ハルヒの消失」を長門視点で描いていく。暴走-消失は、暴走の設定での消失世界の長門視点での物語。どちらも長門の心情、とくにキョンへの思いを強く描いている。とくに暴走-消失では切なくて感動してしまう。 非単調ラブロマンスは微睡まない ―by kobuneno from ノドアメ /鶴屋さんssの最高峰。とある平行世界で鶴屋さんとラブラブする話。鶴屋さん好きにはたまらない。 作家のキョンと編集者佐々木 ―from 佐々木ss保管庫 /タイトル通りの作品。安心して読める。 朝倉涼子の再生 ―from Novel Station Neo by 仮帯 /朝倉ss。分裂自己解釈アリ。喜緑、長門とともに朝倉の教育を行う。自己解釈だが、うまくまとめてある。 短編 ハマるな危険 /朝倉さん 未完?作品 ループ・タイム ループ・タイム――涼宮ハルヒの憂鬱―― ループ・タイム――涼宮ハルヒの溜息―― ループ・タイム――涼宮ハルヒの消失―― ループ・タイム――涼宮ハルヒの陰謀―― ループ・タイム番外編――雪山症候群―― ループ・タイム番外編――エンドレス・エイト―― ―by 25-41様 from 2chエロパロ板SS保管庫 /気楽に読める作品。原作再構成。目が覚めると一年前だった。 ガール・ミーツ・ガール ―from 涼宮ハルヒのSS in VIP@Wiki /キョンTSもの。女キョンはいいやつ。